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クローン病は全層性炎症性腸疾患を引き起こす全消化管の慢性疾患!

はじめに

クローン病は、口から肛門までの全消化管に、非連続性の慢性肉芽腫性炎症を生じる原因不明の炎症性疾患である。主に小腸や大腸に発症し、病変部からはじわじわと出血が生じるため、貧血が引き起こされる他、腹痛、下痢、血便、体重減少などの症状も知られている。

クローン病の発症原因は、現在のところ明確には解明されていないが、白人など特定の人種や、特定の地域に住む人、あるいは同じ家系内での発症率が他と比べて高いことから、何らかの遺伝的な要因が関与しているとの説が有力である。

日本でのクローン病患者数も年々増加傾向にあるらしい。

  • 1976年:128人
  • 2013年:39,799人
  • 2016年:42,789人
  • 2018年:42,548人
  • 2020年:47,633人

尚、クローン病は、マウントサイナイ病院(米国ニューヨーク)の内科医であったBurrill Crohn博士らによって1932年に初めて報告された病気である。そのため、発見者のBurrill Crohn博士の名前にちなんで「クローン病」と名付けられたという。

目次
はじめに
クローン病とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

クローン病とは

クローン病(Crohn’s disease)は、 全層性炎症性腸疾患を引き起こす慢性疾患であり、通常は遠位回腸と結腸を侵すが、消化管のいかなる部位にも発生しうる。 症状としては下痢や腹痛などがある。 大腸や小腸の腸管に炎症や潰瘍を引き起こし、下痢、腹痛などの腹部症状をきたす疾病である。

クローン病の患者数は年々増加しており、推定患者数は約4万人以上(2014年現在)と考えられている。海外では男女差はないが、日本では男性患者さんの割合が多い。発症年齢は男性で20代から30代前半、女性では10代後半から20代に好発すると推測されている。

クローン病を発症すると、特に腸管の狭窄、膿瘍、瘻孔(腸の炎症が進行して腸管と腸管、あるいは腸管と他の臓器との間に管状の欠損ができること)などの合併症をきたすことも多い。 発症後10年以内に半数以上の患者が1回は手術を必要とする。

しかし、腸管が狭窄や瘻孔などを形成する前に治療介入することによって将来的には入院や手術になるリスクを下げることが可能である。寛解維持できれば、日々の生活にあたっては大きな制限を受けることなく、一般の人と同じライフスタイルを送ることが可能である。


クローン病の原因

クローン病は、陰窩炎および陰窩膿瘍として始まり、小さな巣状のアフタ様潰瘍に進行する。これらの粘膜病変は、潰瘍間の粘膜浮腫を伴う縦断的かつ横断的な深い潰瘍へと進展することがあり、腸管は特徴的な敷石像を呈する。

明確な原因は不明であるが、遺伝的な要因、食事や腸内細菌などの環境的な要因免疫機能の過剰・異常が生じ、発症するものと考えられている。

環境因子では脂質や糖質の高摂取量との関連が指摘されており、わが国の研究でも脂肪と砂糖を多く含むファースト・フードとの関連が知られている。

また喫煙も発病や再発が悪化するリスクとなることが知られている。


クローン病の症状

臨床症状としては、下痢・腹痛といった腹部の消化器症状が中心であるが、発熱や体重減少などの全身症状が主な訴えであることも少なくない。また肛門病変である痔ろう肛門周囲膿瘍が初発症状であることも多く、約1/3の患者は肛門病変が最初に生じるとされている。

したがって、若年者でこれらの病変をみた場合、クローン病を念頭に置く必要性がある。また口内炎、関節炎、皮膚症状(結節性紅班、壊疽性膿皮症)、眼症状(虹彩炎)などの腸管以外の臓器に合併症(腸管外合併症)を生じることもある。

合併症

小腸の病変部では、悪性腫瘍のリスク増大が認められる。大腸病変を有する患者では大腸がんの長期リスクがあり,そのリスクは罹患範囲と罹病期間がともに同じであれば、潰瘍性大腸炎患者のそれと同等である。慢性の吸収不良は、栄養欠乏症(特にビタミンDおよびB12)を引き起こすことがある。


クローン病の検査・診断

通常は小腸と大腸が侵されることが多く、小腸型小腸大腸型大腸型の3型に分類されます。欧米のクローン病患者に比べて日本の患者は大腸型が少ないことが知られているが、これは小腸病変を検索するための検査法が日本の方が施行しやすく、小腸の病変を検出できることが多いためであると考えられている。 診断は大腸内視鏡検査および画像検査による。

