デジタル医療の定義
デジタル医療とは、VR(virtual reality;仮想現実)やスマホアプリ等のデジタル技術を医療に活用することで治療を効率化・症状の改善を図るヘルスケア領域のビジネスのことを指す。治療薬の投与による医療ではないため、「デジタル薬」又は「デジタル治療」とも呼ばれることがある。
デジタル医療の時代的背景
近年、医薬品開発と医療の様々な面の ICT 化が急激に進んでいる。この潮流は、医薬品や医療提供の在り方にも大きな変革をもたらしつつあるという。
欧米各国では、2010年代に入り、ソ フトウェアの法整備が大きく進展した結果、治療アプリとも呼ぶべきソフトウェアの臨床試験が次々と開始され、有効性が確認された治療アプリ製品が次々と登場し始めている。
一方、法規制の観点から、日本ではソフトウェアは長らく医療機器などに付属するものと位置付けられ、 医療機器の性能を最大限発揮するためのソフトウェア開発が行われてきたが、2014年の薬機法改正を契機にして、ソフトウェアが単体で医療機器として日本でも認められるようになった。
この薬機法改正により治療アプリの開発を加速させる法整備がある程度整ったと言える。認可されればスマホアプリでも医療現場で治療手段として利用できるようになる。
外部環境の変化に伴う精神状態の変化が、自律神経を介して免疫系へ影響を与え、それが全身の様々な臓器に働きかけて疾患を発症、或いは重症化させている可能性があると言われている。そこで治療アプリによる適切な外部刺激が、その疾患の原因となる免疫状態を改善することで、疾患治療が実現する可能性があり、その目的を達成するための治療アプリが開発されつつあるという。
治療アプリ開発のベンチャーが、国内外の製薬大手各社と提携して開発する取り組みも増加し、着実に存在感を高めている。治療アプリの開発開始は、米国の取り組みが早かったものの、世界各国がほぼ同じ土俵で国内外の研究開発競争がスタートした状況にあると言えるのではなかろうか。
デジタル医療業界の中長期的な世界地図は、黎明期に当たるこの数年の間で、戦略的な取り組みの如何によって、大きく変わってくると思われる。
中長期的には、様々な疾患の治療薬(低分子医薬、高分子医薬など)を補完する役割を担う可能性もあると期待できる。認知機能障害や生活習慣病向けの新しい治療法が、国内外企業との共同開発や産学連携により促進されているという。
治療アプリの国内市場はまだ途に就いたばかりであり、現在の市場規模は決して大きくはない。しかしながら、今後は高血圧症や糖尿病などの生活習慣病を中心に治療アプリの採用が進むと予想される。これらの疾病は、治療が長期にわたる慢性疾患に相当し、デジタル医療は、治療薬の投与に比べ費用が安いこと、映像や言語による治療であるため副作用が低いというメリットを打ち出しやすい対象となるからである。
生活習慣病以外では、不眠症や小児ADHDなどの疾患も対象になり、治療アプリの採用が増えていくと推測する。
予想と期待であるが、遠くない未来に上述したような時代が到来するとも限らない。今からそれを前提とした基礎研究や開発研究を国家として推進することは意義深いことではないかと思う。