はじめに
肝臓にはいくつかの種類のリンパ球が存在し、それぞれ異なる役割と機能を持っていることが知られている。これらのリンパ球は肝臓の免疫機能を支え、感染症やがんの予防と治療に寄与しているとされる。肝臓は、私たちの体の免疫システムの重要な部分であり、これらのリンパ球が健康を維持するために重要な役割を果たしている。この機会に、肝内リンパ球の種類、役割と機能について学びたいと思う。
<目次> はじめに リンパ球 肝内リンパ球 肝内リンパ球の種類 役割・機能 ピット細胞/ナチュラルキラー細胞(NK細胞) B細胞 樹状細胞 |
リンパ球
リンパ球は、白血球の一種であり、全白血球総数の20~35%を占めると言われている。リンパ球は、生体の免疫応答に直接関与し、非自己あるいは形質転換した細胞(腫瘍細胞やウイルスに感染した細胞)に対する特異的防御に関与する。
リンパ球は、役割・機能によって、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)、B細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)の3種類に分類できる。
リンパ球の種類 | 役割・機能 |
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NK細胞 (ナチュラルキラー細胞) | T細胞と異なり、抗原感作なしに、腫瘍細胞やウイルス感染細胞を障害する(自然免疫)。 |
B細胞 (Bリンパ球) | 抗体(免疫グロブリン)を放出する。 |
T細胞 (Tリンパ球) | 体液性免疫や抗体産生に携わる。 T細胞受容体(TCR)を発現。 末梢血中リンパ球の70〜80%を占める。 |
肝内リンパ球
門脈と肝動脈を流れてきた血液が合流する場所を類洞(sinusoid)といい、類洞を構成する細胞を類洞細胞という。類洞細胞には類洞内皮細胞、Kupffer細胞、肝星細胞、およびピット細胞などがある。一方、肝臓には類洞を構成する細胞以外に多くのリンパ球が存在する。これらの肝内リンパ球(liver-associated lymphocytes)は末梢血液 中のリンパ球と異なり、高いNatural Killer活性を有するピット(Pit)細胞や免疫系の起源に関連しているgamma-deltaT細胞等が存在し、肝臓の免疫監視機構としての重要な役割を担っている。尚、ピット細胞は、肝臓の類洞腔内に常駐するナチュラルキラー細胞(NK細胞)のことであり、腫瘍細胞やウイルスに感染した肝細胞を死滅させる。
肝内リンパ球の種類
種類 | 役割・機能 |
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ピット細胞 | 肝類洞腔内に常駐するNK細胞をはじめ、LAK細胞、 胸腺外リンパ球(TCRαβ陽性細胞、TCRγσ陽性細胞)、NKT 細胞などを含む。腫瘍細胞やウイルスに感染した肝細胞を死滅させる。 悪性細胞やウイルス感染細胞を直接破壊する役割。 NK細胞は、特定のマーカーを持つ細胞を認識し、その細胞を破壊する。 |
B細胞 | 抗体(免疫グロブリン)を放出する。 抗体を産生し、感染症に対する防御を行う。 抗体を介して特定の病原体を認識し、排除する役割。 |
樹状細胞 | 樹木の枝のような突起を有する免疫細胞。 免疫細胞の司令塔のような役割を担っている。 肝臓の免疫応答において重要な役割を果たす。 |
役割・機能
ピット細胞/ナチュラルキラー細胞(NK細胞)
ピット細胞(Pit cell)は、類洞内皮にくっつき肝類洞腔内に常在するリンパ球で、electron dense granuleとrod-cored vesicleの特徴を有するlarge granular lymphocytes (LGL)である。ピット細胞には、ナチュラルキラー細胞(NK 細胞)をはじめ、LAK細胞(lymphokine activated killer cell)、胸腺外リンパ球、NKT 細胞(ナチュラルキラーT細胞)などが含まれる。ピット細胞は、腫瘍細胞やウイルスに感染した肝細胞を死滅させる。
LAK 細胞は、 NK 細胞が IL–2 の刺激により活性化し,強い細胞障害作用をもつ形質変換した LGL である。NK 細胞よりやや大きく,細胞小器官がよく発達し,電子密度大の顆粒も大きい。
胸腺外分化T細胞は、胸腺外の肝や腸で分化をとげる小型顆粒をもつLGLで,αβT 細胞(TCRαβ陽性細胞)とγδT 細胞(TCRγσ陽性細胞)に区別される。外来抗原の接触しやすい場にはγδT 細胞が認められ、トレランス誘導との関連が指摘されている。肝臓も門脈を介して外来抗原が流入するためγδT 細胞が多く存在しており、トレランスの誘導や高次免疫系の調節を制御していると考えられている。
NKT 細胞は、胸腺発生以前の胎生期に胸腺外組織で分化を開始するので胸腺外分化 T 細胞に分類されるT 細胞であり,糖脂質のみを認識し,IFNγ,IL–1,TNF,IL–6 を産生する。
