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高血圧症とは? 原因と症状は?診断・治療法と予防策

はじめに

人間ドックなどの検診では勿論、内科の診療前にも血圧を測定されることが多い。それは、血圧は心臓のポンプ力と血管の機能を反映しており、バイタルサインの一つとして極めて重要な指標だからである。

血圧が高いと、脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高まるため、診療の前に血圧を測定することで、これらのリスクを早期に発見して、適切な治療を行うことが可能となる。つまり、血圧測定が患者の健康状態を評価し、適切な診療を提供するための重要なステップとなっているということである。

また、血圧はストレスや緊張などの精神状態によっても変動するため、診療前の血圧測定は、患者の現在の心身の状態を把握するのにも役立っているらしい。さらに、診療中や診療後に血圧が大きく変動した場合、それは何らかの医療的な問題を示す可能性があるとされる。

血圧が基準値よりも高いと高血圧症と呼ばれるが、高血圧症は、日本では非常にポピュラーな疾患となっている。ある統計では、日本には約4,300万人、つまり日本人の約3人に1人が高血圧である状況らしい。

また、40〜70歳の高血圧有病率(140/90mmHg以上の高血圧患者または降圧薬服用中の患者)は、男性で60%、女性では40%を占めているとされる。男は40歳を越えたら2人に1人以上が高血圧と診断されていることになる。

これらの数字からも分かるように、高血圧対策は大半の人にとって人ごとではない問題である。また、高血圧が進行すると発症しやすくなる、より重篤な疾病として、脳血管疾患心疾患腎臓病動脈硬化メタボリックシンドロームなどが知られており、これらの生命にかかわるリスクの高い重篤な疾病に罹患することは避けたいものである。

高血圧の予防と管理は、これらの重篤な疾患の予防にも繋がる。だからこそ高血圧の予防と管理は、「国民的課題」として取り組まなければならない問題であると思う。

目次
はじめに
高血圧症とは
高血圧の原因
本態性高血圧
二次性高血圧
糖尿病と高血圧の関係
循環器系疾患と高血圧
高血圧の症状
高血圧の検査・診断
高血圧の治療
高血圧症治療薬
高血圧の予防
あとがき

高血圧症とは

心臓から送り出された血液が動脈の血管壁の内側を押す力(動脈にかかる圧力)を血圧という。心臓が収縮して動脈に血液を送り出したときの血圧を収縮期血圧、心臓が拡張して動脈にかかる圧力が小さくなったときの血圧を拡張期血圧と呼ぶ。

高血圧症とは、血圧が高すぎる状態が続く疾病を指し、高血圧症の診断基準(高血圧治療ガイドライン;日本高血圧学会)によると、繰り返しの測定(診察室で測定)で、収縮期血圧140mmHg以上で、拡張期血圧90mmHg以上の場合を高血圧症と診断される。

シニア世代は一般的に血圧が高くなる傾向があり、若い人と同じ高血圧の診断基準を適用するのはどうかという懸念は当然ながら起きる。健康的に生活できているシニア世代に無駄な降圧剤を投与することを避けるためにもシニア世代にはもう少し高めの診断基準があってもよいのではないかという指摘である。

高齢者の血圧管理については、一般的な高血圧の診断基準とは異なる考え方が必要とされ、日本老年医学会は、高齢者の血圧管理について特別なガイドラインを設けている。

そのガイドラインによれば、高齢者の血圧の正常値や降圧目標は年齢により異なるとされている。具体的には、65~74歳までの前期高齢者の場合、血圧の正常値は「140/90mmHg未満」で、75歳以上の後期高齢者の場合は「150/90mmHg未満」とされている。

このガイドラインにおいても「75歳以上の後期高齢者」以外は同じ基準で高血圧と診断されるようだ。

したがって、私たちはシニア世代になったからと言って、すぐには血圧管理の診断基準がゆるくなるわけではなさそうである。


原因

高血圧症は、心臓から拍出する血液の量(心拍出量)と血管の硬さ(血管抵抗)のバランスが崩れることが原因で起こると言われている。また、肥満、ストレス、不健康な食品(脂肪または大量の塩分)などの環境的および個人的な条件によって引き起こされると言われている。

