はじめに
白癬は、皮膚糸状菌と呼ばれるカビが皮膚の表面、爪、毛などに感染することによって引き起こされる病気である。
白癬は、足白癬(いわゆる水虫)、爪白癬(爪水虫)、頭部白癬(しらくも)、体部白癬(たむし)、股部白癬(いんきんたむし)など、感染部位によってさまざまな形で現れる。
主な症状は、皮膚が白くまたは赤くなったり、皮が剥がれたり、他の部位と比べてがさつきが増したりといった変化があり、かゆみを伴うことも多い。
白癬菌は、高温多湿の環境を好み、皮膚の角質層に感染して増殖する。そのため、多くの人が裸足で出入りする場所、例えばプールやスポーツジム、ゴルフ場などの脱衣所から白癬菌が見つかることがある。これらの場所で裸足になると、白癬菌に感染するリスクが高まると言われている。
かつて男性の水虫患者(白癬感染者)の多くは、大抵はゴルフ場の脱衣所のバスマットから感染したものである。実は私もその一人である。そのことを知ってからは、裸足になる際は、足を清潔に保ち、湿った状態を避けることで白癬菌の感染を予防するなど気をつけるようになった。その習慣は、温泉旅館の大浴場のバスマットを踏む際にも活かされている。
白癬とは
白癬(Ringworm)は、ケラチン好性真菌である皮膚糸状菌が原因で生じる皮膚感染症 (皮膚糸状菌症) の総称である。
感染部位によって、水虫、たむし、いんきんたむし(股部白癬)など、さまざまな名称で呼ばれる。
足白癬の原因菌の多くはヒト好性菌であるが、たむし(体部白癬)の原因菌はさまざまである。特に動物好性菌、土壌好性菌による場合、炎症症状が激しいことがある。爪変形を生じる疾患の約半数は爪白癬といわれている。
皮膚糸状菌は、寄生主あるいは生息場所によりヒト好性菌、動物好性菌、土壌好性菌に分類される。
皮膚糸状菌は、皮膚に付着してから12〜48時間ほど高温多湿の状態でいると、ケラチンを溶かす酵素を出して増殖しながら、角質層に入り込んでいくと言われている。
原因
足白癬(水虫) |
原因菌としては、ヒト好性菌のTrichophyton rubrum(紅色菌)と Thrichophyton mentagarophytes(毛瘡菌)で90%以上を占める。皮膚の最も外側の角質層(ケラチンというたんぱく質が豊富なところ)に感染している。 感染経路は、主に菌を含む鱗屑(アカ)、毛などが付着するスリッパ、浴場の足拭きマット、畳、タオルなどを介しての感染である。危険因子として、通気性の悪い靴や高温多湿の環境などがある。 |
体部白癬(たむし) |
原因菌としては、 多くはヒト好性菌のTrichophyton tonsurans(断髪性菌)によるが、動物好性菌による患者もいる。動物からの感染は顔面、頚部、前腕などの露出部に発症し、病変が多発する傾向が強い。病歴から、動物などとの接触や格闘技( コンタクトスポーツ )などが感染の原因として考えられないときは、自分の爪白癬や足白癬から広がった可能性がある。 |
爪白癬(爪水虫) |
爪甲,爪床,またはその両方に生じた真菌感染症である。足の爪の感染は手の爪の感染より10倍多い。全症例の約60~80%は皮膚糸状菌 (Trichophyton rubrum) が原因であり,残りの症例の多くは,皮膚糸状菌以外の真菌(Aspergillus、Scopulariopsis、Fusarium)によって引き起こされる。 |
症状
足白癬(水虫) |
