はじめに
加齢に伴う老化のプロセスのなかで、加齢は腎盂尿管がんの発症率に影響を及ぼす一因とされている。腎盂尿管がんの患者数は50~70代に多く、2019年のデータでは、男性は女性よりも2倍以上多く(男性20,678例、女性9,780例)発症していたとの報告もある。
加齢が腎盂尿管がんのリスク要因の一つに数えられる理由は、加齢により、腎臓の重量はゆっくりと減少し、腎臓での血液のろ過量が次第に低下する。また、腎臓に血液を送り込む動脈が狭くなり、腎臓のサイズも小さくなる。これらの変化は、腎臓の予備的な機能を低下させ、腎臓の機能を果たすために、左右一対の腎臓がそれぞれの能力の限界近くまでフルで働かなければならなくなる。その結果、片方または両方の腎臓にわずかな障害が生じるだけでも、十分な腎機能を維持できなくなってしまうからである。勿論、加齢だけでがんの発症を決定するわけではない。
腎盂尿管がんとは
腎盂と尿管は上部尿路と呼ばれ、ここにできるがんは 腎盂尿管がん(Kidney and urethra cancer) という1つのグループとして扱われる。治療法にもあまり差がないために、両方をまとめて考えることが一般的である。
腎盂から尿管、膀胱、尿道の一部へとつながる尿路の内側は尿路上皮(移行上皮)と呼ばれる粘膜でできている。この細胞から発生するがんを尿路上皮がんといい、腎盂尿管がんのほとんどを占める。
腎盂【じんう】と尿管は、腎臓で生成された尿が体外へ排出されるまでの経路の一部を形成している。腎盂は、腎臓の一部で、腎実質によって作られた尿が集まる場所であり、そのペースメーカーとしての機能があると言われている。
一方、尿管は、腎盂から膀胱へと尿を運ぶ長い管で、左右対となって存在する。尿管は単なるチューブではなく、尿管平滑筋の蠕動運動により、低圧で尿を膀胱に送る役割を担っている。
腎盂は腎臓の一部であるが、腎細胞がんは腎臓から発生するがんであり、腎盂尿管がんとは性質が違うため、別のグループとして扱う。
腎盂尿管がんは、尿路内のいろいろな場所に多発しやすいという特徴がある。腎盂と尿管の両方にできることもある。左右どちらかの腎盂か尿管にがんができ、その治療後に反対側の腎盂か尿管にがんが発生することがごくまれにある。腎盂・尿管がんでは、治療後30〜50%程度で、膀胱にがんが発生することが知られている。
比較的稀な疾患で、頻度は膀胱がんの約1/20にすぎない。腎盂がんは尿管がんよりやや多く、尿管がんは尿管の下1/3(下部尿管)に多いといわれている。膀胱がんと同じく、男女比は2~4:1で、高齢になるほど発生頻度は高くなり50~70歳台に好発する。
原因
腎盂・尿管がんも膀胱がんと同様に尿中発がん物質との接触が発がんの引き金となると考えられている。
したがって、喫煙、染料、特定の化学薬品への暴露、鎮痛剤(フェナセチン)の過剰使用、慢性炎症(尿路結石などによる)、抗がん剤(シクロホスファミド)の長期使用などが発がんの危険因子である。
症状
腎盂・尿管がんで最も多い症状は、 膀胱がんと同様、多くが肉眼的血尿(肉眼でもわかる血尿 )である。
また、がんの進行・増大やその部位からの出血による血液の固まりが原因で尿管が閉塞した場合、尿が閉塞部位より下流に流れなくなり上流の腎盂・尿管の拡張がおこる。いわゆる水腎症と呼ばれる状態が急に起こるため、がんのある側の腰背部痛や側腹部痛を伴うこともある。
これらの痛みは尿管結石と似ており、強い痛みが起こったり消えたりする。排尿痛や頻尿が起こることもある。
水腎症(腎臓の中に尿がたまった状態 )になり、この状態が長く続くと、腎臓が機能しなくなってしまうことがある(無機能腎)。
膀胱も侵されている場合は、排尿困難および頻尿が生じることもある。閉塞に仙痛が伴うことがある。
検査・診断
目で見て血尿があった場合、出血源を明らかにするために膀胱鏡検査を行う。また、尿中のがん細胞の有無を確認する尿細胞診検査を行う。腹部の超音波検査は、簡便で有用な検査である。
さらに、腎機能に問題がなければ、排泄性(静脈性)腎盂造影(IVPまたはDIP)と呼ばれる検査、あるいはCTを用いた、CT urographyが行われる。
以上の検査によって異常が指摘された場合、逆行性腎盂造影(RP)が実施される。
また、施設によっては、軟性尿管鏡という器具を用いて、直接腫瘍を確認したり、処理したりする場合がある。
がんであると診断された場合は、がんの広がりを調べるため、CT検査や骨シンチグラフィ、胸部X線撮影などを行う。
