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心房細動とは? 原因と症状は何?診断法と治療法は?

はじめに

心房細動は、不整脈の一種で、心臓内にある「心房」が異常な動きをし、心臓本来の動きができなくなる病気である。心房が無秩序に電気活動をしてけいれんする状態を指し、その結果、規則的な脈ではなく、不規則な脈となる(不整脈)。

この状態では、心房が痙攣したように細かく震え、血液をうまく全身に送り出せなくなる。その結果、心臓の中の血液が滞って固まりやすくなり、血栓(血液の塊)ができやすくなる可能性がある。この血栓が脳に運ばれると、脳梗塞などの重大な合併症を引き起こす可能性があるとされる。

知名度の高い長嶋茂雄氏(元巨人軍監督)が、心房細動を発症し、その結果、脳梗塞を発症したことを機に、「心房細動」は「脳梗塞」を引き起こすヤバい病気であることが広く認知されることになった。

確かに、心房細動がある場合と、心房細動がない場合における脳梗塞の発症頻度を比較した場合、心房細動があると脳梗塞の発症頻度は約6倍高くなることが分かっている。したがって、心房細動の早期発見と適切な治療が重要であることが理解できよう。

目次
はじめに
心房細動とは
原因
症状
診断・検査
治療
治療方針の考え方
治療の主な選択肢
薬物治療
カテーテルアブレーション治療
あとがき

心房細動とは

心房細動は、本来は一定のリズムの電気活動で動く心房が、無秩序に電気活動をしてけいれんしている状態を指す。そのため、規則的な脈ではなく、不規則な脈となってしまう。心房細動に似た疾病として、心房粗動があるが、発生のメカニズムは両者で異なる。

心房細動を発症すると、動悸やめまいなどの症状を自覚することがある。しかしながら、類似疾病名の心室細動とは異なり、突然死のリスクが高いわけではない。

心配な点は、心房細動を発症すると脳梗塞を引き起こす危険性が高くなることである。心房細動に関連した脳梗塞は、心原性脳梗塞と呼ばれるタイプのものであり、脳梗塞のなかでも、脳の広い範囲に障害を引き起こす可能性のある危険な脳梗塞である。したがって、心房細動の治療では、不規則な脈をコントロールするという点以上に、脳梗塞発症を予防するという点が重要になる。


原因

心房細動の主な原因は、加齢による心臓の経年劣化であると言われている。

また、高血圧や睡眠時無呼吸症候群といった疾患、アルコールやストレス、肥満体形といった生活習慣に関係するものも発症の原因となることが知られている。

心臓は心筋とよばれる筋肉でできている。心臓の中は、左心房、左心室、右心房、右心室の計4つの部屋に分かれており、これら4つの部屋が規則正しい電気信号を介して適切に活動をするから、全身や肺に血液を送るポンプとしての機能を果たすことができる。心筋を収縮させるために、心臓には微弱な電気信号が流れており、電気信号を発する部位右心房の上部にあり、洞結節と呼ばれる。洞結節で発生した電気信号は、心房と心室の筋肉へと伝達されていくが、心房から直接心室へと電気信号が伝えられるわけではなく、一旦、洞房結節という中継所を通る。こうして規則正しい(一定のリズムで)電気信号は洞房結節から心室へと一方通行で伝わる。洞房結節が1回興奮することで、それに対応して心室が1回収縮する。健常人の脈拍数はおよそ1分間に60〜100回とされており、1日でおよそ10万回もの拍動になるといわれている。

心臓の構造
電気信号の流れ

心房細動を発症すると、心房がけいれんしたかのように細かく動く状態になる。原因は、電気信号の乱れである。何らかの理由により洞結節以外の部位から電気信号が発せられ、心房全体でバラバラに電気信号を起こすようになる。心房内で複数の電気信号がぐるぐると回ることで、心房の異常な動きに繋がる。

洞房結節以外に心房内で電気的興奮が起こると電気信号が一定のリズムで洞房結節から心室へと伝わらなくなる。その結果、心房で生じたバラバラな電気活動がランダムに心室に伝わり、心室の脈拍も不規則になる。

心房細動の発生機序

特に異常な電気信号を発することが多いのは、左心房にある肺静脈の付け根である。心房細動は誰にでも起こり得るもので、4人に1人は心房細動になるともいわれている。

心房細動が発症すると、心房毎分300~600回程度動くので、心房は震えた状態となり血液のよどみができて血栓ができやすくなる。一方、心室は、毎分60~200回と不規則な脈の打ち方になり、動悸や息苦しさといった症状が現れることがある。


症状

心房細動の症状としてまず挙げられるのは、動悸息苦しさである。これは心室が速く動くことによって脈が非常に速く打つ、頻脈によって引き起こされる症状である。

安静にしているときや就寝時などに突如胸が苦しくなり、場合によっては胸の痛みを伴うこともある。頻脈だけでなく脈が不規則に打つ(脈が飛ぶ)、脈がゆっくり打つ(徐脈)という場合や頻脈と徐脈の両者が現れることもある。頻脈の後に徐脈となったときにはめまいふらつきを伴ったり、ひどい場合には失神したりする。

