はじめに
風邪は、主にウイルスによって引き起こされ、その症状は全身に現れる。風邪の典型的な症状には、喉の渇きや違和感、くしゃみ、咳、鼻水、発熱、倦怠感、頭痛などがある。
一方、副鼻腔炎は、主に細菌によって引き起こされ、特に鼻の周囲(副鼻腔)に炎症が発生する。副鼻腔炎の典型的な症状には、粘りや色のある鼻水、鼻閉、顔面の痛み、変なにおいやにおいを感じにくくなることなどがある。
風邪には抗生物質(抗菌剤)が効かないのに対し、副鼻腔炎は細菌が原因であるため、抗生物質(抗菌剤)が奏効することが多い。これは、両者の相違点である。このように、風邪と副鼻腔炎の主な違いは、原因となる病原体と発症部位にある。
これらの違いを理解することで、自身の症状が風邪なのか副鼻腔炎なのかを判断し、適切な治療を受けることができる。知識と知恵は私たちの武器である。
副鼻腔炎とは
鼻は、気道の入り口である鼻腔と鼻腔に隣接する副鼻腔からなっている。鼻腔と副鼻腔は、自然口という小さな穴で連絡している。副鼻腔には、上顎洞(頬の奥)、篩骨洞(眼の内側)、前頭洞(眼の上)、蝶形骨洞(篩骨洞の奥)がある。
副鼻腔炎(Paranal ocitis)は、ウイルス、細菌、真菌性の感染症またはアレルギー反応による副鼻腔の炎症である。
副鼻腔炎は、急性(30日未満で完治)、亜急性(30~90日間で完治)、再発性(年4回以上の周期的再発)および慢性(90日超の持続)に分類される。 副鼻腔炎は急性期に適切な治療を行えば治癒するが、きちんと治療しなかった場合や感染を繰り返した場合には、慢性副鼻腔炎となる。
原因
かぜなどのウイルス感染に引き続いて細菌感染が副鼻腔に起こり発症することが多く、炎症の持続により副鼻腔内に膿がたまり、粘膜も炎症性の変化を起こす。
急性副鼻腔炎の場合は、ほぼ常にライノウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルスなどが起因のウイルス感染である。少ない割合で、レンサ球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、またはブドウ球菌による二次的な細菌感染が発生する。院内急性感染は、細菌性である場合が多く、典型的には黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、緑膿菌などが関与する。
慢性副鼻腔炎には、多くの因子が 組み合わさって 関与する。慢性的なアレルギー、構造的異常(鼻茸)、環境の刺激物(大気汚染、タバコの煙)、粘膜線毛の機能不全、および他の因子が感染性微生物と相互作用し、慢性副鼻腔炎を引き起こす。グラム陰性桿菌および中咽頭の嫌気性微生物を含む多くの細菌の関与が認められている。真菌感染症は慢性化する場合があり、高齢者および易感染性患者に生じる傾向がある。
アレルギー性真菌性副鼻腔炎は、慢性副鼻腔炎の一病型である。局在する真菌(Aspergillus属)に対するアレルギー反応であり、侵襲性感染によって生じるものではない。 びまん性の鼻閉、顕著な粘性の鼻分泌物および鼻茸を特徴とする。
症状
急性副鼻腔炎および慢性副鼻腔炎は、ほぼ同様の症状および徴候を引き起こす。かぜ症状が先行し、続いて膿性の鼻汁がみられるが、炎症の程度によっては発熱を生じる。 典型的な症状として、痛み、鼻閉、膿性鼻汁、顔面痛または顔面の圧迫感などのほか、ときに倦怠感、頭痛、発熱もみられる。
また、炎症が起きている部位により痛む場所は異なり、上顎洞に炎症を起こした時には頬部の痛み、篩骨洞に炎症を起こした時には鼻根部の痛み、前頭洞に炎症を起こした時にはおでこの痛み、蝶形骨洞の炎症では頭痛や頭重感が特徴である。
