はじめに
小児製剤に適した剤形の一つとして「ミニタブレット」が提案・推奨されている。その理由は、小児製剤に要求される条件(①服薬が可能な剤形であること、②用量調整が容易な剤形、③有効成分が苦味など不快な味を有する場合に苦味マスキングが可能なこと)を満たしているためであると私は理解している。
ミニタブレットの定義を私は正確には知らないが、一般的には直径4 mm以下の円形錠を指しているようである。個人的見解では、製剤均一性試験における含量均一性が「錠剤」の基準を満たすか、「顆粒」の基準を満たすかで決まるのではないかと持っている。ミニタブレットを錠剤と捉えるなら含量均一性が錠剤の基準を満たす必要がある。錠剤の基準を満たさないなら「顆粒」として取り扱うべきではないかという立場である。個人的見解はさておき、欧米で製剤開発が進行しているのは直径2 mmの円形錠である。そこで、直径2 mmの円形錠であるミニタブレットの製剤設計について考えていきたいと思う。
製剤設計で考慮すべき品質特性
錠剤の品質特性をミニタブレットに当てはめていけば、ミニタブレットは通常錠剤よりも製造が大変であり、それに対応した製剤設計の必要性が理解できるはずである。
外観
ミニタブレットを素錠として開発するか、フィルムコーティング錠として開発するかによって外観は異なるが、有効成分が苦味などの不快な味を有している場合にはフィルムコーティング錠にする以外に選択は難しいと思う。フィルムコーティング以外の苦味マスキングは意外に難しいものである。ディスペンサーデバイスを使用する計画であるならば、錠剤強度も向上するフィルムコーティング錠を製剤設計しておいた方が無難ではなかろうか。
フィルムコーティング錠の外観は、打錠工程にも要因がある場合がないとは言えないが、たいていはフィルムコーティング工程での品質で評価が決まる。錠剤のコーティングとは異なり、どちらかというとペレットコーティングと同様の困難さが伴うはずである。特にタッキングと呼ばれる粒子同士(ミニタブレットの場合は錠剤同士)の付着を避けなければならない。一度付着した場合は、球形状であるペレットよりもミニタブレットの方が修復できない可能性が高い。
フィルムコーティング錠のミニタブレットを製剤設計するのであれば、「形状の選択」がポイントの一つとなるはずだ。それによって品質特性である「外観」の品質が保証できるようになると思う。
さらにフィルムコーティングに使用する製造機器としては、「通常錠剤」に使用するパンコーティング機を使用する場合には、回転ドラムのパンチングプレートに細かい目開きのメッシュを装着してミニタブレットがパンチングプレートの穴から抜け落ちないようにしなければならない。また、錠剤が小さく軽いのでワースターユニットを装着した流動層造粒コーティング機を使用しても良いようにも思う。
製剤含量均一性
直径2 mmの円形錠であるミニタブレットである場合、有効成分や添加剤の物性(特にカサ密度)によるが、1錠あたりの質量は重くてもせいぜい10 mgが最大値となるのではないかと推察する。計算がしやすいので、仮に質量10 mgのミニタブレットを製剤設計するとして、用量が2 mgであった場合には薬物含量は20%となる。3~5 mgの用量であれば薬物含量は30~50 %になる。何が言いたいかというと、通常錠剤よりもミニタブレットの方が高含量製剤になるということである。
しかも質量10 mgのミニタブレットでは、わずか1 mgの重量バラツキであっても10%の変動になる。質量200 mgの錠剤の場合、1 mgの重量バラツキであればわずか0.5%の変動でしかない。何が言いたいかというと、通常錠剤よりもミニタブレットの方が打錠工程でのシビアな質量管理が必要になるということである。
打錠工程だけでシビアな質量管理ができるわけではない。打錠工程の前工程である造粒工程において、打錠工程で要求される次のような条件を満たす必要がある。
① 流動性が優れていること(偏析などを起こさないこと)
② 粒子径が小さく、粒度分布が狭いこと(シャープな分布)
③ 含量均一性に問題がないこと
④ 圧縮成形性に優れていること
上記の条件を満たすような打錠用末を造粒工程で製造することができれば、打錠工程においても「製剤含量均一性」が保証できる品質のミニタブレットを製錠できるであろう。
しかし、実際に錠剤に求められている基準と同等の製剤含量均一性をミニタブレットで実現するのは容易ではないと推察する。直径2mmのミニタブレットで実現できるのは「顆粒剤」での製剤含量均一性が妥当ではないかと思う。言い換えれば、ミニタブレットはいわゆる錠剤ではなく、「顆粒剤」の一種として取り扱うべきではないかということである。これはあくまでも製剤含量均一性の管理基準の観点からのミニタブレットの区分(分類)である。製造方法からみれば、間違いなく「錠剤」のそれと変わりはない。
機械的強度
錠剤硬度は、通常、打錠時の圧縮成形圧で調節が可能であるが、成形性のよい打錠用末であることに越したことはない。
直径2mmのミニタブレットの場合、杵先に過剰な力がかからないようにするためにはできるだけ低い圧縮力で打錠ができるように成形性のよい添加剤を使用すべきである。
溶出性
即溶性のミニタブレットの場合は、比較的容易に目標の溶出挙動を達成することができるはずである。そのため溶出性は、「製剤含量均一性」のように苦労はしないと思う。
しかしながら、徐放性のミニタブレットを製剤開発しようとするならば話は別である。徐放化メカニズムも含めて製剤設計が必要になる。
安定性
プレフォーミュレーションで有効成分と添加剤の配合変化試験を済ませ、配合可能な添加剤を選択しておけば、たいてい化学的に安定な製剤を製造することができる。
しかし、そうでない場合も皆無ではない。プロトタイプの安定性試験の結果からre-formulationすべきかどうかを判断するしか仕方がない。
ミニタブレットにすることによって単位重量当たりの表面積が通常錠剤よりも増えているので吸湿性の高い製剤の場合には安定性が通常錠剤よりも悪くなるかも知れない。同様に光安定性についても注意が必要になるかも知れない。
あとがき
ミニタブレットを製剤設計する際のポイントについて、机上で考えられる点を列記してみたがどうであろうか。
実際に小児製剤としてミニタブレットを製剤設計する機会が得られた場合には、上記の内容を検証した上で、必要に応じて修正を加えたいと思う。