はじめに
製剤や中間体に含まれる不純物の定量は品質保証の要である。低濃度の不純物を正確に測定するには、分析法の再現性と精度を高める工夫が欠かせない。
安定同位体標識法と内部標準法は、どちらも定量結果のばらつきを抑制する代表的なアプローチである。本稿では両手法の原理、メリット・デメリットや適用例を取り上げたいと思う。
安定同位体標識法の概要
安定同位体標識法では、不純物または主体化合物に重水素(²H)や¹³Cなどの同位体を導入した標識試薬を使用する。
標識化合物は分析プロセス中に試料と同じ挙動を示すため、前処理から検出までのすべてのロスやイオン抑制を相殺可能である。
LC–MS/MSを使って標識ピークと非標識ピークの比率を算出することで、極めて高い定量精度が得られる。コストは高めであるが、微量不純物や複雑行列試料に対して威力を発揮する。
内部標準法の概要
内部標準法では、試料中に構造類似の化合物を一定濃度で添加し、検出時のピーク面積比から定量する。
主にLC–UVやELSDなど、MSを伴わない分析系で多用される。添加した内部標準は保持時間が近いため、流量や溶離液変動の影響を部分的に補正できる。コストは比較的低く、手軽に導入できる点が強みである。
安定同位体標識法と内部標準法の比較
項目 | 安定同位体標識法 | 内部標準法 |
---|---|---|
構造相関性 | 完全同一構造 | 類似構造 |
ロス補正範囲 | 前処理~検出まで全域補正 | 検出段階の変動を部分補正 |
必要装置 | LC–MS/MS | LC–UV、ELSDなど多様 |
コスト | 高い 標識試薬の調製・購入費用 | 低~中 市販内部標準化合物使用可 |
適用領域 | 極微量不純物、 複合行列試料 | 中濃度領域、 日常的な品質管理 |
実務への適用例
- 安定同位体標識法
- 製剤中のトレーサビリティが重要な薬物残渣分析で活用
- 標識化合物を内部標準として添加し、LOQ以下の不純物を高精度に定量したという報告がある
- 内部標準法
- ビタミン剤や脂溶性天然物のLC–UV分析で多用
- 添加標準によってピーク面積RSDを1%以下に抑え、日常QC業務の効率化に貢献している
あとがき
安定同位体標識法は、補正範囲が広く微量定量に優れるがコスト負担が大きい点に注意が必要である。一方、内部標準法は手軽さとコストメリットに優れるが、構造相関や添加量の最適化が鍵となる。
安定同位体標識法と内部標準法を用途や試料特性に応じて使い分けることで、最適な不純物定量法を構築できる。最近では、AI(機械学習)を用いた定量モデルや自動化プラットフォームとの連携も注目されているようである。
「SPEAK UP」HOMEに戻るにはこちらから
「薬剤製造塾ブログ」HOMEへはこちらから
【参考資料】
【関連記事】
「SPEAK UP」HOMEに戻るにはこちらから
「薬剤製造塾ブログ」HOMEへはこちらから