腹部超音波(エコー)検査 |
侵襲の少ない簡便な検査で、腎盂内の腫瘍の有無や、水腎症の有無、リンパ節や肝への転移の有無などが分かる。 |
膀胱鏡検査(内視鏡検査) |
膀胱鏡(膀胱の内視鏡)を尿道から膀胱へ挿入して行う内視鏡検査。腎盂・尿管がんよりも膀胱がんの発生頻度の方が高いので、はじめに膀胱がんを疑って検査する。膀胱内にがんがなければ、左右の尿管口から出血がないかを確認する。 |
尿細胞診検査 |
尿中にはがれおちてきた細胞を色素で染めてがん細胞の有無を調べる方法。がんの悪性度が高くなるほど陽性率が高くなるが、逆に悪性度の低いがんでは陽性とならないこと(誤陰性)も少なくない。 尿細胞診検査は5段階または3段階で評価される。 5段階評価の場合、1、2は悪性所見なし、3は疑陽性(悪性の疑い)であり、4、5では悪性所見が強く疑われる。しかし、検査の結果が陰性であるからといってがんがないとはいえないため、ほかの検査と併せて判断する。 |
排泄性腎盂造影( IVPまたはDIP)/ 静脈性尿路造影 |
腎機能に問題がなければ、排泄性腎盂造影(IVPまたはDIP)が行われる。 静脈内に注射された造影剤(レントゲン非透過性)が腎臓から尿中に排泄されると尿がレントゲン写真に写るようになることを利用して尿路を描出する検査方法である。 造影剤を静脈にいれて、X線撮影を何回か行う。尿の流れに異常があるかどうかが分かり、がんの有無を判断することができる。腎盂・尿管がんの90%以上に異常所見がみられるため、腎盂・尿管がんの診断をするためには重要な検査である。この検査では、造影剤に含まれるヨードによりアレルギーが起こることがある。この検査の代わりに、より詳細な情報が得られるとされている、CTによる検査(CT urography)が行われることもある。 |
逆行性腎盂造影(RP) |
腎機能が低下しているため静脈性尿路造影検査で尿路が造影されない時などに行う。膀胱鏡を逆行性に尿道から入れ、膀胱内の尿管口からカテーテル(細い管)を挿入する。この時、尿管から直接尿を採取し、尿細胞診検査を行うことがある。さらに、このカテーテルから造影剤を注入してX線撮影を数回行い、腎盂や尿管の形状を観察する。カテーテルがどうしても挿入できない場合や、尿管の下端だけしか造影されない場合などは、超音波を使用しながら、細い針で腎盂を穿刺して造影することがある。 |
尿管鏡検査 |
腎盂・尿管がんが疑われても、これまでの検査で診断するには十分な所見が得られなかった場合、尿管鏡検査が行われることがある。この検査は麻酔をして行う。まず尿道から膀胱内に内視鏡を入れ、尿管口から尿管、腎盂まで内視鏡を進める。内視鏡で尿管や腎盂の様子を観察できることと、異常が疑われる部分の組織を採取すること(生検)も可能である。生検した組織を顕微鏡で調べることで、浸潤性の有無、がん細胞の様子(異型度)が術前に判定できる場合がある。 |
CT検査 |
腎盂・尿管がんと診断された場合には、がんの広がりや、リンパ節、肺、骨、肝臓などへの転移がないかどうかを調べるためにCTによる画像検査を行う。CTはX線を使い、体の内部を画像として確認できるようにする方法であり、通常はアイソトープ(放射性同位元素)のヨードを造影剤として使う。CTでは、がんの広がり具合や、リンパ節、肺、胃、肝臓などへの転移がないかを調べることができる。 尿管結石や腎がんとの鑑別にも有用である。 最近では、CT urographyと呼ばれる手法を用いることで、IVPまたはDIPよりも病巣を正確に把握することができるとされている。 |
MRI検査 |
CT検査で 造影剤に対するアレルギーがある場合や、腎機能に問題がある場合には、MRIによる検査を行うこともある。 |
骨シンチグラフィ |
アイソトープ(放射性同位元素)を使った骨のX線検査である。骨への転移を調べる。 |
鑑別診断
尿路結石症 |
尿管結石では血尿や側腹部痛など腎盂尿管がんと同様の症状がみられることが多いが、一般的に結石症では発症が急激で、痛みの程度も強くみられる。尚、尿路結石に腎盂・尿管がんが合併していることもあり、結石と診断がついた後でも定期検診は重要である。 |
尿管ポリープ |
比較的稀であるが尿管内に良性のポリープができることがある。 |
腎細胞がん |
腎臓実質の尿細管上皮細胞から発生する腫瘍で、腎腫瘍の85%を占める。CTなどで通常、鑑別可能である。 |
腎乳頭壊死 |
