はじめに
テニスは、二人または二組のプレイヤーがネット越しにラケットでボールを打ち合う球技である。試合形式としては、1人対1人で行うシングルスと、2人対2人で行うダブルス、混合ダブルスがある。
一方のプレイヤーがサーバー、他方がレシーバーとなり、1ゲームごとに交替する。4ポイント先取すると、1ゲーム獲得でき、3ポイントで並んだ場合はデュース、以降2ポイント差がつくまでゲームは続く。
ところで、「テニス肘」と呼ばれる疾患をご存知だろうか?
テニス肘は、特にテニスプレーヤーが発症しやすいことからその名がつけられた、上腕の筋肉と肘を繋げている腱が慢性的な炎症を起こす病気である。正式名称は「上腕骨外側上顆炎」である。
発症すると腕の特定の動作をさせた時に、上腕の肘の背中から手首の背の部分にかけて痛みが発生する。
テニス肘の主な原因は、患部である上腕の筋肉と肘を繋げている腱に繰り返し負担がかかることである。テニスやゴルフでボールを打つ時や重い荷物を持ち上げる時、重い鍋を振る時など、手首から上腕に外部の力が加わるような動作を繰り返し行っていると、肘の腱に少しずつストレスがかかる。腱へのストレスが慢性的に貯まってくると腱が炎症を起こし、周辺の血管や神経に異常をきたしてしまう。
テニス肘になると、ドアノブをひねる、ものを掴んで持ち上げるという日常的な動作でも痛みが生じる。他にも、テニスやゴルフなどのスポーツや、ギターの演奏、キーボードのタイピングといった、趣味や仕事上の動作でも痛みが現れることが多数ある。
テニス肘とは
テニス肘(tennis elbow)とは、上腕骨外側上顆炎(humeral epicondylitis)とも呼ばれ、手首を手のひらの反対側、後方に反らす筋肉の腱の炎症で、肘の外側(親指側)に痛みを生じる。50~60歳代によくみられる。
必ずしもテニスとは関係なく、手首や肘や前腕の筋肉を繰り返し使う作業、日常生活動作で発症するケースも多くある。
原因
肘に負担がかかるスポーツや仕事、生活習慣などによる疲労の蓄積が引き金になることが多いようである。
また、加齢による肘関節外側の伸筋腱(手や指を伸ばす筋肉、腱)付着部の変性(加齢などによる衰え)も一因と考えられている。
上腕骨外側上顆炎は、テニスでバックハンドのレシーブを何度も行うと起こる。他の動作(ボートこぎ、重りを使った前腕のカール、ネジ回しを何度も力いっぱいに回す動作など)によって、外側上顆炎が起こる場合もある。
テニス選手が上腕骨外側上顆炎を起こしやすい要因には、肩や前腕の筋肉が弱い、ラケットのガットの張りが強すぎる、ラケットが短すぎる、ラケットの中心(スイートスポット)でボールをとらえていない、濡れて重くなったボールを打つことなどがある。また、バックハンドでボールを打つときに手首が曲がるフォームになっていると、上腕骨外側上顆炎が起きやすくなる。
症状
主な症状は、肘関節の外側から前腕にかけての痛みで、 手の甲側に手首を反らすと前腕の外側が痛む。 手を握り締める(握手する)動作や、ドアノブを回す動作でさえ、痛みが増すことがある。 肘を伸ばした状態で物を持ち上げる、タオルを絞るなどの動作でも痛みを生じる。
軽症の場合、安静にしているときの痛みはないが、進行すると安静時でも痛みを訴える患者もいる。前腕の筋肉に負荷をかけ続けると症状が悪化し、やがて前腕を使っていなくても痛むようになる。
検査・診断
テニス肘の診断は、まず問診から始まり、その後、医師による痛みの誘発テストを行う。
問診では、日常生活やスポーツなどで痛みが発生する状況やその頻度、日常生活での困りごとをチェックする。また、肘の外側の痛みのあるところの骨のでっぱり(上腕骨外側上顆)を押さえて痛いかどうかを確認する。
痛みの誘発テストには次の3つの方法がある。
- Thomsenテスト
- 患者に肘を伸ばしたまま検者の力に抵抗して手首(手関節)を伸ばしてもらう
- Chairテスト
- 患者に肘を伸ばしたまま手で椅子を持ち上げてもらう
- 中指伸展テスト
- 患者に肘を伸ばしたまま中指を伸ばしてもらう
