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重症筋無力症とは?原因と症状は?治療法と予防策

はじめに

重症筋無力症(Myasthenia Gravis)は、神経と筋肉の接続部(神経筋接合部)に異常が生じ、神経からの信号が筋肉にうまく伝わらず、筋肉の力が弱くなる自己免疫疾患である。

重症筋無力症は、自己抗体が筋肉側の受容体を誤って攻撃し破壊してしまうことで発症する。自己抗体の標的で最も多いのがアセチルコリン受容体で85%程度、次で多いのが筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)で数%と考えられている。

特徴的な症状は、筋力低下と易疲労性である。特に眼瞼下垂(まぶたが下がる)、複視(ものが二重に見える)などの眼の症状が現れやすいと言われている。発語障害や嚥下障害などの症状が目立つ患者もいるという。

目次
はじめに
重症筋無力症とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

重症筋無力症とは

重症筋無力症(Myasthenia Gravis;MG)は、末梢神経と筋肉をつなげる神経筋接合部の疾病である。この部分にあるアセチルコリン受容体 (AChR) に対して、血液中にある自分自身の体を攻撃してしまう自己抗体が原因となる自己免疫性疾患で、指定難病(かつては特定疾患)の1つである。

重症筋無力症の国内患者数は、日本全国で20,000人以上と推定され、年々増加傾向にあるという。 重症筋無力症は、20~40代女性と50~80歳男性に多く発症するが、小児から高齢者まで幅広く患者がいる。


原因

重症筋無力症は、自己抗体および細胞性の機序を介したアセチルコリン受容体の破壊に起因する。

重症筋無力症は、シナプス後アセチルコリン受容体に対する自己免疫攻撃により、神経筋伝達が破綻することで生じる。自己抗体産生の引き金は不明であるが、胸腺の異常、自己免疫性甲状腺機能亢進症、およびその他の自己免疫疾患に合併する。

筋無力症における胸腺の役割は不明であるが、65%の患者に胸腺肥大が、10%に胸腺腫が認められる。胸腺腫の約半数は悪性である。

重症筋無力症の誘発因子として、感染症、手術、特定の薬剤(アミノグリコシド系薬剤、キニーネ、硫酸マグネシウム、プロカインアミド、カルシウム拮抗薬、免疫チェックポイント阻害薬 )がある。


症状

症状の最大の特徴 は、疲れやすいという易疲労性である。

症状は、夕方に増悪する日内変動 や週、月単位で症状が変化する場合もある。過度の疲労、ストレス、風邪などの感染症、薬剤、転居などの環境変化、女性であれば生理で症状が悪化する場合がある。

症状のタイプには、眼瞼下垂 (まぶたがさがる)や 複視 (ものが二重に見える)などの眼の症状に限局する眼筋型が全体の1/3を占める。残りの患者は、全身の筋力低下( 手足の力がはいらない、ものがもちあげにくい、しゃがみにくいなど )と疲労感(あたまが重く感じるななど)が出現する全身型になる。

注意すべきは、嚥下障害(ものがのみこみにくい )、構音障害(しゃべりにくい)や 呼吸困難(呼吸が苦しい)などの症状が出る場合である。特に呼吸困難が強くなる場合には自分で呼吸ができなくなり人工呼吸器が必要となるクリーゼという状態に陥る場合が、最も重篤である。発症した時点で、眼筋型であってもその後に全身型になる場合がある。

担当医でさえ、重症筋無力症の症状を正確に判断するのはとても難しく、特に限られた時間しかない外来診療ではどのような症状があり、その程度はどうなのか客観的に評価するのは容易ではない。 ましてや家族や同僚など周りの人からみて重症筋無力症の症状がどの程度なのかは理解してもらえず、患者は大変つらい思いをすることがある。


検査・診断

問診
一番重要なのは臨床症状
筋電図
末梢神経の連続刺激(少し痛い検査)で振幅の減弱を確認
テンシロン試験
アンチレックスという静脈注射をすることで一時的に症状が改善することを確認
採血
抗AChR抗体を測定(結果まで要1週間)
胸部CT
重症筋無力症では胸腺という臓器に異常を認める場合があるため確認の撮影

治療

治療法には、対症療法と免疫療法がある。対症療法として使われる薬剤は、コリンエステラーゼ阻害薬である。これは神経から筋肉への信号伝達を増強する薬剤である。基本的には免疫療法で、原因となる抗体の産生を抑制、あるいは抗体を取り除く治療となる。このように重症筋無力症の治療法は確立し、予後は著しく改善している。

重症筋無力症が原因で死亡するということはなくなり、平均寿命を全うできる。しかし、ステロイド治療が長期間必要であり、その副作用により QOL (生活の質)が著しく障害される場合や重篤な合併症に苦しむ場合もある。