NK細胞の細胞質の顆粒には、パーフォリンやグランザイムなどのタンパク質が含まれており、これが細胞傷害活性の中心的な役割を担う。パーフォリンは傷害する細胞のごく近くで放出され、細胞膜に孔を開けてグランザイムや関連分子が中に入れるようにする。グランザイムはセリンプロテアーゼであり、標的細胞の細胞質でアポトーシスを誘導する。免疫学においてアポトーシスと細胞溶解の区別は重要である。ウイルスに感染した細胞を溶解するとウイルス粒子が放出されてしまうが、アポトーシスならば内部のウイルスを破壊することができるからである。
NK細胞の受容体は、MHCクラスI分子を認識しており、これによりなぜNK細胞がMHCクラスI分子の発現が低い細胞を殺すのか説明できる。NK細胞受容体のタイプは構造的に分化している。Fc受容体(抗体のFc部位が結合する活性化受容体)を発現している。これにより、NK細胞は、液性免疫により感作された細胞を標的にした抗体依存性細胞傷害(ADCC)を行う。NK細胞はFc受容体以外にも、細胞傷害活性を活性化したり抑制したりする様々な受容体を発現している。これらは標的細胞上の様々なリガンドに結合し、NK細胞の応答を制御するのに重要である。NK細胞はサイトカインに応答することができ、感染を排除できる抗原特異的な細胞傷害性T細胞が獲得免疫応答により生じるまでの間、ウイルス感染をコントロールするのに役立つ。
B細胞
肝臓内には、B細胞、T細胞、NKT細胞、NK細胞、および樹状細胞などの獲得免疫や自然免疫に関わる免疫細胞も数多く存在している。B細胞は液性免疫の中心となる存在である。免疫には、抗原に対する攻撃の違いによって細胞性免疫と液性免疫に分類できる。細胞性免疫は、免疫細胞が直接、抗原を攻撃するが、液性免疫は直接攻撃するのではなく、抗体を作って攻撃するという特徴がある。
B細胞は単独で働いているのではなく、他の免疫細胞と共に重要な役割を果たしている。免疫細胞にはB細胞以外にもマクロファージやヘルパーT細胞など様々な細胞があり、これらが協働して体を異物から守っている(獲得免疫)。体内に抗原が侵入すると、次のような過程を経て液性免疫が達成される。
Step | 免疫細胞の働き |
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1 | マクロファージがヘルパーT細胞に抗原の情報を伝える |
2 | ヘルパーT細胞がサイトカインを放出し、B細胞を活性化させる |
3 | サイトカインを受け取ったB細胞は形質細胞へと変化する |
4 | 形質細胞は、抗体を生み出す |
5 | 抗体は、抗原(ウイルスなどの病原体など)と戦う(全身に広がって貪食細胞を活性化したり、抗原の感染力や毒性を失わせたりする) |
強い攻撃力を持つキラーT細胞や迅速に抗原に対応できるNK細胞なども参戦 |
抗体は、一つのB細胞につき1種類しか作ることができない。そこでB細胞の遺伝子を再構築して対応することになる。抗体遺伝子には遺伝子の素となる多数の遺伝子断片があるが、これらの組み合わせによってどの抗原の抗体になるかが決まる。したがって、抗体遺伝子はあとで編成しなおして、別の抗原に対応できるように生まれ変わりながら、さまざまな抗原に対応できる多様なB細胞を産生している。また、このときに活性化されたB細胞の一部は抗原の情報を記憶してメモリーB細胞となり、再度同じ抗原が侵入してきたときに抗体を素早く産生できるようになる。
樹状細胞
樹状細胞(Dendritic cells;DC)は、体内で異物を発見すると、それを自分の中に取りこみ特徴を覚え、リンパ節まで移動し自分の覚えた異物の特徴をリンパ球に教え込み、リンパ球にその異物を攻撃するように指示を出す。免疫細胞の司令塔のような役割を担っている。
樹状細胞は、肝臓では従来、 Grisson 鞘内に少数観察されていたが,類洞腔や Disse 腔内にも存在することから類洞壁細胞として数えられることになった。樹状細胞は、最も強力な抗原提示細胞である。肝臓では類洞腔内で取り込んだ抗原に MHC クラス II(Ia)分子を結合させ,Grisson 鞘内のリンパ管を通って肝臓の局所リンパ節へ移動し、そこでナイーブ T細胞に抗原を提示する。肝臓内の樹状細胞は細胞質の極性が明瞭で、核の一側は発達した Golgi 装置など細胞小器官がよく発達し、他側は無構造のヒアロプラズマで、ときにイカの足様に先端へ向かって急に細くなる特徴的な2〜3本の細胞質突起をみることが多い。 肝臓の樹状細胞では、皮膚の樹状細胞にみられる Birbeck 顆粒はみられない。
【参考資料】
Mchal WZ, et. al; Gastroenterology, 120 (2001) 250 – 260 |
白鳥康史;肝類洞壁細胞 (研究の進歩と将来をみすえて);肝臓40 (1999) 271 – 287 |
和氣健二郎;肝臓の類洞壁細胞—概論;お茶の水醫學雑誌 60 (2012) 121-132 |
金田研司;肝類洞細胞の微細形態と機能;電子顕微鏡 34 (1999) 156 – 161 |