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新型うつ病/現代型うつ病とは?うつ病との違いは?

はじめに

最近、「新型うつ病」又は「現代型うつ病」という病名(?)を耳にする機会が増えたように思う。特に、20〜30代の若年層に多く見られる「うつ病の一種(?)」であるらしい。

新型うつ病(現代型うつ病)は、IT化が進んだことにより社会全体での働き方が昔と異なってきていること、仕事内容が難しくなって若年層の働き手に求められるレベルが高くなっていること、不景気から生活が苦しくなり、将来に不安を感じてうつ状態になるケースなどが理由として挙げられている。

一般的には、新型うつ病(現代型うつ病)は「他罰性や規範意識の乏しさなどの性質を持つ、抑うつ症状を主訴とする複数の抑うつ症候群の総称」と捉えられているようである。

しかしながら、私はこの新型うつ病(現代型うつ病)を本来というか従来の(「新型」あるいは「現代型」という表現に対して)うつ病と同列に扱うことには、現時点では懐疑的である。その理由あるいは根拠を本稿で書いてみたい。

目次
はじめに
新型うつ病とは
うつ病との違いは何か?
新型うつ病の診断基準
新型うつ病の扱いの困難さ
そもそも治療対象の疾病なのか?
あとがき

新型うつ病とは

新型うつ病(又は、現代型うつ病)は、従来の典型的なうつ病とは異なる特徴を持つものの総称で、正式な用語ではない。専門家の間でも一致した見解が得られていないのが現状である。

新型うつ病の主な特徴は次のようなものであるとされる。

  • 中高年よりも20~30代の若年層に多い
  • 遊んでいる時は元気なのに、仕事となるとできなくなる
  • プライドが高くて、失敗の責任をすぐに他人のせいにする
  • 他罰的傾向が強い
    • 「会社のせいだ」「上司が悪い」と訴える傾向が強い
  • 自尊心が強く、自己愛性、わがままで自己中心的である
  • (従来型)うつ病患者特有の「メランコリー親和型性格」や「執着性格」が見られない
  • 積極的に医療機関を受診し、自ら「うつ病です」と会社に申告し、休養の必要性を自ら主張する傾向がある
  • 他者配慮性に乏しく、周囲に対して無遠慮な言動をとる
  • 抗うつ薬が効きにくい

新型うつ病は、オーバーワークや職場での人間関係、いじめなどが原因で、抑うつ症状が早朝から午前中にかけて見られる傾向があり、若者や女性に多く見られるとされている。

ただし、新型うつ病は明確な医学的根拠もないまま、広まりを見せており、ビジネス社会に混乱が生じさせているとも指摘されている。そのため、自己判断せずに必ず専門の医師に相談すべきである。


うつ病との違いは何か?

「新型うつ病」と本来の「うつ病」の症状には、類似点もあるが、いくつかの重要な相違点もある(下表参照)。

うつ病新型うつ病着目点
抑うつ気分抑うつ気分類似点
意欲や興味の低下好きなことや興味はある相違点
意識が上の空に好きなことに対しては
気分の上がり方が大きい
相違点
集中力の低下発達障害か?相違点
感情の麻痺軽い気分変調症相違点
頭痛
睡眠障害不眠類似点?
摂食障害食欲不振類似点?
生活リズムが乱れる
人付き合いを避ける真面目で負けず嫌い相違点
自己肯定感に乏しい
自己否定的である
思い通りにならないと
他人や環境のせいにする
相違点
メランコリー親和型性格メランコリー親和型性格
とは真逆の性格や行動
相違点
執着性格執着性格とは真逆の
性格や行動を示す
相違点

新型うつ病の診断基準

新型うつ病(現代型うつ病)には、正式な診断基準が存在しないらしい。そもそも「新型うつ病(現代型うつ病)」という用語はメディアが作り出した用語で、医学用語ではない。医療専門家の間でも一致した見解が得られていない状況と言われている。

そのメディアによれば、「新型うつ病(現代型うつ病)」の一般的なイメージとしては次のような特徴が挙げられている。

  • 遊んでいる時は元気なのに、仕事となるとできなくなる
  • プライドが高くて、失敗の責任は他人のせいにする
  • わがままで自己中心的な行動をとる傾向がある

これらの特徴がそのまま診断基準になっているとは思えないが、診療内科の医療の現場ではどのようになっているのだろうか?