ごくまれに副鼻腔の炎症が眼や脳に及ぶことがある。眼では視力の低下が起こったり物が二重に見えたりし、脳では強い頭痛や意識障害が起こる。
検査・診断
急性副鼻腔炎
診断には画像検査が重要。単純X線検査やCT検査で炎症の起きている部位や程度を調べる。炎症の原因である細菌を調べるために鼻汁から細菌の検査を行うこともある。
慢性副鼻腔炎
診断は単純X線検査やCT検査で行う。CT検査では病変の部位や程度、鼻腔の形態異常の有無を詳しく調べることができる。
治療
急性ウイルス性鼻炎を想定した治療には、蒸気吸入および血管収縮薬の局所薬または全身投与などがある。
細菌感染が疑われる場合の治療は、アモキシシリン/クラブラン酸またはドキシサイクリンなどの抗菌薬を、急性副鼻腔炎には5~7日間、慢性副鼻腔炎には最長6週間投与することによる。鼻閉改善薬、コルチコステロイドの鼻噴霧、ならびに加熱および加湿が、症状の軽減と副鼻腔の排膿の促進に役立つ可能性がある。
繰り返す副鼻腔炎には、副鼻腔の排膿を促進するために手術が必要となりうる。
急性副鼻腔炎
治療は抗菌剤(レボフロキサシン,モキシフロキサシン)に加え消炎鎮痛薬、排膿を促す薬剤などを使用するが、経過によっては手術が必要となることもある。
慢性副鼻腔炎
細菌感染に引き続いて発症する慢性副鼻腔炎の治療は、マクロライド系抗生剤を通常よりも少ない量で長期間使用する。
炎症を抑えて粘膜の状態を改善する目的で消炎酵素剤、粘液溶解薬を併用することもある。このような薬物療法を数カ月行っても効果がないか、効果が不十分な場合には、内視鏡を使用して副鼻腔を鼻腔に開放する、鼻内副鼻腔手術を行う。
予防
副鼻腔炎の予防対策としては、下記のような方法が知られている。これらの予防策は、副鼻腔炎だけでなく、他の感染症の予防にも有効であるため、日常生活のなかでの実践が推奨される。
- 手洗いと手指消毒
- 日頃からこまめな手洗いと手指消毒を心がける
- マスクの着用
- 風邪が流行っている時期の外出時にはマスクの着用
- 室内の湿度管理
- 冬など乾燥しやすい時期は、室内の保湿を行う
- 鼻腔や喉の乾燥を防ぐ
- ストレス管理と適切な休息
- ストレスや睡眠不足は免疫力を低下させる
- 適切な休息をとる
- ストレスをためない
- 栄養バランスの良い食事
- ビタミンやミネラルなど栄養バランスの良い食事を摂る
- 免疫力を高め、感染症を防ぐ
あとがき
日本では副鼻腔炎の患者は、100万~200万人もいると言われている。かなり幅が広いが、結構な数の患者数である。これらの患者のなかには、鼻茸が存在する慢性副鼻腔炎患者が20万人もいるという。さらに、好酸球性副鼻腔炎の中等症~重症の患者は、約2万人もいるということである。この数字は、慢性副鼻腔炎患者の約10%が中等症~重症の患者であることを意味する。
副鼻腔炎は、年齢に関わらず発症すると一般的には言われているが、一部の研究では高齢者が副鼻腔炎になりやすいとの結果が報告されている。特に、肥満、喫煙歴、喘息や慢性気管支炎の既往歴のある者は、副鼻腔炎になりやすいとされている。
私たちシニア世代は生活習慣を改善して、副鼻腔炎の発症リスクを低減することができるかも知れない。
また、一旦発症してしまった副鼻腔炎の症状が治らずに症状を繰り返す場合には、ストレスや疲れも影響しているという。ストレスや疲れは免疫力の低下に関与しているとされるから、ストレス管理も重要であるということだ。
【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト |
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版 |
蓄膿になりやすいのはどういう人? | 国立長寿医療研究センター |