はじめに
視力が徐々に低下していく網膜ジストロフィーと呼ばれる疾患がある。その原因の一つに、ABCA4遺伝子の変異があることをご存じであろうか?
本稿では、ABCA4遺伝子の役割と、それが引き起こす網膜疾患について解説してみたいと思う。
ABC A4遺伝子とは?
ABCA4遺伝子は、ATP結合カセット(ABC)トランスポーターという膜輸送タンパク質をコードしている。このタンパク質は、網膜の視細胞、特に桿体や錐体の外節に存在し、視覚サイクルの副産物である有害なレチナール誘導体を排出する役割を担っているらしい。つまり、ABCA4は網膜の「掃除係」という役割を果たしているという。だから、この機能がうまく働かない(変異してしまう)と、視細胞に有害な代謝産物を蓄積させ、視細胞の健康を脅かすことがある。重篤な場合には視力障害を引き起こしてしまうことがある。
ABCA4遺伝子の変異は、スターガルト病に代表される網膜ジストロフィーと呼ばれる疾患に関連していると言われている。
変異によって起こる疾患
ABCA4遺伝子の変異は、以下のような遺伝性網膜疾患の原因となると言われている。
- 網膜ジストロフィー(Retinal Dystrophy)
- 網膜の視細胞や色素上皮細胞が徐々に機能を失っていく遺伝性の進行性疾患群(網膜の遺伝性変性疾患)の総称
- 錐体や杆体など、視細胞の機能障害が進行する病気群
- 疾患の重症度や進行速度は変異のタイプによって異なる
- Stargardt病や錐体桿体ジストロフィーが含まれる
- Stargardt病(スターガルト病)
- 若年性黄斑ジストロフィーの代表的疾患
- ABCA4遺伝子変異、若年性、中心視力低下が特徴
- 錐杆体ジストロフィー(Cone-Rod Dystrophy)
- 中心視力の障害に加え、暗所視や周辺視野の低下が進行
- 錐体→桿体の順に障害、色覚異常・昼盲・視野狭窄が特徴
- 網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa)
診断と治療の可能性
これらの疾患は、遺伝子検査によって診断が可能である。ABCA4遺伝子の変異が確認されれば、早期の対応や将来的な遺伝子治療の選択肢も広がる。
あとがき
ABCA4遺伝子は、視覚の維持に欠かせない重要な役割を果たしている。だからこの遺伝子に変異があると網膜に深刻な影響を与える可能性がある。視力に異常を感じたら早めの検査が大切であることは言うまでもない。
残念ながら現時点では適切な治療法が存在しないが、この切実なアンメットメディカルニーズを解決し、スターガルト病患者の治療に貢献しよう新規のメカニズムを持つ潜在的な治療法が研究開発中である。これらの新たな治療オプションが利用できるようになれば、スターガルト病患者の治療が大幅に改善されると期待されている。
下記のような主要企業によって、Emixustat、Gildeuretinol、Tinlarebant、Avacincaptad Pegolなどの新しいメカニズムを持つ低分子化合物の新規医薬品やMCO-010などの遺伝子治療薬がスターガルト病の治療を目指して開発されている。
- Kubota Pharmaceuticals(Emixustat)
- Alkeus Pharmaceuticals(Gildeuretinol;ALK-001)
- Belite Bio(Tinlarebant;LSB-008)
- IZERVAY/ Astellas Pharma (Avacincaptad pegol)
- Nanoscope Therapeutics(MCO-010)