はじめに
エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィーは、筋肉が徐々に破壊され、運動障害が発症する筋ジストロフィーの一種である。
エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィーの名称は、この疾患を初めて詳しく報告した医師、Alan EmeryとFritz E. Dreifussの苗字に由来しているらしい。
両名の医師の研究により、この疾患の特徴や症状が明らかにされ、現在では遺伝子変異による原因も解明されている。しかしながら、根治療法にはまだ至っていない。
エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィーとは
エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィーは、筋肉が徐々に破壊され、運動障害が発症する筋ジストロフィーの一種である。
原因は、核膜蛋白であるエメリン、もしくはA型ラミンの遺伝子変異とされる。これらの遺伝子変異により、筋肉細胞の細胞膜に存在するタンパク質が異常となり、筋肉細胞が壊れやすくなっていると理解されている。
症状は通常、小児期に現れ、筋力低下は近位筋に強く現れるとされる。また、筋力低下に先行して関節拘縮が出現することもあるらしい。足関節背屈制限、肘・膝関節などの伸展制限を認めるようになることに加え、高頻度に心伝導障害を認め、P波の消失、PR間隔の延長、接合部調律、心房細・粗動、房室ブロックなど心房内伝導障害を認めるという。
原因
筋ジストロフィーは、筋肉の機能に関与している遺伝子の異常によって発生し、小児期や青年期に筋力低下を引き起こす。男児に発生する場合がほとんどである。
エメリー-ドレイフス型筋ジストロフィーは、常染色体優性、常染色体劣性(最も頻度が低い)、またはX連鎖劣勢のいずれかの遺伝形式をとると言われているが、全体の発生率は不明である。
女性は保因者となることはあるが、X連鎖遺伝によって発症するのは男性のみである。エメリー-ドレイフス型筋ジストロフィーに関連する遺伝子は、ラミンA/C(常染色体)およびエメリン(X連鎖)という核膜タンパク質をコードするものである。
病状
エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィーでは、筋力低下および筋萎縮が20歳までのあらゆる年齢で開始することがあり、一般的に上腕二頭筋、上腕三頭筋、および頻度は低いものの下肢の遠位筋が侵される。早期の拘縮が特徴的である。
心臓が高頻度に侵され、心房の麻痺、伝導異常(房室ブロック)、心筋症がみられ、突然死の可能性が高い。
検査・診断
診断は、臨床所見、発症年齢、および家族歴から示唆される。
検査では、血清クレアチンキナーゼ(CK)値の軽度~中等度の上昇、針筋電図で多相性電位、早期干渉などの非特異的筋原性変化があるかどうかを調べる。
筋生検で筋ジストロフィー変化に加えて、エメリン変異による場合にはエメリン蛋白の欠損を免疫染色などで確認する。A型ラミン変異の場合には、遺伝子解析によって確認する。
診断は、血清CK値の軽度上昇と筋電図検査での筋原性所見に基づいて行う。末梢血リンパ球から採取したDNAの変異解析が第一の確定検査である。遺伝子検査により診断が確定されない場合は、筋生検が実施されることがある。
治療
エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィーの治療では、症状などに応じた対症療法が行われる。治療は、基本的に拘縮を予防することである。
筋力低下が比較的軽度である場合が多いので関節拘縮に対して腱延長術が適応となる場合がある。また、適応があればペースメーカーや埋め込み型除細動器の装着を行うこともある。
あとがき
エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィーの有病率は、世界で100万人に1~3人と報告されている。日本では、100万人に1人以下と推定されている。
正確な統計データは存在していないので、実態が正確に把握されているとは言い難いが、稀な疾患であるのは確かなようだ。
現在の医療技術では対症療法しか提供できていない。医療技術の進歩によって、根治療法の登場が待たれる疾患の一つである。
【参考情報】
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版 |
エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー – MGenReviews |