はじめに
パーキンソン病の発症には加齢が大きく関与しているらしい。パーキンソン病は、一般的には60歳以上の人々に多く見られ、特に65歳を超えると発症患者数が急激に増えることが知られている。
パーキンソン病患者の約80%が40〜70歳の間に発症し、約5%が20〜40歳の間に発症するらしい。したがって、パーキンソン病の発症リスクは加齢と共に増加すると言える。尤も、加齢だけがパーキンソン病の原因ではなく、他の要素も関与している。
しかしながら、シニア世代の私たちにとっては注意するに越したことはない。パーキンソン病は、病気の進行によっては日常生活に影響を及ぼす可能性が高い。運動症状が現れ、体を動かしにくくなることで、日常生活に支障をきたすことにもなりかねない。適切な治療や日常生活の工夫により、生活の質(QOL)は維持できるようになったとは言え、できることなら発症は避けたいものである。
パーキンソン病とは
パーキンソン病(Parkinson’s disease)は、安静時振戦、筋強剛(固縮)、運動緩慢(緩徐で減少した動作)、および歩行または姿勢の不安定性を特徴とする、緩徐に進行する神経変性疾患である。
パーキンソン病は、特に50~60歳以降に症状が出始め、典型的な症例では振戦、筋強剛、運動緩慢、姿勢反射障害などの症状がみられる。
日本では、人口10万人あたり約120~130人の有病率を示し、65歳以上の高齢者ではアルツハイマー型認知症に次いで多い疾患である。
パーキンソン病の有病率はおよそ以下の通りである。 平均発症年齢は約57歳である。
年 齢 | 有病率 |
---|---|
40歳以上 | 0.4% |
65歳以上 | 1% |
80歳以上 | 10% |
原因
中脳にある黒質といわれる部分の神経細胞が何らかの原因で少なくなり、身体の運動を調節している神経に命令を送るドパミンという物質が不足することにより発症する。
特徴的な病理所見は、主に中脳の黒質とよばれる部分や大脳基底核とよばれる部分の神経細胞に変性が見られ、神経細胞の数の減少とレビー小体といわれる異常なタンパク質の蓄積が見られることである。しかしながら、発生機序についてはまだ解明されていない。
パーキンソン病の少なくとも一部の症例には,遺伝的素因が存在する可能性が高い。約10%の患者にパーキンソン病の家族歴があり、いくつかの異常遺伝子が同定されている。遺伝形式は、一部の遺伝子は常染色体優性、その他は常染色体劣性である。遺伝性の型では、発症年齢はより若い傾向があるが、経過は典型的に、晩期発症の非遺伝性と思われるパーキンソン病より良性である。
症状
代表的な4つの重要な症候は、振戦、筋強剛、運動緩慢、姿勢反射障害である。その他にも自律神経障害、突進現象、歩行障害、精神症状などがみられる。
しかし、これらの症候がすべての患者でみられるわけではない。また、これらの症候は、左手、左足など左右のどちらかの側から出現するようになり、両側にあったとしても、左か右どちらかの症候がより強いというのが一般的な特徴である。
臨床所見 |
---|
振戦 |
手、足、顎や頚部、体全体などにおこるふるえのことである。左右どちらかにより強いのが一般的です。ふるえがみられる病気は多くあるが、パーキンソン病のふるえは、安静にしていて動作をしていない時に強くふるえ、動作をすると軽くなったり、消失したりするのが特徴である。 |
筋強剛 |
患者自身が気付く所見ではない。診察で患者の腕を肘のところで曲げたり伸ばしたりした時に、医師が自分の腕に感じることができる。筋強剛とは筋肉の緊張が高まっている状態のひとつで、パーキンソン病では、ギコギコと歯車のように感じる。そのため、歯車現象と呼ばれており、他の病気と区別するための重要な所見の一つである。 |
運動緩慢 |
動作が遅くなる症状。普段の何気ない動作、例えば歩くのが遅くなったり、歩幅が小さくなったり(小刻み歩行)、食事動作、着脱衣、寝返りなど日常生活に支障をきたすことがある。瞬きが少なく、仮面をかぶっているような表情のない顔つき(仮面様顔貌)、小声で単調な抑揚のない話し方になる。以前に比べて字が下手になり、書くにしたがって文字が小さくなる(小字症)ことや、症状の進行に伴い食事の咀嚼や飲み込みが遅く下手になるなどの症状がみられることもある。 |
