はじめに
経口固形製剤(錠剤・カプセルなど)の品質を守るうえで、一次包装工程のプロセスバリデーション(PV)はとても重要なステップである。 なぜなら、製品の安定性・識別性・偽造防止・患者安全性に直結する工程だからである。
本稿では、一次包装工程におけるPVの基本と、実施時に押さえておきたい評価ポイントをわかりやすく解説したいと思う。
| <目次> はじめに 一次包装工程とは? プロセスバリデーション(PV)とは? 実施時に押さえるべき評価ポイント 実施のフロー例 薬事規制及びガイドライン 一次包装のPVに「3バッチ」は必要か? 一次包装のPVにプラセボは代用可能か? あとがき |
一次包装工程とは?
一次包装とは、製剤が直接触れる包装材(PTPシート、ボトル、ストリップなど)で製品を包む工程のことである。 この工程では、以下のような操作が含まれる:
- 錠剤・カプセルの供給
- 包装材(アルミ、PVCなど)の成形・供給
- 充填・シール(熱圧着など)
- 印字(ロット番号、有効期限など)
- 外観検査・排出
プロセスバリデーション(PV)とは?
PVとは、製造工程が一貫して所定の品質を満たすことを科学的に証明する活動のことである。 GMPでは、「設計された工程が意図したとおりに機能することを確認する」ことが求められる。
一次包装工程では、機械的な安定性・包装材の適合性・印字の正確性などが評価対象になる。
実施タイミングは、商業生産前(プロセス性能確認)、変更時、定期的再評価の時期などである。
実施時に押さえるべき評価ポイント
対象工程は、ブリスター包装(PTP包装)、ボトル充填、ラベリングなどである。主な評価項目は、シール強度、漏れ試験、識別性、異品種混入防止、機器設定の再現性などである。
評価項目とチェックポイントを以下に示す。
- 包装材の適合性
- 製剤との相互作用がないか(吸湿・吸着など)/遮光性・バリア性の確認
- シール強度・密封性
- 熱圧着条件の最適化/ピンホール・リークの有無/シール強度試験
- 供給・充填の安定性
- 錠剤の欠け・割れ・詰まりの発生頻度/供給装置の再現性
- 印字の正確性
- ロット番号・有効期限の視認性/印字ズレ・かすれの有無
- 外観検査の妥当性
- カメラ検査装置の感度・誤検出率/目視検査との整合性
- ラインクリアランス
- 製品混在・誤包装防止のための手順と記録の確認
実施のフロー例
- プロセス設計(Process Design)
- 包装材・機器・パラメータの選定とリスク評価
- パフォーマンス適格性評価(PQ)
- 実機・実条件での試験実施(3バッチが一般的)
- 継続的プロセス確認(CPV)
- 商用製造後のモニタリングとトレンド分析
薬事規制及びガイドライン
経口固形製剤(錠剤やカプセルなど)の一次包装工程におけるプロセスバリデーションに関連する薬事規制やガイドラインは、品質保証と製品の一貫性を確保するうえでとても重要なポイントである。以下に、日本および国際的な主要な規制・ガイドラインを整理してみた。
GMP省令
(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準)
- 厚生労働省令第179号(2021年改正)
- 第2章「製造管理及び品質管理の基準」にて、バリデーションの実施義務が明記されている
- 包装工程も「重要な製造工程」として対象
- 一次包装(ブリスター包装/PTP包装等)は、製品の安定性や識別性に直結するため、プロセスバリデーションの対象工程とされる
医薬品GMP事例集(厚生労働省)
- GMP適合性調査の参考資料として、包装工程のバリデーション事例が掲載されている
- 包装機器の設定条件(シール温度、圧力、時間など)の再現性や、識別ミス・混入防止の管理が重要視されている
医薬品製造販売承認申請のためのバリデーションに関するガイドライン(2014年)
- 製造工程の一貫性と再現性の確認を目的としたバリデーションの基本的考え方を提示
- 包装工程も「重要工程」として、プロセスバリデーションの対象とされる
ICH Q8(R2) Pharmaceutical Development
- 製剤設計と製造工程の理解を深めるためのガイドライン
- 包装工程も含めた製品品質の一貫性確保が求められる
ICH Q9 Quality Risk Management
- リスクベースアプローチに基づき、包装工程のリスク評価と管理が推奨される
ICH Q10 Pharmaceutical Quality System
- 包装工程を含む製造工程全体のライフサイクル管理を強調
- 継続的なプロセス確認(CPV)や変更管理も重要
FDA Process Validation Guidance (2011)
- 米国FDAによる「プロセスバリデーション:一般的原則と実施」ガイドライン
- 3段階のアプローチ(プロセス設計、プロセス性能の確認、継続的プロセス検証)が基本
- 包装工程も対象で、シール強度、ラベルの正確性、識別性などが評価項目になっている
一次包装のPVに「3バッチ」は必要か?
原則として:
- GMP省令や国内外のガイドラインでは、明確に“3バッチ必須”とは規定されていない
- しかしながら、「代表的な例」として3バッチが推奨されることが多い
- 特に商業生産規模での一貫性と再現性を確認するために、3連続バッチでの検証が一般的なアプローチである
ただし、以下のような場合は柔軟な対応も可能:
- 包装工程が単純で、リスクが低い
- 例:ボトル充填+ラベル貼付のみ
- 過去の実績や類似製品のデータが豊富にある
- 継続的プロセス確認(CPV)で補完する計画がある
結論として、3バッチは“推奨”であって“絶対”ではない。
ただし、査察対応や承認申請時の説明責任を果たすには、3バッチ実施が最も無難な選択肢とされている。
一次包装のPVにプラセボは代用可能か
原則として:
- プラセボ錠でのPVは可能であるが、いくつかの条件を満たす必要がある。
代用が認められる条件:
- プラセボ錠が実製剤と同一の物理的特性(形状・サイズ・硬度・重量など)を持っていること
- 例えば、実製剤がフィルムコーティング錠の場合は、プラセボ錠(フィルムコーティング錠)で代用しやすい
- 包装工程における挙動(搬送性、充填性、シール性など)が同等であることを事前に確認していること
- 識別性や印字、ラベル貼付など、製品特有の要素がバリデーションに影響しないこと
注意点:
- 最終製品の識別性や誤包装リスクの評価は、実製剤でしか確認できない場合がある。
- 承認申請用のPVデータとして使用する場合は、事前に当局との相談が望ましい。
結論として、プラセボ錠での代用は可能だが、条件付きである。 実製剤との同等性を科学的に示す必要があるし、最終的にはリスクベースで判断される。例えば、実製剤がフィルムコーティング錠の場合は、プラセボ錠(フィルムコーティング錠)で代用できると考えてよい。
あとがき
一次包装工程は、製剤の品質を守る最終防衛ライン、つまりは“最後の品質ゲート”である。 だからこそ、プロセスバリデーションで工程の信頼性を科学的に証明することが不可欠である。