はじめに
理想的な小児製剤のイメージは、「一般には買えない病気の子供だけが飲める特別においしいもの、ご褒美のような薬」であるという。これは、第一回小児製剤研究会(WEBセミナー;2021年2月5日開催)で原田努先生(昭和大学薬学部)が話の最後に述べられた言葉である。その「理想的な小児製剤」の具現化について、多方面から考えていきたいと思う。
小児製剤の開発における技術的課題は、成人用製剤に要求される一般的な品質特性(有効性、安全性、安定性、利便性など)に加え、より高度の服用性と用量調節性を満たす必要があることである。
<目次> はじめに 服用性 用量調節性 利用できる小児製剤の剤形 小児製剤開発における課題 ミニタブレット製造のための技術的課題 ミニOD錠製造のための技術的課題 あとがき |
服用性
服用性(飲みやすさ)については、剤形、大きさや味の観点から考える必要がある。小児の年齢も考慮しないといけない。生後6か月から11か月の乳児に受け入れられる製剤が、小児(1~6歳)に受け入れられるとは限らない。ある研究では、乳児にはミニタブレット(直径2~4 mm)の方がシロップ剤よりも適切でおり、小児にはシロップ剤の方が受け入れられるようである。味は、無味無臭が好まれるというのも目から鱗である。
用量調節性
用量調節性についてはついて、マルチプルユニット又は液体・ゼリー型(例えば、シロップ剤やゼリー剤など)を採用するべきで、シングルユニットである一般錠剤やカプセル剤では小児用製剤としての条件を満たせない。
利用できる小児製剤の剤形
小児製剤として有望な剤形には、シロップ剤、ゼリー剤、ミニタブレット、ミニ口腔内崩壊錠(ミニOD錠)がある。なかでも将来的に特に小児用剤形として中心的になる剤形として考えられるのはミニタブレットとミニ口腔内崩壊錠(ミニOD錠)だと思う。
ミニタブレットであれば、服用性も用量調節性も満たしている。現在開発中のディスペンサーが利用できるようになれば、他の剤形よりも利便性が良くなると思う。また、有効成分が苦味など不快な味がある場合であっても苦味マスキングのためのコーティングが比較的容易にできると思うので服用性に支障はきたさない。このような理由で、将来的には小児製剤の中心的剤形はミニタブレットだと思うわけである。
一方で、日本の製剤研究技術者が得意とする口腔内崩壊錠の技術を小児製剤に生かせば「ミニOD錠」も世界中で通用しそうに思う。ミニOD錠の場合には不快な味がしない有効成分にしか利用できないかもしれない。しかしながら、苦味マスキング技術が利用できるなら苦味などの不快な味がする有効成分のミニOD錠も製剤開発できるようになるし、最初からあきらめる必要もないであろう。小児用製剤の開発においては、苦味マスキングの技術開発が一層必要となってくるに違いない。
小児製剤開発における課題
日本国内だけでなく世界的なニーズを考慮すれば、小児製剤開発のためには「ミニタブレット」と「ミニOD錠」製造のための製剤技術の製剤学的課題を考えればよいように思う。
ミニタブレット製造のための技術的課題
- 1錠ごとの質量バラツキを小さくできるような打錠用末の造粒
- 1錠ごとの質量バラツキを小さくできるような打錠
- 苦味マスキングのためのフィルムコーティング(マスキング効果と溶出性のバランス)
ミニOD錠製造のための技術的課題
- 口腔内崩壊錠としての処方設計
- 1錠ごとの質量バラツキを小さくできるような打錠用末の造粒
- 1錠ごとの質量バラツキを小さくできるような打錠
- 苦味マスキング技術(有効成分が不快な味を有する場合)
あとがき
小児製剤開発における個々の課題は、従来技術で克服できるものもあれば、新たな技術開発を必要とするものもある。個人的には非常に興味深いところである。別稿でじっくりと考えていくつもりである。
一方、小児用医薬品の開発において成人用医薬品の臨床データを外挿できるようにするガイドライン(案)がICH(医薬品規制調和国際会議)で議論されていることから、小児用医薬品の開発環境も大きく進展していくと推測する。
小児用医薬品開発における外挿とは、医薬品への反応が、小児と参照集団(成人や他の小児集団)の間で十分に類似していると推定できる場合、参照集団に関する有効性・安全性や用法・用量などを小児にも適用できるというものある。これにより小児に対する不要な臨床試験の実施を割愛することができ、小児用医薬品の開発を進めやすくなるというメリットが生じる。
ICHのガイドライン(案)が明確になったら、対象となる疾患や医薬品、治療効果の類似性評価の方法、投与量の選択方法、有効性試験や安全性評価に関する留意事項などを勉強してみたいと思う。