新型うつ病の扱いの困難さ

新型うつ病(現代型うつ病)は、医療の現場でも扱いが難しいとされている。その理由は、症状、診断、治療の観点から下記のような困難さがあるからである。

  • 病態の多様性
  • 診断の困難性
  • 治療法の多様性

まず、病態症状の多様性が挙げられる。新型うつ病は、うつ病や軽度の精神病、神経症、ある種のパーソナリティ障害適応障害、怠業、逃避行動、あるいは健常者における一過性の不適応行動に至るまで含まれている。これらの病態の多様性は、学問的な信頼性と妥当性を有した疾患概念ではないとされている。それが疾患として正式名称がない理由でもある。

「新型うつ病」を理解するために「うつ状態(疾病)」に「職場での適応上の問題」と「本人のパーソナリティの問題」を加えた3つの複合的な病態(下図参照)として捉えようとする考え方も知られている。

「新型うつ病」の特徴の一つに「抗うつ薬が効きにくい」というのがある。逆説的に言えば、「新型うつ病」は(従来型の)うつ病ではないということである。薬物療法などの医学的アプローチで治療ができないのは、「疾病」だけの問題ではなく、「職場適応の問題」や「パーソナリティの問題」なども加わっていることを示唆している。あるいは、さらに別の要素が複雑に複合化している可能性も否定できない。

このように原因が明確ではないため、「新型うつ病」の診断は困難であり、その病態は非常に流動的であるとされている。そのため、精神科医による患者の生涯にわたる経験や行動、その背景や影響を理解(把握)と、心因性・内因性・外因性の見方や状況因(特定の状況や環境が物事の結果に影響を与える要素)と性格因的視点が不可欠とされている。これほど多くの要因が複雑に絡んでいるならば、専門の精神科医でも診断するのは困難であるのは当然かも知れない。

さらには「新型うつ病」の治療には薬物療法に頼らず、もっと患者本人の心の中に入り込むことが求められている。そのため治療法の多様性が挙げられている。例えば、10人前後の患者が参加して実施される集団療法が有効な治療方法の一つとされている。


そもそも治療対象の疾病なのか?

新型うつ病は、その特性や症状により、治療の対象となることがあるという。しかし、「新型うつ病」は正式な診断名ではなく、その定義も厳密には確立されていないらしい。

新型うつ病の主な治療法を調べてみると、次のような実態が明らかになった。

新型うつ病の患者にも薬剤の投与をする場合があるが、従来型うつ病ほど重きは置かれていないという。

新型うつ病患者に行われる治療の中心はカウンセリングであり、カウンセリングを通して治療者と話していく中で様々な気づきを得ていき、少ずつ自分の中の問題点になっている事を修正していくのが一般的に採用される治療法だという。

つまり、新型うつ病の主たる治療は、生活習慣の改善やカウンセリングであり、薬剤は補助的なものという位置づけらしい。

指導される生活習慣の改善とは、精神疾患では半ば常識(基本中の基本)と言える生活リズムを規則正しくすることである。新型うつ病の治療でも特に重要らしく、具体的に明確なルールを作って、可能な限りそれを守るよう指導しているという。

新型うつ病は、従来型うつ病とは異なり、完全な安静や休養よりも適度な負荷をかける方が治りが良いことが臨床的に知られているらしい。

冒頭(「はじめに」を参照)で、私が新型うつ病(現代型うつ病)をうつ病と同列に扱うことに、現時点では懐疑的であると述べた理由(根拠)は、新型うつ病の治療法(対処法あるいは解決法)は患者本人の症状改善よりも患者の周辺環境の改善、例えば、職場環境(職場での人間関係、コミュニケーションや仕事量など)や、業務内容と適性のミスマッチの改善の方を対象にした方が「治療効果」が高いのではないかと思ったりするからである。これは、環境改善であって、いわゆる「治療」ではない。