高血圧症は、その原因により、本態性高血圧二次性高血圧に分類されている。


本態性高血圧の原因

本態性高血圧の原因は不明である。つまり原因が特定されていない高血圧症を「本態性高血圧」と呼んでいる。

本態性高血圧のリスク因子としては次のようなものが指摘されている。

  • 塩分の過剰摂取
  • 肥満
  • 運動不足
  • ストレス
  • 喫煙
  • 加齢
  • 遺伝的な要因

このように本態性高血圧は、生活習慣や加齢、遺伝的な要因などが関連している。日本人の高血圧症患者の大半は、この原因が特定できない「本態性高血圧」に分類される。だから、一般的に単に「高血圧」と呼ぶときは、「本態性高血圧」のことを指す。


二次性高血圧の原因

二次性高血圧とは、何らかの病気が原因となって起こる高血圧のことである。つまり高血圧を引き起こす原因となる疾病が特定されているものを指す。二次性高血圧の原因には次のようなものが知られている。

  • 腎実質性高血圧
  • 腎血管性高血圧
  • 内分泌性高血圧
    • 原発性アルドステロン症
    • クッシング症候群
    • 褐色細胞腫
  • 睡眠時無呼吸症候群性高血圧
  • 遺伝性高血圧
  • 薬剤誘発性高血圧

糖尿病と高血圧の関係

糖尿病と高血圧は密接に関連しており、糖尿病患者の約40~60%が高血圧を合併していると言われている。

糖尿病患者が高血圧になりやすい主な理由は、循環血液量が多いこととインスリン抵抗性があることが挙げられている。

高血糖状態の濃い血液は、血管の壁を傷つけやすく、血管壁が分厚くなるため、血管はしなやかさを失い弾力が少なくなる。その一方で、糖尿病の罹患によってインスリンの作用が低下すると血糖値が上がり、血糖値を下げるためさらにインスリンが分泌される。血液中のインスリンが増えると高インスリン血症になり、腎臓でのナトリウム(塩分)の再吸収が増加し血液中のナトリウムが増える。そしてナトリウム濃度の増えた血液を薄めるために、血液中の水分を増やし循環血液量が多くなる。血管の弾力性が失われている上に、循環血液量が多くなるなるので、当然ながら血圧の上昇につながる。

したがって、糖尿病が原因で高血圧が発生する場合、それは二次性高血圧の一種と考えてもよいかも知れない。糖尿病と高血圧が合併すると、糖尿病性腎症や網膜症を悪化させるリスクが高くなるのでそれは避けなければならない。


循環器系疾患と高血圧

高血圧症が進んで動脈硬化になると、狭心症や心筋梗塞・心不全などに進んでいくおそれもある。また、脳では、脳梗塞・脳出血などの脳血管障害を引き起こす。

日本人は高血圧症から脳梗塞脳出血にかかる人が、欧米人に比べて格段に多くなっている。


高血圧の症状

高血圧症は、初期には症状がでないことが多く、自覚症状が全くないといえる。血圧を測定して初めて気づくことが大半である。

ただし、一部の患者では頭痛、めまい・ふらつき、動悸、息切れなどが現れることが知られている。このような場合は、かなり血圧が高くなっている可能性があるので、すぐに医師に相談した方がよい。


高血圧の検査・診断

高血圧症の診断自体は、血圧測定で行う。そのため高血圧症の診断は、一般的なクリニックや病院の内科で行うことができる。

尚、高血圧症による動脈硬化の診断には、脈波測定検査、頚動脈エコーなどの検査が行われることがある。

また、血液検査や尿検査、心電図、心臓超音波検査(心エコー)などを実施する定期健診を受けることで、高血圧の原因となっているより重篤な疾病を早期に発見できる場合がある。そういう意味でも定期健診は重要であると思う。


高血圧の治療

高血圧症を治療するには生活習慣を見直すことが大切である。具体的な生活習慣の改善には、下記のようなものがある。

  • 禁煙
  • 減塩
  • 野菜をよく食べる
  • 肥満があればダイエット
  • 運動
  • 過度の飲酒は控える

上記のような生活習慣を改善しても血圧の高い場合は降圧薬を用いて治療することになる。


高血圧症治療薬

高血圧症治療薬は、一般に「降圧薬」または「降圧剤」と呼ばれ、以下のような種類がある。

  1. カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬またはCCB)
  2. アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬(ARB)
  3. アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
  4. 利尿薬
  5. α遮断薬
  6. β遮断薬
  7. α2受容体刺激薬
  8. 直接的レニン阻害剤(DRI)

