はじめに
肺炎とは、気道を通して侵入した細菌やウイルスなどの病原体が肺内で増殖し、炎症が引き起こされた状態を指す。肺炎は呼吸器の病気の中でも比較的よく見られ、2019年の統計データでは日本の死亡原因の第5位になっている。
市中肺炎とは、自宅やオフィスなど(病院や介護施設とは関係のない場所)で感染が起こったタイプの肺炎を指す。感染経路は、肺炎を発症している患者の咳に含まれている病原微生物が口や鼻より入り込んで感染する飛沫感染と、物などに付着した病原微生物が自身の手を経由して口や鼻より体内に入り込んで感染する接触感染がある。
高齢者は、このような市中肺炎に感染しやすい傾向がある。その理由は、加齢とともに免疫力が低下し、感染症に対する抵抗力が弱まるためである。また、高齢者はしばしば基礎疾患を持っており、これが肺炎のリスクを増加させる。特に、腎不全や肝機能障害、糖尿病、心臓や呼吸器に持病があると、肺炎にかかりやすく、症状も重くなる傾向がある。高齢者の場合、肺炎の典型的な症状(発熱、咳、痰など)が出にくいことがあり、その結果、発見が遅れて重症化することがある。これらの要素が重なることで高齢者は肺炎に感染しやすくなるらしい。
シニア世代、特に年齢が65歳以上で、「口の中が乾く・息苦しくて息が荒い・意識が朦朧とする」といった症状がある場合は、肺炎が重症になっている可能性が高いとされる。治療薬があるとは言え、早期発見・早期診断・早期治療に努めないと、予後が良くなるとは限らない。
肺炎とは
肺炎は、気道を通して侵入した細菌やウイルスなどの病原体が肺内で増殖し、炎症が引き起こされた状態であり、比較的よく見られる呼吸器の疾病である。
原因
肺炎を発症させる直接の原因は、病原体が肺内に侵入し、増殖するためである。しかしながら、病原体が肺内に侵入し、増殖するようになる原因としては、下記のような疾病に罹患したり、免疫が抑制された状態(ステロイドや免疫抑制剤、抗癌剤を使用中)であったり、誤嚥(飲食物や唾液が誤って気管に入ってしまう状態)などが報告されている。
- 脳血管障害
- 呼吸器疾患(肺気腫、肺結核後遺症、間質性肺炎など)
- 心疾患
- 腎疾患
- 糖尿病
- 悪性腫瘍
肺炎を発症させる病原体
市中肺炎の原因となる頻度が高い病原体としては下記のような細菌などが知られている。
- 肺炎球菌(細菌性肺炎の原因菌)
- インフルエンザ菌(細菌性肺炎の原因菌)
- 肺炎マイコプラズマ(非定型肺炎の原因菌)
- 肺炎クラミジア(非定型肺炎の原因菌)
院内肺炎の原因となる頻度が高い病原体としては下記のような細菌やウイルスなどがある。
- MASA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
- 緑膿菌
- 肺炎球菌
- インフルエンザウイルス
- レジオネラ
- ニューモシスチス・ジロベチ(真菌)(免疫力の低下時)
- サイトメガロウイルス(免疫力の低下時に発症)
症状
肺炎の主な症状は、発熱、咳、膿性痰である。肺から胸膜まで炎症が広がることにより胸痛が生じる場合もある。
重症化すると呼吸が困難になり、意識がなくなったりする。
また病原体によっては、筋肉痛やや腹痛・下痢といった一見肺炎とは関連がなさそうな症状が出ることもある。
高齢者では典型的な症状が目立たず、食欲低下や全身倦怠感などが主な症状となったりする場合がある。
検査・診断
肺炎の検査方法にはいくつかの方法が知られている。主な検査方法は下記のようなものである。
- 身体検査(診察):
- 医師が呼吸音や胸部の異常を確認する
- 血液検査
- 白血球数やCRP(C反応性蛋白質)などの炎症マーカーを測定します。
- 胸部X線
- 肺の異常を確認するために撮影されます。
- 痰の検査
- 痰を採取して細菌やウイルスの検出を試みます。
- CTスキャン
- より詳細な画像を得るために行われることがあります。
- 酸素飽和度測定
- 血液中の酸素レベルを測定します。
医師は、上記の検査結果から総合的に判断し、肺炎の診断を行う。発熱や咳がひどいときには、早めに医療機関で受診することをお勧めしたい。
治療
発症の原因が細菌であることが分かれば抗菌薬を用い、ウイルスが原因であれば抗ウイルス剤を用いて治療する。
検査で病原体が特定できれば、その病原体に適応を有する薬剤が使用される。重症化し、呼吸不全になると、酸素の吸入や人工呼吸器の装着が必要となる。
予防
インフルエンザ感染により、気道の粘膜が荒れて細菌などの病原体が侵入しやすい状態になり、肺炎を合併することがあるため、特に高齢者ではインフルエンザワクチンの接種が肺炎予防の観点からも重要となる。
また、高齢者を対象にした肺炎球菌ワクチンの予防接種もある。肺炎球菌ワクチンは、肺炎の原因として頻度が高い肺炎球菌による肺炎を防ぐ効果が期待できるが、すべての肺炎を完全に予防できるわけではない。
また肺炎の原因として誤嚥が関与する場合には、食事中や食後に座位を保つことや、口腔内を清潔に保つ、誤嚥を悪化させる可能性がある睡眠薬や抗うつ剤などの薬を減量・中止するといった予防法がある。
あとがき
肺炎は年齢や性別に関係なく一般的な病気であり、全世界で毎年約4.5億人が発症していると言われている。その肺炎による死者数は、年間約400万人以上に上り、世界における死者の約7%を占めているらしい。児童の有病率は5%以下であるが、75歳以上の成人では最大になっている。日本での成人の肺炎球菌関連肺炎の年間発生率は、1,000人あたり4.7人と報告されている。そして、特発性間質性肺炎の有病率は、10万人あたり10.0人とされている。
私たちができるのは、次のような予防策をとることである。
- マスクの着用
- 外出時にはマスクをして市中感染を防ぐ
- 手洗いとうがい
- 外から帰ったら、手洗いとうがいをする
- 禁煙
- 喫煙者は、禁煙することで予防対策になる
- 十分な食事と休養、運動
- 栄養バランスのとれた食生活
- ストレス管理
- ストレスは貯めない、ストレスの早期解消
- 過労は避ける
- 疲れが続くと、体の免疫力が低下する
- 十分な食事と休養
- 運動で基礎体力をつける
- 予防接種
- 高齢者には肺炎球菌ワクチンの接種が有効
これらの予防策を日々の生活に取り入れることで、肺炎のリスクを減らすことができる。
【参考資料】
Medical Notes HP |