はじめに
溶出試験は、経口固形製剤の品質管理において、製剤が体内で有効成分を適切に放出するかを評価する標準化された試験である。臨床でのバイオアベイラビリティと相関しやすい指標として、製剤設計から製品の出荷試験に至るまで幅広く活用される。
経口固形製剤の承認時には、主薬の確認方法や含量などと共に、主薬の物性(酸性薬物、塩基性・中性薬物、難溶性薬物)や製剤機能(速放錠、徐放錠、腸溶錠)にあわせた、溶出試験の方法と規格(求められる溶出率)が設定される。
溶出試験の規格は製品品質の恒常性確保とともに、製剤間の著しい生物学的非同等を防ぐことも目的としている(日本薬局方)。
溶出試験の規格の例としては、「試験液に水 900mL を用い、パドル法により、毎分 50 回転で試験を行うとき、30 分間の溶出率は 85%以上である」などのように記載されることが多い。
本稿では溶出試験の位置づけと、その開発プロセスを取り上げたいと思う。
溶出試験の位置づけ
溶出試験の実施を通じて、製剤性能の一貫性と臨床効果の予測精度を確保する。
- 規制遵守
- 法規制や薬局方(USP、EP、JP)で必須の規格試験項目
- 製品が規制基準を満たしているかを確認する必要がある
- 製品開発
- 生物学的同等性評価のスクリーニング手段
- 製剤処方の変更や原薬ロット切替時の一致性確認
- 製剤設計段階でのレギュラトリーサイエンスへの橋渡し
規格試験における主要要素
項目 | 内容 |
---|---|
装置 | バスケット(I)/パドル(II)/他(III, IV) |
溶出媒体 | 酢酸緩衝液、pH 4.5/6.8リン酸緩衝液、消化管模擬液 |
回転速度 | 50–100 rpm などアプリケーション依存 |
サンプル量 | 900 mL ± 扱う錠数・剤形による |
温度 | 37 ± 0.5 °C |
受検試験数 | 通常6ロット以上 |
受入基準(Q値) | 例:30分で>80%溶出など |
溶出試験法開発の手順
- 試験計画書の作成
- 試験の目的、試験条件、試験方法を定義した試験計画書(プロトコル)を作成する
- 製剤物性の評価(性状、硬度、崩壊試験など)で溶出挙動の傾向を把握
- 試料の準備
- 試験対象の試料を準備する
- 試験対象物の選定やサンプルの採取が含まれる
- 試験条件の設定
- 溶出装置の選定
- 剤形に適した装置タイプを選ぶ
- 溶出液の選定
- pHや緩衝液の種類を選ぶ
- 界面活性剤の添加の有無を決定
- 回転速度と媒体量の最適化
- 沈降防止と判別能(discriminative power)のバランス確保
- 溶出装置の選定
- 溶出試験の実施
- 溶出試験条件に従って試験を実施する
- サンプリングおよび分析法確立
- フィルターの孔径選定
- HPLC/UV法の感度・選択性検証
- 判別能試験
- 製剤強度・製造条件の変化ロットでプロファイル差異を確認する
- バリデーション
- 精度、再現性、頑健性、検出限界をICH Q2(R1)に準拠して評価する
- 溶出試験結果の解析
- 溶出試験の結果を解析し、溶出量や分解速度を評価する
- 溶出試験の結果をまとめ、報告書を作成する
- 報告書には試験の方法、結果、解析結果が含まれる
装置Iと装置IIの比較
特徴 | 装置I(バスケット) | 装置II(パドル) |
---|---|---|
揺動方向 | 上下 | 循環 |
判別能 | 固形化けモデルに強い | 流動防止性状で安定 |
試験汎用性 | カプセルや錠剤 | 錠剤や顆粒 |
設置コスト | 高(バスケット交換要) | 低(シンプル構造) |
判別能向上のポイント
- 界面活性剤や有機溶媒添加で溶解度制御
- 回転速度変更による膜拡散/溶媒交換遅延の見極め
- 不良品モデル試料(過硬度、低速結合)で比較
このように、微妙な製造差を捉える設定が求められる。
あとがき
溶出試験は規格試験として、製剤一貫性や臨床予測性を確保する重要な役割を担う。試験装置や溶出液の選定から判別能評価、ICバリデーションまで体系的に開発を進めることで、信頼性の高い試験法が確立できる。
溶出試験は、薬事規制やガイドラインの遵守のためにも非常に重要な試験である。溶出試験の目的や試験対象に応じて試験条件が異なる場合があるので、より詳細な試験法開発手順や具体的な方法については、それぞれの目的に該当するガイドラインやガイダンスを参照することをお勧めしたい。
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