これらのテストにより、テニス肘かどうかを判断する。さらに、レントゲンやMRI検査などの画像検査を行い、筋肉の状態や他の病気との鑑別を行うこともある。
治療
テニス肘の治療法には、下記のような方法が知られている。
- 安静
- テニス肘は使い過ぎによるもの
- 患部の安静が重要
- 痛みが出ている時には無理せずに安静にする
- 冷却・温熱療法
- 痛みが始まったばかりや熱っぽい場合は患部を冷やす
- 時間が経った痛みには、温めた方が痛みが和らぐ
- 湿布や薬物療法
- 痛みが強い場合などには湿布や外用薬が処方される
- 肘の外側にステロイドの注射が検討される
- サポーター
- テニス肘用のバンドを装着する
- 肘への負担を軽減し、痛みの緩和が期待できる
- ストレッチ
- テニス肘に効果的なストレッチを行う
- 筋肉の柔軟性を保つ
- マッサージ
- テニス肘に効果的なマッサージを行う
- 筋肉をほぐす
局所安静 |
原因となっている筋肉の負担を減らすことが大事。痛みが出る動作を避けたり、重量物を避けたりするような生活指導も行う。スポーツが原因と考えられるケースでは一時休止することが望ましい場合もある。 |
薬物療法 |
湿布や塗り薬、消炎鎮痛剤の内服を追加することもある。少量のステロイドコルチコステロイド)を局所麻酔剤とともに患部に注射することもある。この注射は有効なことが多いが、頻回に行うことにより、かえって筋肉、腱の瘢痕化(劣化)を引き起こすことがあり、短期間に複数回行うことは避ける。 |
装具療法 |
テニス肘用バンドや手首を安静にする装具を装用することで患部の筋腱の付着部にかかる力を減少させる |
理学療法 |
原因となっている筋肉のストレッチやマッサージなどを行ったり、痛い部位を温めたり、電気や超音波を当てたりすることがある |
手術療法 |
上記の治療を行っても症状が改善せず、痛みが高度な場合には手術を行う。内視鏡を用いて傷んだ腱膜を切除するが、傷を切開して行うこともある。滑膜ひだという組織が関節に挟まり込んで、痛みが出る場合には、それも同時に切除することがある。入院期間は3~7日程度。 |
予防
テニス肘の予防策として、下記のような方法が知られている。これらの予防策を実践することで、テニス肘の発症リスクを低減できるので、その実践が推奨されている。
- 肘周りの筋肉の強化
- 筋肉がサポーターの役割を果たす
- 怪我のリスクを軽減させることができる
- 適切なフォームの習得
- テニス肘の主な原因は誤ったフォームである
- 自分のフォームがテニス肘の危険があるかどうかを確認
- 適正なフォームはどうかを専門家に確認してもらう
- ストレッチ
- 運動前にストレッチ・ウォーミングアップをする
- 筋肉の柔軟性を高める
- サポーターやテーピングの使用
- テニス肘用のバンドを装着する
- 肘への負担を軽減し、痛みの緩和が期待できる
- 適度な休息
- テニス肘は使いすぎによって生じる
- スポーツや作業などを適度な量にとどめる
あとがき
私もテニスをやるが、テニス肘になるほど頑張ってテニスをしたことがないので、テニス肘の痛みはよく分からない。テニス愛好家と呼ばれる人達は、テニス肘を経験していることだろう。
全く上達していない私が言うのも気が引けるが、テニスした翌日に痛みと疲れがでるのは肘や肩ではなく、腰の方である。テニスのやり過ぎで心配なのは腰痛である。私がテニスに夢中になれないのは上達しないこともあるが、腰への負担が大きいからでもある。テニスやゴルフをしなければ、腰痛を感じない。だから私が腰痛を感じるのは、無理なフォームをしているか、元々筋肉が硬いか、準備運動不足のいずれか、またはそれらが複合していることが、多分、原因ではないかと思っている。
【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト |
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版 |