はじめに
気管支喘息の発症や発作にもストレスが影響をしていると知った際には、私は率直に驚いたものである。ストレスと気管支喘息の関係性がすぐに理解できなかったからである。
ストレスを感じると、体内のマスト細胞などから炎症物質が放出され、気管支喘息の症状が悪化したり、発作が誘発される危険性が高まるのだそうだ。特に、過労や過度のストレスによって自律神経やホルモンバランスが乱れ、それによって気道が収縮して喘息の発作を起こしやすくなると言われている。
つまり、ストレスが気管支喘息の発症の準備因子、誘発因子、増悪因子として働いている可能性が高いということである。
また、気管支喘息の患者ではうつや不安障害の罹患率が健常人と比べると明らかに高いと報告されている。これは、ストレスが喘息の症状を悪化させるだけでなく、他の精神的な問題を引き起こすからだと考えられている。
勿論、気管支喘息はストレスだけが原因で発症しているわけではない。しかしながら、ストレス管理も無視できないことを念頭において、気管支喘息の原因、症状、検査・診断、治療法、予防について学んでいきたい。
気管支喘息とは
気管支喘息とは、気管支(気道)の粘膜に慢性的な炎症が起こる疾病である。気管が慢性的に炎症を繰り返すことで粘膜が厚くなり、さらに痰などの分泌物が増加して気道が狭くなって、喘鳴や呼吸困難などが生じる。
症状
外部からの刺激に対して気管支が過敏になったり、気管支の内側が狭くなったりすることで、呼吸症状が繰り返し起こるようになる。症状は軽症なものから、適切な処置が行われないと命にかかわるような非常に重篤なものまでさまざまである。
代表的な症状は、咳・痰、呼吸困難や喘鳴である。特に、就寝中や明け方に咳や息苦しさで目が覚めることが気管支喘息の特徴である。痰は、無色で粘り気が強いことが多い。
喘鳴というのは、呼吸時に「ヒューヒュー」や「ゼーゼー」という音が聞こえることを指す。喘鳴は心臓の疾病でも聞こえることがあるため、喘鳴があるからと言ってそれだけで直ちに気管支喘息と判断することはできない。
気管支喘息の発症年齢は幼児期と40~60歳代に2つのピークがあり、どの年齢でも発症することがある。小児喘息の半数以上は自然に治るといわれているが、成人での発症は自然に治ることは少ないとされている。
原因
気管支喘息を発症させる主な原因は、ダニ、カビ(真菌)、ペットの毛といった、家のほこりの主成分になっているものである。これらを吸入することで、体が異常な免疫反応を起こし、気管支が過敏に反応してしまうのが、気管支喘息発症のメカニズムである。
また、ペットの毛に付着するフケ(たんぱく質)や特定の花粉(桃やきのこなど)も気管支喘息の原因となることが報告されている。
直接的な原因ではないが、気管支喘息の症状を悪化させる原因としては、風邪や過労、喫煙やストレスが挙げられている。
これら以外には、線香の煙や揮発性の有機溶媒も気管支喘息を悪化させることがある。また温泉の二酸化硫黄やPM2.5などの環境汚染物質も喘息を悪化させる恐れがあると報告されている。
発症しやすい人の特徴
アトピー性皮膚炎や食物アレルギーを有するアレルギー体質の人は、気管支喘息を発症しやすいと言われている。
気管支喘息で起こる気管支の炎症は、原因物質を吸入した際に、好酸球やIgE抗体といった物質が体内で産生されることによって起こるが、アトピー性皮膚炎の患者は、この好酸球やIgE抗体を作りやすい体質のため、気管支喘息を発症しやすいといえる。
しかしながら、アレルギー体質だからといって、必ずしも気管支喘息になるわけではない。また、喘息が起きやすい気管支の直径は2~5μmであり、一方、花粉の粒子は5μm以上あるので気管支まで入ることはできない。したがって、花粉症が直接的に気管支喘息を引き起こすこともない。
検査・診断
気管支喘息の検査と診断には、いくつかの方法が知られている。
検査方法
呼吸機能検査 (PFT)
この検査では、肺の容量やガス交換能力を測定する。患者は特定の呼吸パターンを繰り返し行い、その結果を解析する。
血液検査
気管支喘息の診断には、血液検査が役立つ。特に、血中の免疫グロブリン(IgE)のレベルを測定することがある。
胸部X線
胸部X線は、肺の異常や炎症を確認するために使用される。
呼吸細胞分析
呼吸細胞のサンプルを採取し、顕微鏡で観察することで、アレルギー性炎症の有無を確認する。
診断方法
臨床検査
専門医は、患者の症状や既往歴を詳しく聴取し、検査結果を基に診断する。
呼吸機能検査の結果
PFTの結果が気管支喘息の診断に重要な役割を果たすという。
アレルギー検査
アレルギー反応が気管支喘息の原因となる場合、アレルギー検査が行われる。
気管支喘息の診断は、これらの検査結果を総合的に判断することで行われる。気管支喘息の疑いがある場合、速やかに専門医に相談することをお勧めしたい。
