はじめに
白血球は、からだの中に侵入してきたウィルスや細菌などから、常に命を守り続ける免疫細胞である。からだの中では多種多彩な免疫細胞群(白血球の仲間達)が、緻密な連携を組んで異物と戦っている。
マクロファージは、免疫系の中心的な役割を担う多機能な白血球であり、体内における「掃除屋」としての働きとともに、免疫応答の調整にも重要な役割を果たしている。
マクロファージとは
マクロファージ(Macrophage)は、 白血球の中で一番大きい単球という細胞が血管外へ出て変化したもので 、アメーバ状の形態をした細胞である。
好中球と似た働きがあるが、やや遅れて異物に到達する。 からだの中に侵入してきた異物を発見すると、自分の中にそれを取り込んで消化 (貪食処理) する。
また一部のマクロファージは、異物の特徴 (抗原)を細胞表面に出すことで、外敵の存在を免疫機能の指令役であるT細胞に伝える。
そのほか、他の免疫細胞と共同で、TNF-α、インターロイキン、インターフェロンなど免疫細胞を活性化させるサイトカインという物質産生にも関与する。
単球は、血液中には10~20時間程度しか存在しない。組織に入ると、組織マクロファージという巨大な細胞になって、数か月から数年間とどまるともいわれている。
マクロファージは、骨髄で作られる前駆細胞(単球)が血流を通じて各組織に移動し、そこで分化して形成される。組織に定着したマクロファージは、その場所ごとに機能や形態が変わり、例えば、肺では肺胞マクロファージ、肝臓ではクッパー細胞、脳ではミクログリアなどと呼ばれ、局所環境に適応した特徴を示す。
マクロファージの役割
病原体などの異物が体内に侵入した場合、最初に攻撃を仕掛けるのは好酸球とマクロファージ(単球)である。好中球とマクロファージは、細菌などをとらえて食べる(貪食作用)が、好中球の寿命は短く、ある程度食べてしまうと、限界がやってきて自滅してしまう。その後も貪食作用を引き受けるのがマクロファージであり、その貪食作用は好中球よりずっと長持ちする。
マクロファージは、他にも重要な別の役割も負っている。 細菌などをその触手でとらえ食べつくした後、細胞表面にさらなる応援を頼むための旗印を立てる。これを、抗原提示という。抗原提示とは、「ここに敵がいるぞ」とほかの細胞に知らせる仕組みであり、これがその後の免疫反応につながっていく。(下図参照)

マクロファージが立てた旗に気づくと、今度はT細胞が動き出す。最初に動くのは、作戦参謀役のヘルパーT細胞である。ヘルパーT細胞は、マクロファージと結合し、サイトカインという 情報伝達物質を他のT細胞やB細胞に与え、これを受け取ることで T細胞とB細胞 は動き出し、マクロファージを助ける。
さらに、キラーT細胞が動き出し、その他多くのマクロファージも前線に集まってくる。キラーT細胞に「攻撃しろ」と指令を出すのはヘルパーT細胞である。ヘルパーT細胞は同時に、敵に対して最も効果的な武器(抗体)を生産するB細胞を選び出し、抗体をつくらせる。
闘いが長期化すると、身体のダメージも大きくなり、正常な細胞までだめにしてしまったり、アレルギー反応を起こしたりすることもある。そこで、だから、適当なところで闘いを終わらせる仕組みも備わっている。その抑制役を担うのが、サプレッサーT細胞である。サプレッサーT細胞は、闘いの状況を冷静にみつめ、抗体の生産状況を常に監視し、攻撃し過ぎないようにしている。
マクロファージの主な機能(役割)をまとめると以下のようになるかも知れない。
- ファゴサイトーシス(貪食作用)
- マクロファージの最も顕著な特徴は、病原体(細菌やウイルス)や死細胞、細胞残骸などの不要な物質を取り込み、内部で分解するファゴサイトーシスである
- これにより、体内の不要物や感染源を除去し、組織の正常な状態を維持する
- 抗原提示
- 病原体を貪食して分解した後、その断片(抗原)をMHCクラスII分子に結合させ、細胞表面でT細胞に提示する
- これにより、適応免疫系(主にヘルパーT細胞)の活動が活性化され、免疫応答の開始と制御に寄与する
- サイトカイン・ケモカインの分泌
- マクロファージは、炎症性サイトカイン(例:TNF-α、IL-1、IL-6)やケモカインを分泌し、周囲の細胞にシグナルを伝えることで、炎症反応や免疫細胞の遊走、さらには免疫応答の調整を行う
- 組織修復と解毒作用
- 怪我や炎症の際には、損傷部位での不要物の除去や細胞外マトリックスの再構築を促進し、組織の修復プロセスにも関与している
- 体内への毒素の除去や解毒作用にも寄与することが知られている
マクロファージの多様性と極性
- M1型(プロ炎症性)
- インターフェロンγ(IFN-γ)や細菌由来のリポポリサッカライド(LPS)などの刺激により誘導されるマクロファージは、強い貪食作用と炎症性サイトカインの分泌を行い、病原体の排除に特化している
- がん細胞に対する抗腫瘍効果にも寄与する場合もある
- M2型(抗炎症性/修復型)
- IL-4やIL-13などのシグナルにより誘導されるM2型は、炎症を抑制し、組織修復や再生を促進する働きを持つ
- 免疫寛容の維持やアレルギー反応の制御にも関与し、静穏な環境を作り出す役割が期待されている。
このM1/M2の極性は、マクロファージが状況に応じて柔軟に機能を変化させ、急性の感染防御から組織修復、さらには腫瘍環境の調整にまで広く関与できる重要な特徴となっている。
臨床応用と研究分野
- がん免疫療法
- マクロファージは、腫瘍微小環境で重要な役割を果たし、がん細胞を排除する働きが期待される
- 腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、しばしば腫瘍の成長や免疫抑制に寄与するため、その機能の制御が治療戦略の一部として注目されている
- 自己免疫疾患および慢性炎症
- マクロファージが過剰に活性化すると慢性炎症が引き起こされ、自己免疫疾患の原因となることがある
- これに対しては、マクロファージの活動を制御することで、炎症の制御や症状の改善を目指す研究が進んでいる
- 感染症治療
- マクロファージは病原体の排除に中心的な役割を果たすため、抗菌、抗ウイルス治療、さらにワクチンの設計においてもその機能をターゲットとする研究が進行中らしい
あとがき
マクロファージは、体内で不要物や病原体の除去、抗原提示による適応免疫の誘導、さらには組織修復の促進といった多様な機能を持つ免疫細胞であることが分かった。
M1型・M2型という異なる極性を示すことで、炎症反応の活性化から抑制、そして組織修復まで柔軟に対応できるという。そのため、感染症、がん、自己免疫疾患など、さまざまな病態の治療や予防のターゲットとしても注目されているということらしい。
マクロファージ=貪食細胞としてか認識していなかった自分が恥ずかしくなる。今後は、マクロファージの細胞内シグナル伝達やその相互作用、さらには新たな治療法としての応用例など、より詳細なテーマについて掘り下げる必要がありそうだ。興味が尽きない体内細胞である!
【参考資料】
国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策情報センターHP |
看護roo! HP |