鎮痛剤常習者や糖尿病患者にみられる稀な疾患である。 |
尿管狭窄 |
尿管がんとの鑑別が特に困難である。細胞診はもちろん陰性である。 |
尿路結核 |
結核菌の長期感染により膿瘍や肉芽腫が形成され腎盂尿管の変型や狭窄を来すことがある。 |
治療
病期(ステージ)
がんの進行の程度は 病期(ステージ)で表現する。病期は、がんがどのくらい広がってい
るか、リンパ節や別の臓器への転移があるかどうかで決まる。腎盂・尿管がんは、0期、I期、II期、III期、IV期に分類される。(表2参照)
腎盂・尿管がんでは、TNM分類に基づいて、病期を判定する。Tは原発腫瘍(原発巣:primary Tumor)、Nは所属リンパ節(regional lymph Nodes)、Mは遠隔転移(distant Metastasis)の頭文字である。下記の表1であてはまるT因子を選び、表2で転移の有無と併せて確認すると、病期が分かる。
Ta | 乳頭状非浸潤がん(粘膜にとどまり浸潤のないがん) |
Tis | 上皮内がん |
T1 | がんが腎盂・尿管の上皮の下の結合組織に広がっている |
T2 | がんが腎盂・尿管の粘膜を越えて広がり、筋肉の層に及んでいる |
T3 | がんが腎盂・尿管の筋肉の層を越えて、外側の組織(腎盂の場合:腎盂周囲の脂肪組織または腎臓/尿管の場合:尿管周囲の脂肪組織)まで及んでいる |
T4 | がんが隣接する臓器または腎臓を越えてまわりの脂肪組織まで広がっている |
日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編
「泌尿器科・病理・放射線科 腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約 2011年4月(第1版)」 (金原出版)より作成
T因子 | リンパ節や他の臓器に転移を認めない場合 | リンパ節に転移があるか、別の臓器に転移がある場合 |
---|---|---|
Ta | Oa | IV |
Tis | Ois | IV |
T1 | I | IV |
T2 | II | IV |
T3 | III | IV |
T4 | IV | IV |
日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編
「泌尿器科・病理放射線科 腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約 2011年4月(第1版)」(金原出版)より作成
病期を明らかにしてから、その病期によって治療方法を選択するが、必ずしも治療前に決まった病期が正しいとは限らない。
手術を行って摘出した組織を顕微鏡で調べる組織診検査の結果が、術前の画像診断と必ずしも一致しないこともあるからだ。
その場合は、組織診検査の結果に従ってその後の治療方法を選択する。組織診検査により、がん細胞の組織型や細胞の異型度、浸潤の有無、リンパ節転移などが調べられる。
臨床病期による治療選択
転移のない腎盂・尿管がんに対する治療方針は、外科療法が主体である。
術前の画像診断などにより浸潤がんであることが疑われた場合は、抗がん剤による化学療法を施行した後、手術を行うことがある。
手術は、尿管下端部を残すと、残した尿管にがんが発生しやすいこと、また対側にはがんがほとんど発生しないことを考慮して、がんが発生した片側の腎臓、尿管、さらには膀胱壁の一部も含めた腎尿管全摘、膀胱部分切除を施行するのが一般的である。
腎盂は腎臓の内側に位置するため、腎臓全体を摘出することが必要である。尿管のがんの場合には、腎臓を摘出せず、尿管の部分切除が行われることがある。(図1参照)
手術の結果、浸潤性のがんであると判明した場合は抗がん剤の治療を行い、再発を少しでも少なくするような治療を行う必要があることもある。
すでにリンパ節やほかの臓器に転移している場合、外科療法の適応にはならない。この場合は、シスプラチンなどの抗がん剤を中心とした数種類の抗がん剤を用いた化学療法(多剤併用化学療法)を行う。浸潤がんが疑われる場合の術前化学療法も、同様になる。
また、放射線療法もあるが、尿路上皮がんに対する効果は十分ではないため、すでに転移があり根治術が望めない場合などに行っている。
治療法
手術(外科療法):腎尿管全摘除術および膀胱部分切除術 |