一方で、心房細動患者のうち約4割は無症状も含め自覚症状がないという研究結果が出ている。安静時の心拍数が毎分80回以下であれば、運動や仕事において不自由を感じることは少ない。

心房細動自体は比較的よくみられる不整脈の一つであるが、心房細動を発症させる疾病は多岐に渡たる。加齢に関連した弁膜症や虚血性心疾患などの疾病により発症することがあり、高血圧や生活習慣との関わりも指摘されている。若年者であっても、甲状腺機能亢進症やストレスを抱えていると発症するリスクが高まるとされている。


合併症

心房細動自体は、死に直結するものではないが、心房細動を放置していると、QOL(生活の質)や命に関わる合併症を引き起こす可能性がある。心房細動が引き起こし得る主な合併症には、脳梗塞心不全がある。


脳梗塞

心房細動で最も気を付けるべき合併症は、脳梗塞である。心房細動患者は、脳梗塞を発症するリスクが約5倍も高まるといわれている。

心房細動を発症すると、心房がけいれんしたように震え、不規則な収縮になる。その結果、血流が遅くなり、血液のよどみが生まれやすくなって、心房内に血栓ができやすくなる。心房には左心耳と呼ばれる血液が停滞しやすい作りの部分があり、心房内血栓の約9割はこの左心耳にできるといわれている。

血栓が心房の壁から剥がれ、血流にのって体内をめぐり脳の血管を塞いでしまうことで、脳梗塞となる。脳梗塞は、脳細胞に血液を送り込むための血管が詰まり、脳細胞に血液を供給できなくなることで脳細胞が破壊される疾病でる。発症すると麻痺や言語障害などの後遺症が残る可能性があり、最悪の場合には死に至る。

心臓でできた血栓が脳へと運ばれて起こる脳梗塞(心原性脳塞栓症)は、アテローム血栓性脳梗塞(動脈硬化などの進行によって起こる脳梗塞)やラクナ梗塞(脳の深い部分にある多数の細い血管が詰まる脳梗塞)と較べて、大きな血管が突如として詰まるので影響を及ぼす範囲が多く、重症化しやすいと言われている。


心不全

人間の心臓は、一生の間に動く回数が決まっているといわれているので、心房細動によって心臓が速く動いてしまうとその分、弱るのも早くなる。毎分140回以上脈を打つ状態が長期間持続すると、心不全になる可能性が高まる。

心不全は、心臓のはたらきが悪くなることで、疲れやすさやだるさ、息苦しさなど多様な症状を呈する状態を指す。必ずしも命の危険が伴うものではないが、QOLに大きな影響を及ぼし、入院治療が必要となる場合もある。


診断・検査

心電図検査

最も基本的な検査であり、体への負担が少なく、簡単に検査できる。心電図検査の目的は、電気活動の確認である。循環器疾患と同様に必須の検査となっている。

心房細動が起きているときに検査を行えば、心電図検査で心房細動の診断が可能である。無症状でも、定期検診の心電図検査で偶然発見されることもある。P波の不在とR-R間隔の絶対的な不規則性が心電図上で発現している。

心房細動が見つかったら、甲状腺機能亢進症に罹患していないかを検討したり、心エコー検査による弁膜症の有無についても評価される。


心臓超音波検査

超音波により、心臓の収縮力、心拡大/心肥大の有無や心臓の弁の状態を確認することができる。また、心房の中に血栓ができていないかも確認できる。体への負担が少ないため、基本的な検査としてよく行われる。

しかしながら、血栓ができやすい左心房は体の表面から遠い位置にあるため、通常の超音波検査でははっきりと確認することが難しい場合がある。そのような場合には、経食道心エコー検査という、胃カメラのようなエコー装置を口から飲み込み、心臓を体の内側から観察することで、血栓の位置や大きさを確実に診断する検査が検討される。


日課の脈拍計測定期健康診断

早期発見のためには常に自分の体の状態を知っておくことが重要である。毎日、脈を測ることで、自覚症状がない者でも異変に気付くことができる。早めに発見して治療を行うことで、脳梗塞や心不全のような合併症を防ぐことができる。健康診断を毎年きちんと受け、心電図検査でなるべく早めに発見できるように努めるべきである。


治療

治療方針の考え方

心房細動自体が命の危険を脅かすものではない一方で、QOL(生活の質)を下げる症状が出たり、脳梗塞など命に関わる合併症が起こったりすることがある。そのため、治療方針は、 「脳梗塞や心不全へのリスク」と「QOLへの影響」を考慮して検討する必要がある。

心房細動患者全員が必ずしも脳梗塞や心不全、脳梗塞になるわけではない。心房細動の合併症としての脳梗塞は、なりやすい(リスクが高い)かどうかの予測がある程度可能である。その予測に用いられる指標がチャッズ(CHADS2)スコアである。具体的には下記の5項目で予測される。当てはまる数が多ければ多いほど脳梗塞の発症リスクが高いとされ、これらの項目に1つでも当てはまる場合、脳梗塞を予防するための治療を開始する必要があると判断される。