慢性趾間型では、趾間部(指の付け根)および趾の根元の皮膚に生じる鱗屑、紅斑、びらんを特徴とし、外側の3趾に好発する。趾間がじくじくとしたり、皮がむけたりした状態である。小水疱型では、 足の裏や土踏まずなどに生じた小水疱が融合して水疱(水ぶくれ)を形成する病型であるが、趾間型足白癬の増悪により生じることは少ない。慢性角質増殖型では、 足底の鱗屑および肥厚がしばしば足底面を越えて拡大し,足底と側面を一体的に侵すモカシン足型の分布を呈する特有のパターンで病変が生じる。 踵を中心とした角質増殖が見られる。ひび割れてガサガサな状態になったりする。爪白癬を合併することが多い。急性潰瘍型では、典型的には第3および第4趾間に始まり、足背外側および/または足底弓の表面に拡大する。それらの趾間病変は通常浸軟して辺縁に鱗屑を伴う。 |
体部白癬(たむし) |
体幹や四肢に初発し、ピンク色から赤色の環状(O字状)の 紅斑および局面が生じ,境界部は隆起して鱗屑を伴い,遠心性に拡大する環状の紅斑はやがて中心治癒傾向(病変部の真ん中あたりが自然に治ってくるように見える)を示す。 |
爪白癬(爪水虫) |
第I足趾(親指)に次いで第V足趾(小指)に頻度が多く、爪の色や形の変化はさまざまである。典型的には,爪が変形し,白色または黄色に変色する。爪が厚くなる、白く濁る、剥れる、凸凹するなどの変化もある。 |
検査・診断
重要なのは、病変部に真菌である皮膚糸状菌の存在を証明すること。顕微鏡でカビを確認することで診断する。鱗屑や水疱蓋、爪、毛などを採取して水酸化カリウム直接鏡検法で隔壁を有する菌糸や分節した胞子を確認する。
炎症症状が強い患者や菌種を特定する必要のある患者に対しては、爪、角質、毛などを培地にまいて培養する。培養後3~4週間程度で原因菌の同定を行い、原因菌の同定から感染経路を推定する。動物好性菌であれば原因動物の治療を獣医師に紹介することもある。
治療
外用治療 |
足白癬・体部白癬の治療においては、治療開始前に接触性皮膚炎、湿疹、細菌の二次感染の有無を判断し、合併していれば最初にそちらの治療を行う。爪や毛に症状がない場合は、外用治療を開始する(外用抗真菌剤の使用)。 |
内服治療 |
爪白癬やケルスス禿瘡(毛が抜けてしまう白癬)の治療においては、内服治療が一般的である。内服開始前後と経過中に肝機能・血液検査を定期的に行う。爪白癬の診断が不正確な場合は、いくら内服しても改善しない。 |
外科的治療 |
爪甲に楔型の模様が入ったように見える患者は外来にてニッパーなどを使用して混濁した爪を開窓し、外用治療の併用がしやすいような工夫を行う。 |
予防
白癬の予防策としては、下記のような対策が知られている。これらの予防策を実践することで、白癬の発症リスクを低減させられるので、その実践が推奨されている。
- 清潔に保つ
- 体全体を清潔に保つことが重要
- 特に足には注意が必要
- 毎日指と指の間など細かいところまで石鹸で丁寧に洗う
- 乾燥させる
- 洗った後は水分を拭き取り、乾燥させる
- 白癬菌は湿度の高い環境を好む
- 乾燥させることで感染リスクを低減できる
- 共有物の管理
- 家族間では共有している物から感染することが多い
- バスマットやタオルの共用は避ける
- これらの物品は定期的に洗浄する
- 感染源の治療
- 感染予防には感染源の治療による菌量の減少
- 特に足白癬は家庭内での感染が多い
- 同居家族の足白癬の適切な治療が最優先となる
あとがき
白癬菌(皮膚糸状菌)は、皮膚に付着してから12〜48時間ほど高温多湿の状態でいると、ケラチンを溶かす酵素を出して増殖しながら、角質層に入り込んでいくと言われている。
しかし、白癬菌が皮膚に付着しても、すぐに洗ったりタオルでぬぐったりして足を乾かすことで感染を防ぐことができる。
他の感染症とは異なり、白癬の予防は比較的容易であると言える。予防策をしっかりと実践するためには、白癬菌の特性をよく理解することも重要である。
【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト |
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版 |