姿勢反射障害 |
人間の体は、倒れそうになると倒れないために姿勢を反射的に直す反応が備わっている。しかし、パーキンソン病の患者では、立っている時、歩いている時、椅子から立ち上がろうとする時などに、この反応が障害されているために倒れやすくなる。通常、他の症状にて発症してから、数年経過した頃にみられるようになる。 |
歩行障害 |
歩行が遅く、歩幅が狭く、自然な腕の振りがみられない。また、最初の一歩がなかなか踏み出せず(すくみ足)、歩き出すと早足となってしまい止まることができない(加速歩行)といった症状がみられる。狭い場所や方向転換時に症状が強く出やすい。ちょうど歩幅に合った横線などの模様が床や地面に描いてあるとそれを上手にまたぎながら歩行できたり、階段なども比較的上手に歩行できるといった特徴がある。 |
突進現象 |
前方や後方にちょっと押されただけで、踏みとどまることができずに、押された方向にとんとんと突進していく現象をいう。ひどい場合には倒れてしまう。 |
自律神経障害 |
いろいろな自律神経症状が出現する。便秘が最も多い症状であるが、発汗過多、起立性低血圧(立ちくらみ、ひどい時には失神)、排尿障害、インポテンスなどの症状がある。 |
精神症状 |
抑うつ的で、億劫がり、依頼心が強くなる場合がある。時には、抑うつ症状が発症初期から強く、他の症状を自覚できないために精神科を最初に訪れることもある。不眠の訴えも多い症状の一つである。 |
検査・診断
臨床所見 |
安静時振戦、筋強剛、運動緩慢、姿勢反射障害などの存在を参考にする。 |
画像所見 |
脳のCTスキャンやMRIは原則として正常である。 MIBG心筋シンチグラフィー検査:パーキンソン病では、多くの症例で ノルアドレナリン の取り込みが低下する。 DAT スキャン:パーキンソン病では ドパミンを含む 線条体の結合が低下する。 |
治療の効果 |
L-dopa製剤や抗パーキンソン病薬(ドパミンアゴニストなど)で、明らかな症状の改善がみられることもパーキンソン病の大切な所見のひとつである。 |
除外項目 |
その他の疾患と鑑別するために 血液検査、髄液検査、電気生理学的検査を実施する場合がある。 |
Stage | 主な症状および必要な介助状況 |
---|---|
I | 片側の手足だけに振戦や筋強剛を示す。 日常生活にほとんど介助を要さない。 |
II | 両側に症状がみられ、姿勢の変化がかなり明確となる。 日常生活がやや不便である。 |
III | 明らかな歩行障害がみられ、方向転換の不安定など立ち直り反射障害がある。 日常生活の動作にもかなり障害がみられ、一部介助が必要となる。 |
IV | 起立や歩行など日常生活の動作が非常に困難となり、介助が必要となる。 |
V | 自力での日常生活動作は難しく、介助による車椅子での移動またはベッド上の生活が中心となる。 日常生活では全面的な介助を必要とする。 |
治療
薬物治療
治療は、内服薬による治療が主体で、症状を軽くして、日常生活を過ごしやすくすることを目指す。
薬物療法は、基本的に、脳内に不足しているドパミンを補うことで症状を改善するものである。
主な治療薬
L-dopa(エルドーパ)含有製剤 |
パーキンソン病では、身体の運動を調節している神経に命令を送るドパミンという物質が不足している。L-dopaは脳内で不足しているドパミンを補う薬剤で、ふるえ、こわばりなどの症状を改善し、スムーズに身体を動かすことができるようになる。 |
ドパミンアゴニスト(ドパミン受容体刺激薬、ドパミン作動薬 ) |
ドパミンを受け取る部分(ドパミン受容体)を刺激して、その働きを活性化する。 ドパミン作動薬は,後期における補助療法としてなど全ての病期において有用である可能性がある。 ドパミン作動薬には、プラミペキソール(経口)、ロピニロール(経口)、ロチゴチン(経皮)、アポモルヒネ(注射)がある。 |
