はじめに
最近、RSウイルス感染症という耳慣れない呼吸器の感染症の名前がメディアで取り上げられるようになった。病原体のRSウイルスもまた新しいウイルスなのだろうか?
実は、RSウイルスは1950年代に既に発見されおり、呼吸器感染症を引き起こすことが知られている。ウイルスの存在自体は決して新しくはなく、むしろ存在を知られてからの歴史は長い。一方で、RSウイルスは新しい変異株が出現しやすい性質を有するため、さらに感染拡大を加速させるという新しい事実も存在する。
最近、RS感染症やRSウイルスの名がメディアで取り上げられるようになった理由は、感染が急増しているからであるらしい。さらには、RSウイルスに対するワクチン開発や治療法の研究が進み、その進展もメディアの注目を集めているのかも知れない。
いずれにせよ、RS感染症に関する情報が増えているのは確かであるが、中には誤った情報も混在する。例えば、RS感染症と風疹(三日熱)を混同したかのような記載である。つまり病原体のRSウイルスと風疹ウイルスが同一であるかのような誤解を与える表現であったりする。
しかし、事実は、RSウイルスは呼吸器感染症を引き起こすのに対して、風疹ウイルスは発疹や発熱を伴う風疹を引き起こす。RSウイルスは主に呼吸器系に影響を与えるウイルスで、風邪のような症状から重度の呼吸器疾患を引き起こすことがある。特に小児や高齢者にとっては重大なリスクを伴うので注意を要する。
このように、それぞれ異なる原因ウイルスによって引き起こされる感染症は、それぞれ異なる症状やリスクがあるため、同義とは言えない。現代のネット社会では、誤った情報もすぐに拡散するので実に困ったものである。
本稿では、古いが、一方では新しいとも言えるRS感染症とRSウイルスについての正しい情報を提供したいと思う。
RSウイルス感染症とは?
RSウイルス感染症は、RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)による呼吸器の感染症である。RSウイルスは、幼児の風邪の原因になることが多く、一般的には2歳までにほぼ全員がこの感染症を経験すると言われている。
RSウイルスは、風邪のような症状から重度の呼吸器感染症まで様々な症状を引き起こし、特に新生児や乳幼児、あるいは免疫が弱い子供たちにとって、重篤になることが知られている。
RSウイルスは、風邪のような症状を引き起こすことが多く、特に季節の変わり目に多くの人が感染する。また、RSウイルスは新しい変異株が出現しやすく、それが感染拡大を加速させる。
原因
RSウイルス感染症の病原体は、RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)で、呼吸器系に影響を与えるウイルスである。
RSウイルスは、パラミクソウイルス科に属するRNAウイルスである。RSウイルスには、A型、B型、C型の3つの種類があり、A型とB型が主に人間に感染する種類であると言われている。
RSウイルスの感染経路は、飛沫感染や接触感染であり、特に、咳やくしゃみ、涙などの体液を介して他人に感染することがあるとされる。RSウイルスに感染してから約5日の潜伏期間を経て発症すると言われている。
- 飛沫感染
- RSウイルス感染者が話したり、咳やくしゃみをした際に飛んだ細かい唾液を介して感染する
- 接触感染
- ウイルスが付着したものに触れた手からウイルスが口や眼などの粘膜に入ることで感染する
- ドアノブ、パソコンのキーボード、スイッチなど日常生活で触れる様々なところが感染源となる
通常は11月から翌年1月にかけて流行すると言われてきたが、 近年では8月や9月頃からでも感染者が現れ、徐々に季節性がなくなりつつ傾向にあるという。
症状
RSウイルス感染症の症状は、風邪のような症状から重度の呼吸器疾患まで様々である。一般的な症状には、咳、くしゃみ、鼻水、発熱、頭痛などがある。小児では、急性呼吸器綜合症(ARI)や気道炎を引き起こすことがあると言われている。
一般的に、生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の乳幼児がRSウイルスに少なくとも1度は感染すると言われている。何度でも感染するが、2回目以降は症状が軽くなるらしい。
RSウイルスの感染は、特に乳幼児や高齢者、あるいは免疫力が低下している人々にとっては重大なリスクとなると言われている。小児では、重度の呼吸困難を引き起こすことがあり、高齢者では肺炎を引き起こすこともあるという。
主な症状は下記のとおりである。
- 軽症の場合
- 鼻水
- 咽頭痛(のどの痛み)
- 咳
- くしゃみ
- 微熱 などの症状が数日続く
- 重症の場合
- 強い咳
- 喘鳴(呼吸音がゼーゼー・ヒューヒューと聞こえる)
- 多呼吸
- 肋骨の下や鎖骨の間がへこむような呼吸、体全体を使った「肩で息をする」ような呼吸
- 鼻がひくひくするような呼吸(特に乳児)
- うーうーとうなるような呼吸(特に乳児)