これらの降圧薬はそれぞれ異なった作用機序を持ち、患者の病状や年齢に応じて適切に選択される。

カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬またはCCB)は、カルシウムが心臓や動脈などの平滑筋細胞に流入するのを阻害するので、その結果、血管が弛緩して血圧が下がる。

アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬(ARB)は、アンジオテンシンIIの受容体への結合を阻害することで、血圧を下げる。

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)は、アンジオテンシンIIの生成を抑制することで、血圧を下げる。

利尿薬は、体内の過剰なナトリウム(塩分)と水分を取り除くことで、血圧を下げる。

α遮断薬は、交感神経の刺激による血管の収縮を阻害し、血圧を下げる。

β遮断薬は、心臓の拍数と収縮力を減らし、血圧を下げる。

α2受容体刺激薬は、中枢神経系で交感神経の活動を抑制し、血圧を下げる。

直接的レニン阻害剤(DRI)は、レニンという酵素の活性を阻害し、血圧を下げる。


高血圧の予防

高血圧症を予防するためには、やはり生活習慣の改善が必要であり、初期治療にも取り入れられているように有効とされる。

  1. 減塩
  2. 野菜・果物の積極的摂取
  3. 適正体重の維持
  4. 運動・身体活動量の増加
  5. 節酒
  6. 禁煙
  7. 睡眠

生活習慣の改善によって、血圧は平均で4~6mmHg程度は下がると言われている。

減塩とは、1日の食塩摂取量を6g(小さじ山盛り1杯程度)未満にすることが推奨されている。

野菜果物積極的摂取した方が良い理由は、これらの食品に含まれる栄養素が血圧調節に役立つからである。例えば、野菜や果物に多く含まれているカリウムというミネラルは、体内の余分なナトリウム(食塩)を排出する働きがあり、これにより血圧を下げる効果がある。また、野菜や果物に豊富に含まれる食物繊維にも血圧を下げる効果がある。野菜や果物に多く含まれるビタミンミネラルの栄養素は身体機能の維持・調整に不可欠なものでもある。

適正体重の維持は高血圧の予防にもなる。肥満(BMI値が25以上)の人はインスリンの働きが悪くなり、インスリンを過剰に分泌する傾向がる。インスリンを過剰に分泌されると血圧の上昇に繋がるからである。適度な運動(軽めの有酸素運動)を継続的に行い、適性体重を維持する必要がある。

継続的な運動によって身体活動量増加させれば、心肺機能が高まって血液循環がよくなる。そうすると、自然と血圧は下がっていく。1日7,000~8,000歩程度歩いたり、約30分の散歩を週3~4日行ったりすることで、降圧が期待できると言われている。

飲酒習慣のある人が、節酒を継続すれば血圧は下がっていくことが知られている。

喫煙すると血圧が10〜20mmHg上昇し、その状態が15分以上続くといわれている。だから血圧を下げるためには、禁煙が望ましい。

睡眠も高血圧に関係が深い。一般に、日中の活動時は交感神経優位であり、就寝中は副交感神経優位のため、血圧は就寝中が最も低い状態となる。睡眠不足だと血圧の高い時間が長く続くことになるので、高血圧を防ぐには一日7時間程度の睡眠がよいとされている。しかし、時間の長さ以上に睡眠の質が大切であるのは言うまでもない。


あとがき

高血圧症は、日本ではあまりにもポピュラーになってしまい、私自身もあまり気にしなくなっていたが、一時期、血圧が正常値を超えることが続き、降圧薬を医師から勧められたことがきっかけとなって、生活習慣を改善することに努めた。そのおかげもあって、現在では正常値内に収まっている。しかしながら、生活習慣が乱れてくると、高血圧になるリスクと常に隣り合わせである。

高血圧であるだけなら何ら怖くはないが、高血圧が進行して、より重篤な脳梗塞脳出血、あるいは腎臓病などに罹患することだけは避けたい。そのために血圧管理をしっかりして、高血圧の状態が続かないように生活習慣に気をつけたいと思う。


【参考情報】

急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)(日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン)
不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)(日本循環器学会 /日本不整脈心電学会合同ガイドライン)
2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(日本マルフィン協会)
Medical Notes HP

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