ドパミン放出促進薬 (NMDA受容体拮抗薬) |
神経細胞からのドパミンの放出を促進する。 パーキンソン病およびジスキネジアの進行を遅らせるのに役立つ可能性がある。アマンタジンは,早期の軽度パーキンソニズムに対する単剤療法として有用であり,その後はレボドパの効果を増強するために使用できる。さらに、ドパミン系の活動,抗コリン作用,またはその両方を増強する。 |
ノルアドレナリン補充薬 |
パーキンソン病の進行に伴い 脳内で 不足してくるノルアドレナリンを補う。即効性が期待できる。ドロキシドパは、ノルアドレナリンの前駆体であり、投与により、ノルアドレナリンが補完される。 |
抗コリン薬 |
ドパミンが減少することで神経伝達物質アセチルコリンとのバランスが崩れてしまい、アセチルコリンの働きが強くなってしまうので、この薬でアセチルコリンの働きを抑えて、バランスを調整する。 抗コリン薬は通常,振戦優位なパーキンソン病の若年患者とジストニアの要素が一部みられる若年患者にのみ使用される。抗コリン薬として,ベンツトロピンおよびトリヘキシフェニジルがある。 |
ドパミン代謝阻害薬 (選択的MAO-B阻害薬) |
脳内のドパミンを分解する2大酵素の1つを阻害し,それによりレボドパの作用を延長させる。選択的MAO-B阻害薬には,セレギリンやラサギリンなどがある。 |
ドパミン代謝阻害薬 [カテコール O – メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬 ] |
ドパミンを分解する酵素の働きを抑えることで、ドパミンの作用時間を長くする。L-dopaの減量にも効果的である。 COMT阻害薬には、エンタカポンやトルカポンなどがある。 |
外科治療
一部の症例では、外科治療が施行される。
予防
パーキンソン病の予防策としては、下記のような方法が知られている。これらの予防策は、パーキンソン病の発症や進行を抑制する可能性があるとして実践を推奨されている。
- 適度な運動
- 定期的な運動は、パーキンソン病の予防に役立つ
- さまざまなアクティビティを含めることが推奨される
- バランスの取れた食事
- 果物、野菜、全粒穀物が豊富な食事
- 栄養バランスの取れた食事を摂る
- 社会的関与
- 社会への関与を継続し、活動的であり続ける
- 発症リスクを低下させる可能性がある
- 社会への関与を継続し、活動的であり続ける
- 毒素の避ける
- 農薬などの毒素は可能な限り避ける
あとがき
パーキンソン病は、現在の医療技術では完全に治すことは難しいとされている。パーキンソン病の主な治療法は、ドパミン補充薬による対症療法で、これにより症状の緩和や改善が可能である。しかし、これらの治療は症状を管理するものであり、根本的な原因を解消するもの(根治療法)ではない。
しかしながら、近年では、健康な人のiPS細胞から脳神経細胞を作り出し、それを患者に補うことで、パーキンソン病の根本治療を目指した研究が進められているという。このような新しい治療法はまだ研究段階ではあるが、将来的にはパーキンソン病を完治できる可能性もある。そんな時代が早く到来すればパーキンソン病患者にとっては福音となる。医療の進歩に期待したいと思う。
【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト |
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版 |
パーキンソン病は治る?治療の影響や新薬についても解説します!│健達ねっと (mcsg.co.jp) |
神経疾患とは、脳、脊髄、末梢神経などに障害を引き起こす疾病の総称。神経変性疾患、免疫性神経疾患、末梢神経疾患、筋疾患など多岐にわたる。 神経変性疾患には、脳卒中、認知症、パーキンソン病、脊髄小脳変性症などがある。 免疫性神経疾患には、重症筋無力症や多発性硬化症などがある。 また、末梢神経疾患にはギランバレー症候群などがあり、筋疾患には筋ジストロフィーなどがある。 |