- 呼吸困難
RSウイルス感染症の治療は、上記のように、それぞれの症状に対する対症療法が中心となる。重症化しなければ、一般的な風邪と同じように自宅で様子を見れば自然に治ることが多い。
しかしながら、重症化しそうな場合は、入院治療が必要となるので、かかりつけの医師に入院できる病院の小児科を紹介してもらい、早めに対応する方が良い。また無呼吸の症状が見られた場合も入院治療が必要となるので要注意である。
検査・診断
RSウイルス感染症の診断は、通常、問診と診察で行われる。症状や流行状況から診断することも可能である。一方、RSウイルスの抗原をチェックする簡易検査があり、広く普及しているので、必要に応じて、抗原検出診断キットを使用することもある。
特効薬があるわけではないので、軽症であれば診断を確定させることなく、通常のかぜと同様の対応をRSウイルス感染症の可能性を念頭に置きながら行うのが現状であるという。
但し、入院中の患者や乳児など、特定の場合にのみ抗原検出診断キットを用いた検査が行なわれることがあるという。
また、細気管支炎や肺炎の可能性がある場合には、胸部X線写真を撮影するという。そして、脱水などの評価のために血液検査を実施することもある。
治療
RSウイルス感染症に対する特効薬は、残念ながらまだ開発されていない。現在の治療法は、主に症状緩和のための対症療法や支持療法である。
具体的な対症療法や支持療法としては下記のようなものがある。
- 安静
- 体力を回復させ、体内の免疫システムが活性化してウイルスと戦うのを助けるためには十分な休息が必要である
- 水分補給
- 脱水症状を防ぐためには十分な水分を摂ることが重要
- 吸入薬
- 呼吸困難を和らげるために吸入薬を使用することがある
- 去痰薬
- 咳を和らげ、呼吸を楽にするために去痰薬を使用することがある
RSウイルスワクチンの開発への取り組みは行われているようであるが、現時点ではまだ利用できるものは存在しない。
RSウイルス感染症に対する治療薬の開発研究は続けられており、将来的に特効薬が開発されることが期待されている。
予防
RSウイルスに対するワクチンは現在開発中であるが、まだ市販されていない。感染を拡大させないように予防することが大切である。したがって、予防策としては、他の感染症予防と同様に、手洗い、マスクの着用、換気などが推奨されている。
RSウイルス感染症の予防策として推奨されているのは下記のような方法である。
- 手洗い
- ウイルスは手を介して広がることが多い
- こまめな手洗いが重要となる
- 咳エチケット
- 咳が出る時にはマスクをして周りの人に感染させない
- 咳やくしゃみをするときは、ティッシュや肘で口と鼻を覆うことで、ウイルスの飛散を防ぐ
- マスクの着用
- 感染者がマスクを着用することで、ウイルスの飛散を防ぐことができる
- 密閉された空間の避ける
- 換気の悪い場所ではウイルスが広がりやすい
- 換気の悪い場所での滞在は可能な限り避ける
これらの予防策は、RSウイルスだけでなく、他の呼吸器感染症の予防にも役立つ。
成人や年長児ではかぜで終わることが多く、RSウイルス感染症と気づかないこともある。したがって、流行時には新生児や乳児を感染させないよう注意を要する。かぜをひいている人にはできるだけ近づけない/人混みを避けるなどの用心が必要である。
あとがき
RSウイルスと風疹ウイルスは、全く異なるウイルスであるにも関わらず、混同されることがある。RSウイルスは呼吸器感染症を引き起こし、風疹ウイルスは発疹や発熱を伴う風疹を引き起こす。ネットで見かける情報には間違いが含まれていることもあるので、信頼できる情報源を確認することが大切である。
風疹ウイルス(Rubella Virus)は、昔から知られているウイルスで、風疹(三日熱)の病原体として知られている。風疹ウイルスは、1950年以前に既に発見されており、風疹ワクチンが開発されて以来、わが国を含む多くの国で予防接種が行われている。
風疹は、風疹ウイルスによって引き起こされる疾患で、主に発疹や発熱、リンパ腺の腫れなどの症状が特徴である。風疹は妊娠中の女性に感染すると、胎児に重大な合併症を引き起こす可能性があり、予防接種が重要視されている。
このように、RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)と風疹ウイルス(Rubella Virus)は全く異なるウイルスであることを再度、主張しておきたい。風疹に対するワクチンは開発されて広く使用されているが、RSウイルス感染症に対するワクチンはまだ開発中である。
RSウイルス感染症は、大人にも感染するが、通常は普通の風邪のような症状であるので、RSウイルス感染症であるとは認識しないことが多いだりう。だから風邪をひいた人は、新生児や乳児、あるいは免疫力の衰えた高齢者に感染させないように細心の注意を払わなければならない。無知は罪であるということを肝に銘じて、我が身の振る舞いを正したいと思う。