治療
気管支喘息は、吸入薬や飲み薬などの治療薬でコントロールできていれば、基本的に症状が出ることはない。そのため、就寝中や明け方に咳が出るなどの症状がみられる場合には、コントロールが不十分といえる。十分なコントロールができていれば、運動により発作が起きることも基本的にはない。
しかしながら、気管支喘息のなかには運動誘発性喘息というタイプの喘息もある。これは、運動時に過度に呼吸を繰り返し、気管支粘膜の浸透圧が変化することで喘息発作が起きるものである。運動誘発性喘息の場合には、過度な運動を行わないなどの対策も必要である。
気管支喘息に似た症状が現れる疾病
気管支喘息に似た症状が現れる疾病として下記のようなものが知らせている。
咳喘息
咳喘息は、気管支喘息と同じく気道の狭窄や気道の過敏性によって起こる疾病だが、激しい咳は出るものの呼吸機能は正常であり、気管支喘息のように呼吸困難や喘鳴などは伴わないので気管支喘息とは区別される。
しかしながら、咳喘息患者の3人に1人は気管支喘息に移行すると言われており、適切な治療が必要となる。
アスピリン喘息
アスピリン喘息は、アスピリンなどの酸性非ステロイド薬などの服用によって喘息様発作を主体とする症状が現れる疾病である。
アスピリン喘息は成人喘息の10%を占めており、治療薬により重度の呼吸困難などの症状が現れる可能性があるため、投薬には注意が必要である。
発症の原因物質として非ステロイド性抗炎症薬以外にも食品の着色剤、コハク酸エステル化合物の添加物などが知られている。
百日咳
百日咳は、主に百日咳菌やパラ百日咳菌により引き起こされる、激しい咳を特徴とした感染症である。
乳幼児期に百日咳の予防接種を行うため発症することは多くはない。しかし、気管支喘息と区別すべき疾病(感染症)である。
胃食道逆流症(GERD)
胃食道逆流症は、胃酸を多く含む内容物が食道内に逆流する疾病である。胃酸の逆流が刺激となり、慢性的に咳がでることがあるため、気管支喘息と見分けづらい場合がある。
感染後咳嗽
ウイルスや細菌などの感染症にかかり、感染症が治癒したあとも咳が長引くことで発症し、気管支喘息と似たような症状であるため診断の際には鑑別が必要となる。
予防
気管支喘息の予防策としては、下記のような対策が推奨されている。
- アレルゲンの除去
- 飲酒や喫煙を控える
- ストレスの管理
- 根気よく治療を継続
- 喘息日誌の作成
まず第一に、アレルゲンを身の周りから除去することが必要である。部屋を清潔に保ち、ダニやハウスダストなどのアレルゲンを除去することが予防策として重要であるとされる。
アルコールやタバコは喘息の発作を誘発するので、飲酒や喫煙を控えることが推奨されている。節酒と禁煙は気管支喘息の予防にも必須なのかも知れない。
ストレスも発作を起こす重大な要素であるので、ストレスの管理、つまりはストレスを適切に発散することが求められる。
気管支喘息は、長期の治療が必要な病気である。そのため自己判断で治療を中断しないようにし、根気よく治療を継続することが発作の予防につながる。
発作の状況や薬の使用頻度・治療の記録などを記録する「喘息日誌」を作成すれば、何がきっかけで発作を起こしたかが分かり、予防のための対策を立てやすいという。
あとがき
ストレスが高まると、体内のマスト細胞などから炎症物質が放出され、気道が収縮し、喘息の発作を引き起こしやすくなる。特に過労や過度のストレスによって自律神経やホルモンのバランスが乱され、それによって気道が収縮して喘息の発作を起こしやすい状況がつくられると聞けば、気管支喘息の予防においてストレス管理は非常に重要な要素となるのは容易に理解できることだ。
ストレス管理の手っ取り早い方法と言えば、まずは休養をとることであろうか。適度に休養をとり、趣味や好きなことをしてストレスを上手に発散するようにすれば良い。
仕事などでどうしてもストレスを避けることができない場合は、長期管理薬(吸入ステロイド薬や長時間作用性β2刺激薬など)で症状をコントロールすることも可能な時代である。
残念ながら気管支喘息の根治療法はないが、対症療法としての治療薬は充足しているといってよい時代に私たちは生きている。あとはアレルゲンの除去とストレス管理をうまく行って、気管支喘息の予防対策をしっかりとやればQOL(生活に質)を維持することも可能になると期待できる。
【参考資料】
日本呼吸器学会HP |
喘息予防・管理ガイドライン2018 (日本アレルギー学会・喘息ガイドライン専門部会) |
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン |
気管支喘息発作の予防方法。受診を第一に、発作を起こさないためのあらゆる工夫を | メディカルノート (medicalnote.jp) |