  • 心不全がある
  • 高血圧
  • 高齢(75歳以上)
  • 糖尿病
  • 脳梗塞や一過性脳虚血発作の既往歴がある

治療の主な選択肢

薬物治療とカテーテルアブレーション治療に大きく分かれる。患者個々人の生活や状態、考え方などによって選択する治療は変わってくる。どのような治療をすればよりよい生活をしていけるのかを考え、治療方針を決めたい。


薬物治療

脳梗塞発症のリスクを抑えることを前提とした上で、薬物治療の方法としては、次の2つの選択肢がある。

一つは血液をサラサラにして脳梗塞を予防するための抗凝固薬であり、もう一つはと脈拍を整える抗不整脈薬である。

抗凝固薬

抗凝固薬は、血栓をできにくくする薬と言える。心房細動で最も心配すべき合併症である脳梗塞を予防するため、血液をサラサラにして血栓ができにくくするために抗凝固薬を内服する。

高齢の患者や高血圧症・糖尿病などの基礎疾患を持っている患者では脳梗塞を引き起こすリスクが高いので、抗凝固薬の内服が推奨される。但し、副作用として出血しやすくなるため、適切な服薬指導も必要である。

抗不整脈薬

抗不整脈は、心房細動が起きている状態から正常なリズムに戻す、もしくは心房細動にならないように予防するための薬剤である。抗不整脈薬が有効な患者がいる一方で、抗不整脈薬を服用することで徐脈(極端に脈が遅くなる状態)となり、ふらつきや失神などの症状が出る場合もあるため、注意が必要である。

脈拍を整える抗不整脈薬を内服する目的は次の2つである。
(1)心房細動を止めて正常な脈に戻すこと
(2)心房細動は止めずに速い脈を遅くすること

前者の目的のためには、心臓の細胞の興奮を抑制するタイプの薬剤が用いられる。後者の目的のためには、交感神経(自律神経の1つで興奮時にはたらく神経)のはたらきを抑制するβ遮断薬や、心房と心室の電気伝導を抑制するカルシウム拮抗薬がよく用いられる。

心筋細胞の興奮を抑える薬剤であるため、副作用として心臓の機能が低下し心不全を起こすこともあり、そのほかには細胞の興奮が不安定となり重症な不整脈を起こす可能性がある。適切な服薬指導や薬剤の適切な見直しが重要である。


カテーテルアブレーション治療

薬物治療で不整脈に効果がなかった場合には、高周波カテーテルアブレーション治療を検討する。カテーテルアブレーション治療は、心房細動の根治療法である。アブレーションとは切除という意味で、カテーテルアブレーション治療では足の付け根の太い血管からカテーテルを体内に入れ、心臓まで持っていき、心房細動を引き起こすきっかけとなる異常電気信号や心筋細胞を焼灼治療する手術である。

カテーテルアブレーション治療

カテーテルアブレーションによる合併症には、カテーテル挿入部の出血や血腫、感染のリスクがある。心臓に傷がつき、心臓周囲に血液がもれてたまる心タンポナーデという重篤な合併症もまれに引き起こすことがある(1.2~2.5%程度)。また、数時間にわたって心臓の中にカテーテルを挿入するので0.1~0.3%程度の確率で脳梗塞が起きるリスクもある。

また、カテーテルアブレーション治療を行っても心房細動が再発する場合がある(10-40%程度)。その原因としては、異常な電気信号の発信源がほかにもあった場合や発信源の心筋組織を焼き切れていなかった場合などが挙げられる。再発した場合には、再度カテーテルアブレーション治療が必要になる場合もある。


あとがき

心房細動は、心臓の一部である心房が無秩序に動き、血液の流れが滞り、血栓(血の塊)ができやすくなる状態である。この血栓が脳に運ばれ、脳の血管を詰まらせると、脳梗塞が発生する。この脳梗塞のリスクさえなければ、心房細動自体は特別に、日常生活に支障を引き起こすをはない。

心房細動は、高齢者に多く見られ、80歳以上の日本人男性の20人に1人が該当すると言われている。実は、私も還暦を過ぎた頃に定期健診で心房細動であると診断された。生まれつきの不整脈が加齢により、心電図上にP波の不在とR-R間隔の絶対的な不規則性が明瞭に発現するようになったようだ。自覚症状が全くないだけに困ったものである。

医師には、カテーテルアブレーションを勧められたが、私はリスク・ベネフィットを天秤にかけ、思案の末に抗凝固薬を服用する薬物治療を選択することにした。それが最終的に吉と出るか、凶と出るかは誰にも分からない。


【参考資料】

Medical Notes HP
2020 年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン(日本循環器学会 / 日本不整脈心電学会合同ガイドライン)
心房細動に関するガイドライン(日本不整脈心電学会)
心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版)(循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006- 2007年度合同研究班報告)合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本心臓病学会,日本心電学会,日本不整脈学会
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