血液検査
重症度や病勢を把握するのに重要な検査。血液検査では1)炎症の程度を把握(CRP、赤血球沈降速度(赤沈、血沈)、白血球数)、2)貧血の程度を把握(ヘモグロビン値、赤血球数)、3)栄養状態(総タンパク、アルブミン値)を把握することが可能。
大腸内視鏡検査・バルーン小腸内視鏡
クローン病で最も病変が多くみられる回盲部(回腸末端と盲腸)の炎症状態を把握するのに有用な検査法。大腸粘膜の炎症の範囲や程度を判断したり、よく似た症状をきたす他の病気と区別するのに必要な検査。通常の大腸内視鏡では小腸の一部しか観察ができないため、小腸の深部まで観察可能なバルーン小腸内視鏡検査が開発され、大腸と小腸(大腸内視鏡よりも広範に小腸の観察が可能)を同時に観察することができるようになった。必要に応じて生検を行うこともある。生検による組織検査は診断基準の1つに挙げられているので、発症した際には必要な検査である。また治療により症状が改善されていても粘膜の炎症が改善されていない場合も多いため、炎症が消失していることを内視鏡で確認することもある。
小腸造影検査
小腸病変の有無を確認するために経口から造影剤を飲んでもらい体位変換を繰り返し、造影剤を腸管に流して観察する方法。場合によっては鼻から細いチューブをいれてチューブより造影することもある。瘻孔や狭窄を観察するには必要な検査。
カプセル内視鏡
患者に小型カメラを内蔵したカプセル状の内視鏡を飲み込んでもらい、消化管を通過しながら画像を撮影し、記録装置に転送することによりクローン病の小腸病変を確認する方法。腸管を洗浄するための下剤服用の必要がなく、検査による苦痛がないことは利点であるが、狭窄がある場合にカプセルが滞留する危険があるので、あらかじめ撮影用のカプセル内視鏡と同じ大きさで長時間腸にとどまっていると溶けるカプセル(パテンシーカプセル)を服用してもらい、カプセルが通過するのを確認してから実際のカプセル検査を施行している。
MRエンテログラフィー
大腸内視鏡の前処置で使用する下剤を用いて腸管を伸展させてから、MRI撮影をおこなうことにより粘膜炎症や潰瘍病変、狭窄、瘻孔病変を評価する検査方法。小腸造影検査のような放射線被曝がない検査法である。

クローン病の治療

治療は、メサラジン、コルチコステロイド、免疫調節薬、サイトカイン阻害薬、および抗菌薬の投与による薬物療法のほか、しばしば手術による。

栄養療法
基本治療。経口の食事摂取を中止し、腸管の安静ならびに腸からの食餌抗原の除去を図る。完全静脈栄養と経口/経管栄養の2種類がある。腸閉塞、腹腔内膿瘍、重篤な肛門病変、大量出血など腸を安静にしなければいけないときは完全静脈栄養が選択されるが、その他の例では成分栄養剤であるエレンタールを用いた経口/経管栄養療法が行われる。
薬物療法
5ASA製剤が投与される。栄養療法や5ASA製剤にて寛解導入できない症例にはステロイドの投与を検討するが、大腸病変が主体の症例や重症例では早期からステロイド併用を考慮する。また肛門病変合併例にはフラジールまたはシプロキサンなどの抗菌剤を使用する。すぐに再び病状が悪化する例やステロイド離脱困難例では寛解維持を目的に少量の免疫調節剤(ロイケリンまたはイムラン)の使用を検討する。

これらの治療で十分な効果が得られない中等症~重症の症例を有する患者に対しては、抗TNF-α抗体であるレミケードの点滴投与やヒュミラの皮下注射投与を行う。いずれも使用した約70%の患者に対して治療効果が比較的速やかにみられる。ヒュミラは皮下注射で用いられ自己注射も可能である。

血球成分吸着・除去療法が大腸病変を有するクローン病に使用可能である。薬物療法と併用で使用される。
外科的治療・内視鏡下狭窄拡張術
頻度は高くないが、穿孔、中毒性巨大結腸症、がんの合併、生命にかかわる重篤な出血は手術が必要である。腸閉塞をきたした腸管狭窄は手術適応であるが、炎症の強い時期には腸管のむくみが狭窄の原因となっている場合があり、栄養療法や薬物療法により炎症が収まると狭窄が軽くなることもある。また最近では内視鏡を用いたバルーン拡張術も積極的に試みられている。手術を行う際には、術後の癒着の軽減や患者のQOLを考慮し可能な限り腹腔鏡下手術を選択し腸管切除は最小限にとどめ狭窄形成術を併用している。

クローン病の予防

クローン病の予防策は確立されていないが、下記のような生活習慣の改善がクローン病の予防に役立つとして提案されている。

  • 健康的な食事
    • 栄養バランスの良い食事を摂る
    • 全般的な健康状態を維持
    • 免疫系を強化するのに役立つ
    • 油やタンパク質を摂り過ぎないようにする
  • 定期的な運動
    • 定期的な運動
    • 全般的な健康状態を維持する
    • 免疫系を強化する
  • ストレス管理
    • ストレスは、全般的な健康に影響を及ぼす
    • ストレスは、特に消化器系に影響を及ぼす
    • ストレス管理は全般的な健康管理として重要
  • 禁煙
    • 喫煙はクローン病の発症リスクを高める可能性がある

あとがき

クローン病の患者数は、日本で増加傾向にある。クローン病は10~20歳代の若年者に好発し、若年者が患う疾患というイメージがある。

クローン病の原因は、現在のところ明確には解明されていないが、遺伝的な要因や食事、腸内細菌などの環境的な要因が関与すると考えられている。その詳細なメカニズムはまだ解明されていないので、研究が盛んに行われている。

クローン病は、消化管に炎症を引き起こす疾患であるが、その影響は消化器系だけでなく、全身に及ぶことがある。そのため、クローン病の管理と治療は全身の健康管理と密接に関連している。それがクローン病が医療分野で注目される所以でもある。


【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版

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