転移が無い場合、患側の腎・尿管および尿管開口部周囲の膀胱壁を合併切除する。尿路がんの多発性を考慮した最も標準的な治療法である。対側腎機能が正常であれば、術後の制約は特にない。また、転移が無くても、根治切除が困難であると判断される筋層浸潤がんの場合、抗がん剤による化学療法を施行した後、手術を行うことがある。逆に、手術後、病理検査の結果にて再発の危険性が高いと判断される場合(壁外浸潤やリンパ節転移が確認された患者)は、術後に化学療法を施行することもある。また内視鏡手術にて完全切除が困難な膀胱がんの合併がある場合は、膀胱全摘除および尿路変向術も必要となることがある。 |
手術(外科療法): 尿管部分切除(腎機能保存的手術療法) |
がんが尿管のみにある場合、1つしかない腎臓の腎盂や尿管にがんが発生した場合、両側にがんが発生した場合、あるいは悪性度の低い表在性単発腫瘍の場合 などは、腎臓を摘出せず、尿管の部分切除を行うこともある。 内視鏡的手術や尿管部分切除などによる腎保存手術を試みる。しかし、残った部分に再発する可能性がある。 |
手術(外科療法): 内視鏡的切除術 |
各種画像検査や尿管鏡検査で尿管がんと診断された場合、悪性度の診断と治療をかねて内視鏡的切除術を行うことがある。内視鏡と器具を使用して、がんを切除する。一般に、単発で悪性度の低い小さながんに用いる方法である。 |
薬物療法(化学療法) |
診断時に既に転移が確認された患者では初回治療として化学療法を行い、その効果をみて手術療法や放射線療法を追加する。使用する抗がん剤は膀胱がんで使用する化学療法と同様の薬剤を使用する。すでにリンパ節や別の臓器に転移している場合は、数種類の抗がん剤を組み合わせて使う多剤併用化学療法(シスプラチンを含む) が試みられる。このような転移例の場合にも抗がん剤治療の効果をみて、手術や放射線治療を追加することもある。 |
薬物療法(免疫療法) |
PD-1/PD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬が上部尿路上皮がんに対して現在使用されており,シスプラチンの適応がない患者における有用なアジュバント療法となる可能性がある。 |
放射線療法 |
尿路上皮がんの放射線感受性は決して低くない。年齢や合併症などにより局所治療としての根治手術が難しい患者では放射線治療が選択されることもある。放射線による治療は、高エネルギーのX線でがんを小さくする効果がある。しかし、腎盂・尿管 がんなどの尿路上皮がんにはあまり高い効果は期待できない。痛みなどの不快な症状を緩和するために放射線療法が選択されることもある。 |
腔内注入療法:腎盂・尿管内注入療法(BCG) |
腎盂・尿管の上皮内がんの場合は、腎臓を温存するために結核用ワクチンとして使われるBCGを、カテーテルで腎盂・尿管に注入する方法が選択されることがある。 |
予防
腎盂尿管がんの予防策については、下記のような対策が知られており、その実践が推奨されている。
- 禁煙
- 喫煙は、腎盂尿管がんの最も重要なリスク要因である
- 喫煙者や喫煙歴あると非喫煙者と比べ発症リスクが増大
- 尿路結石の治療
- 尿路結石や尿路閉塞に伴う慢性的な炎症はリスク因子
- 尿路結石の治療は発症リスクの低減につながる
- 定期的な尿検査
- 早期発見のためには定期健康診断を受ける
- 定期的に(年1回程度)尿検査を行うことが大切
あとがき
腎盂尿管がんは、生活習慣病には数えられていないが、生活習慣が腎盂尿管がんのリスクを増やす可能性が指摘されている。
例えば、喫煙は腎盂尿管がんの最も重要なリスク要因であり、喫煙者や喫煙歴を有する人は非喫煙者と比べて腎盂尿管がんの発症リスクが増加すると言われている。
また、尿路結石や尿感染症などによる慢性的な炎症も腎盂尿管がんの発症リスクを増大させると考えられている。特に、尿路結石は、生活習慣病の一つと数えられている疾患である。その理由としては、食生活や生活習慣の乱れ、糖尿病や高血圧などの生活習慣病が尿路結石の発症リスクを高めているからである。
【参考資料】
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターHP |
腎盂がん・尿管がん | 国立がん研究センター 東病院 |
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト |
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版 |