抗コリンエステラーゼ阻害薬
筋力を改善する作用があるが、根治療法ではなく、対症的療法に相当する。決まった用法用量に従って服用するのが基本である。治療薬として、メスチノン、マイテラーゼ、ピリドスチグミン、ネオスチグミンなどがある。
副腎皮質ステロイド
最も基本的な治療法であるが、どの症例がステロイド治療の適応になるのか、またその内服量はどの程度などか統一した見解はなく、施設により大きな違いがある。
重症筋無力症の場合は少なくても年単位でステロイドを服用する必要があり、副作用を最小限に抑えるため、必要かつ可能なかぎり少量で治療できるように最大限の努力を払う必要がある。完全に効果が出るまでには数ヶ月かかるため、症状改善までは時間を要することをご理解すべきである。自己判断によるステロイドの増量、減量、中止は厳に慎むべきである。
免疫抑制剤
ステロイド治療が無効な場合や副作用が出現した場合に併用する。ステロイドほど多くの副作用があるわけではないが、長期服用による免疫力の低下の可能性もあり安易な使用は避けるべきである。治療薬として、タクロリムスやシクロスポリンなどがある。
免疫グロブリン静注(IVIg)と血液浄化療法
自己抗体に直接作用するか、あるいは除去することで作用を発揮するため、早期の効果発現が期待できる。中等症以上の全身型重症筋無力症でIVIgが使用される頻度が多い。5日間連続の点滴治療になるので入院治療が原則である。即効性はあまり期待できないが、投与から2-3ヶ月にかけて少しずつ効果が出てきて、免疫療法全体の底上げ効果に繋がる。血液浄化療法は、クリーゼ直前の状態、急速に進行する球麻痺、呼吸管理中の気管切開回避などより即効性を期待する場合に行う。抗AChR抗体が陽性の重症筋無力症ではTR350を用いた免疫吸着療法を1日おきに3回を1クールとして施行する。抗AChR抗体が陰性の重症筋無力症の場合には血漿交換を行う。
拡大胸腺摘除術
現在、アメリカを中心としてその効果を検証する大規模研究が実施中である。 胸腺腫のある場合には必ず外科で摘除術を行う。胸腺腫がない場合でも全身型、一般的には16~60歳の場合には拡大胸腺摘除術の適応が考慮される。しかし、胸腺腫のない拡大胸腺摘除術の効果については疑問があり、確実に効果があるとは言えない。すべての患者において拡大胸腺摘除術の適応を充分に検討し、そのメリット、デメリットを説明した上で最終判断を行なう必要がある。

予防

重症筋無力症は、自己免疫疾患であるため、特定の予防策は存在しない。しかしながら、下記のような行動は症状の管理や悪化を防ぐのに役立つかも知れない。

  • 感染症の予防
    • 手洗いやうがいを心がける
    • 人混みに出るときはマスクを着用
  • 禁煙
    • 喫煙は気管支や肺などの感染リスクを高める
  • 健康的な生活習慣
    • バランスの良い食事
    • 適度な運動
    • 十分な休息は全般的な健康を維持

あとがき

2006年の全国疫学調査では、重症筋無力症の有病率は、人口10万人あたり11.8人で、日本での患者数は15,100人であった。ところが2018年の調査では、有病率は人口10万人あたりの有病率は23.1人となり、患者数も29,210人に増えていた。12年間で患者数は約2倍に増加したことになる。

現在、重症筋無力症の患者数は30,000人以上と推定されており、年々増加傾向にあると報告されている。この病気は、一般的には20~40歳代の女性に多く発症するが、小児から高齢者まで幅広く患者がいる。近年では50歳以上や65歳以上の高齢者で発症する患者数も増加傾向にあると報告されており、気になるところである。

重症筋無力症の患者数が増加傾向にある理由は明確にはなっていないが、50歳以上での発症者の割合が増加していることから、高齢化社会の到来によるものと考えられなくもない。

さらに、近年の医療技術の進歩により、重症筋無力症の診断精度が向上したことも影響しているかも知れない。つまり、以前は見逃されていた可能性のある患者が発見され、患者数が増加したという考えである。

いずれにせよ、重症筋無力症の患者数が増えているのは事実である。幸いなことにこの疾患に関しては、医療技術の進歩によって治療法は確立し、予後は著しく改善している。早期発見・早期診断・早期治療を心がけることによって、この病を克服していける時代に日本社会はなっている。それは私たちにとっては幸せなことである。勿論、発症しないままで天寿を全うできるならば、言うことはない。


【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
重症筋無力症|慶應義塾大学病院 KOMPAS (keio.ac.jp)
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版

神経疾患とは、脳、脊髄、末梢神経などに障害を引き起こす疾病の総称。神経変性疾患免疫性神経疾患末梢神経疾患筋疾患など多岐にわたる。
神経変性疾患には、脳卒中、認知症、パーキンソン病、脊髄小脳変性症などがある。
免疫性神経疾患には、重症筋無力症や多発性硬化症などがある。
また、末梢神経疾患にはギランバレー症候群などがあり、筋疾患には筋ジストロフィーなどがある。