あとがき

私が注目したい「新型うつ病」の特徴がある。それは、「思い通りにならないと他人や環境のせいにする」という「他罰傾向」である。仕事がうまくいかない、または何かの問題が生じたときに、自分の責任とは思わず、上司や同僚など他者に責任転嫁してしまうという行動(症状)である。

このような症状を示す疾患としては、境界性パーソナリティ障害自己愛性パーソナリティ障害といったパーソナリティ障害が知られている。

境界性パーソナリティ障害BPD)は、人間関係、自己像、気分、行動の不安定性、そして拒絶されたり、見捨てられたりする可能性に対する過敏性を特徴としているパーソナリティ障害の一つである。境界性パーソナリティ障害の患者は、一人でいることに耐えるのが困難であることが多く、一人でいることに対処したり、一人になることを回避したりするために自己破壊的行為に訴えることがあるという。

一方、自己愛性パーソナリティ障害NPD)は、自己愛、賞賛への欲求、共感性の欠如、他罰性、無自覚を特徴とするパーソナリティ障害の一種である。自分の能力を過大評価し、自分の業績を誇張し、他者の能力を過小評価する傾向がある。絶え間ない賛美と称賛を期待し、他者に評価され、ほめられ、持ち上げられることで自己の価値を確かめようとする。他者の感情や感覚を認識しそこない、他者をも自分の望み通りにコントロールしようとする傾向がある。自分の失敗や否を認めようとはせず、それを指摘する誰かがいれば、普通では考えられないような怒りを見せて、相手を攻撃することがある。このような人は、自己愛が成長する幼少期から思春期にかけて、何らかの形で自己愛が傷つくような経験をしていると言われている。

また、自己中心性他者配慮性のなさは、非社会性パーソナリティ障害を疑ってしまう。「体調が悪いから休んで当然だ」と考えたり、引き継ぎもせずに突然、長期の休職に入ってしまうなど、周囲の困惑や迷惑を顧みないのは自己中心的であり、他者への配慮の欠如である。非社会性パーソナリティ障害では、他人の権利を無視して、社会的規範に反する行動を繰り返す傾向がある。他人や社会を非難し、自己の行動の責任を他人に押し付けることがあるのが特徴的であるという。

「上司は親切に指導するべきだ」あるいは「困ったときにすぐに助けてくれるのが上司の役割だ」などと甘えてしまう依存傾向依存性パーソナリティ障害である可能性を否定できない。

さらには、困難なことからは逃げてしまおうとする逃避・回避傾向は、回避性パーソナリティ障害である可能性を否定できない。

このように、程度の差があるとは言え、パーソナリティ障害の症状が「新型うつ病」に多少なりとも出現しているのではないかと私は思っている。そして、治療の対象とするのであるならば、「新型うつ病」はパーソナリティ障害の一つとして捉えて治療した方が良いのではないかと思ったりもする。

厳密に言えばというか、専門家の目からみれば、「新型うつ病(現代型うつ病)」とパーソナリティ障害とは明らかに相違点が存在するらしい。しかし、最も特徴的な類似点に注目するのも治療効果を高めるためには効率的ではないかと私は考える。そして、患者の周辺環境の改善(環境改善)にも注力すべきだと私は思う。


【参考資料】
若年層に増えている新型の「現代型うつ病」と、その対応 (utsutori.jp)
「現代のうつ病」の診断と治療について-公立学校共済組合関東中央病院
「現代型うつ病」と“新型うつ病” – 公立学校共済組合 関東中央病院
パーソナリティ障害の概要 – 心の健康問題 – MSDマニュアル家庭版

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