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局方一般試験法に「元素不純物」が収載され、元素不純物の評価・管理の厳格化されるのは歓迎すべきだ!

はじめに

局方一般試験法に「元素不純物」が収載されたことは、医薬品の品質と安全性を高めるために重要な改正だと思う。

元素不純物は、医薬品の製造過程や原材料に由来する金属や非金属の微量成分で、ヒトに対する毒性や製剤の品質特性に影響を与える可能性がある。

元素不純物の評価・管理は、国際的に調和されたガイドラインに基づいて行われ、製剤中の元素不純物の許容限度値やリスクアセスメントの方法が定められている。

局方一般試験法「2.66 元素不純物」は、このガイドラインを反映した規定で、新製剤以外の医薬品にも適用されることになった。これにより、医薬品の品質管理がより科学的かつ合理的になると期待される。


<目次>
はじめに
元素不純物が局方一般試験法に収載された意義
元素不純物
元素不純物のクラス分類
PDE値とは
元素不純物のリスク評価
あとがき

元素不純物が局方一般試験法に収載された意義

局方一般試験法とは、日本薬局方に収載されている医薬品の品質試験に関する規定である。局方一般試験法には、医薬品の性状、同定、含量、不純物、溶出度、滅菌、無菌、生物学的活性、安定性などの試験項目や方法が定められている。局方一般試験法は、医薬品の品質と安全性を保証するために重要な基準であり、製薬業界や医療機関において広く利用されている。

第十八改正日本薬局方では、一般試験法「2.66 元素不純物」が新たに収載され、これまで参考情報であった「製剤中の元素不純物の管理」が統合されることになった。

これにより、新製剤以外の医薬品である「新薬の既存製剤」、「ジェネリック医薬品」、「一般医薬品」及び「局方外の医薬品」にも「製剤中の元素不純物の管理」が適用されることになった。これに伴い、医薬品各条の重金属試験及び個別金属不純物試験の規定が削除された。

これらの改正は、医薬品の品質管理をより科学的かつ合理的にするために必要なものであり、日本薬局方の国際化にも寄与するものと期待されている。


元素不純物

元素不純物は、医薬品の製造過程や原材料に由来する金属や非金属の微量成分である。元素不純物は、ヒトに対する毒性や製剤の品質特性に影響を与える可能性があるため品質管理の対象となっている。


元素不純物のクラス分類

元素不純物は、その毒性と製剤中に存在する可能性に基づいて、クラス1からクラス3までの三つのクラスに分類されている。

クラス1の元素不純物とは、ヒトに対する毒性の高い元素であり、As(ヒ素)、Cd(カドニウム)、Hg(水銀)、Pb(鉛)などを指す。

クラス2の元素不純物とは、クラス1より毒性が低く、投与経路に依存して毒性を発現する元素を指す。クラス2AにはCo(コバルト)、Ni(ニッケル)、V(バナジウム)などが含まれ、クラス2BにはAg(銀)、Au(金)、Ir(イリジウム)などが含まれる。

クラス3の元素不純物とは、経口投与による毒性が比較的低い元素で、Ba(バリウム)、 Cr(クロム)、 Cu(銅)、 Li(リチウム)などが含まれる。

各クラスには、許容一日曝露量(PDE値)が設定されており、製剤中の元素不純物の管理に用いられる。


PDE値とは

PDE値とは、許容一日曝露量Permitted Daily Exposure)の略で、製剤中の元素不純物の毒性データを基に、一日当たりに摂取しても安全とされる量を示す指標である。

PDE値は、元素の毒性、投与経路、曝露期間、人間と動物の種差や個体差などの要因を考慮して算出される。

PDE値は、製剤中の元素不純物の許容濃度を決めるために用いられ、製剤の品質と安全性を保証するために重要な指標となる。


元素不純物のリスク評価

元素不純物のリスク評価とは、製剤中の元素不純物を特定・評価し、製剤に設定される許容一日曝露量(PDE値)の30%のレベルを管理閾値として、化学的根拠に基づいた管理方法を設定することである。

リスク評価では、これらのクラスと投与経路に応じて、元素不純物の混入源を特定し、製剤中の元素不純物の存在の有無を測定又は評価し、PDE値と比較して管理方法を決定する。

製剤中の元素不純物の量を測定(分析)するために、例えばICP-OESInductively Coupled Plasma Optical Emission Spectrometer;誘導結合プラズマ発光分光分析装置)やICP-MSInductively Coupled Plasma Mass Spectrometer;誘導結合プラズマ質量分析装置)などの高感度な元素分析装置を用いて分析を行う。

ICPInductively Coupled Plasma)とは、アルゴンガスに高周波電流を流して生成される高温のプラズマを指す。試料溶液を霧状にしてプラズマに導入すると、元素が原子状態に分解され、励起やイオン化される。

ICP-OESは、プラズマで励起された元素が基底状態に戻る際に放出する光の強度から元素の種類と量を測定する方法で、高マトリックス試料や高濃度の元素を測定するのに適している。

一方、ICP-MSは、プラズマで生成されたイオンの質量と量から元素の種類と量を測定する方法で、極微量の元素や同位体比を測定するのに適している。

尚、リスク評価の結果は、文書化して説明できるようにする必要がある。


元素不純物の管理

元素不純物の管理とは、医薬品に含まれる金属や非金属の微量成分である元素不純物の品質と安全性を保証するための管理方法である。

製剤中の元素不純物の量がPDE値を超えないように、製造過程や原材料の管理、容器施栓系の選択、製品の保存条件などの対策を講じる。また、リスク評価の結果や分析データを文書化して記録する。

元素不純物の評価・管理方法は、国際的に調和されたガイドラインであるICH Q3Dや日本薬局方の一般試験法「2.66 元素不純物」に基づいて行われる。これらのガイドラインは、医薬品の品質管理をより科学的かつ合理的にするために作成されたものであり、製薬業界にとって重要な基準となった。


あとがき

元素不純物は、医薬品の製造過程や原材料に由来する可能性があり、ヒトに対する毒性や製剤の品質特性に影響を与える可能性がある。医薬品の品質と安全性を高めるために、国際的に調和されたガイドラインに基づいて、製剤中の金属や非金属の微量成分である元素不純物の評価・管理を行うことは望ましいことである。

このように患者を含むユーザーにとっては望ましいことばかりであるが、実際に元素不純物の評価や管理を実施しなければならない製薬企業は負担に思っているかも知れない。しかしながら、これは製薬企業の本来の使命として避けることはできない。今回の局方改正を機に、医薬品の品質と安全性の向上により一層取り組んで頂きたい。

第十八改正日本薬局方で、一般試験法「2.66 元素不純物」が新たに収載された意義は、医薬品の品質管理をより科学的かつ合理的に実施するために必要なものであり、日本薬局方が日米欧三極の一角を担う国際化のためにも必要な改正であったと思う。