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過敏性腸症候群とは?原因と症状は?治療法と予防策

はじめに

過敏性腸症候群IBS)は主としてストレスが原因で発症する疾病であり、下痢または便秘を慢性的に繰り返す症状が特徴的な病である。便秘も嫌な症状であるが、下痢は日常的に起きるともっとやっかいである。

過敏性腸症候群(IBS)とストレスは密接な関係があるようだ。ストレスが引き金となってIBSを発症する可能性があり、また不安や緊張、悲しみなどのストレスを強く感じる人ほど、IBSの症状が強く現れる傾向があることが知られている。

脳がストレスを感じると、そのストレスが信号となって腸に伝わる。この信号が「脳から腸への信号」と「腸から脳への信号」を刺激することが「腸の知覚過敏状態」を引き起こすらしい。そのため、何かを食べたり飲んだりすると、それが通常以上に敏感に腸から脳へ伝達される。

一方、ストレスによって腸のセロトニンが過剰に分泌されると、腸脳の双方の伝達に異常が発生し、それにより腸の蠕動運動がバランスを崩してお腹の不快感、腹痛、下痢などを引き起こすとされる。

さらに、自律神経である交感神経と副交感神経のバランスが崩れると、自律神経失調症と呼ばれる状態となり、さまざまな症状を引き起こす。これが引き金となってIBSを発症している可能性もあると指摘されている。

したがって、IBSの管理には、ストレス管理とリラクゼーションが重要な要素となることが知られている。

目次
はじめに
過敏性腸症候群(IBS)とは
原因
症状
診断・治療
予防
あとがき

過敏性腸症候群(IBS)とは

過敏性腸症候群Irritable Bowel Syndrome;IBS)は、大腸の機能性消化管障害の代表的な疾患であるとされる。

過敏性腸症候群(IBS)は、大腸に影響を与える慢性疾患で、特定の原因が見つからないにもかかわらず、腹痛、下痢便秘などを繰り返す状態の病気である。

IBSの罹患率は、日本人の約10~15%と見積もられており、20~40歳代に好発し、加齢とともに低下する傾向にある。生命に影響のない良性疾患であるが、QOLに影響するので適切な治療を必要とする。


原因

発症の原因は、現時点ではまだ特定できていない。研究途中ではあるが、何らかの免疫異常が関わっているのではないかと考えられているようだ。

臨床検査、X線撮影、生検では器質的原因は認められない。感情的要素、食事、薬物、またはホルモンが消化管症状を誘発または悪化させることがある。

IBSの多くの患者で、消化管が様々な刺激に対して非常に敏感になる。他の人なら不快に感じない腸内ガスや腸の収縮により不快感を覚えることがある。脳腸相関、消化管運動異常、知覚過敏等が原因の一つと考えられている。IBSは生理学的因子心理社会的因子の混合として理解した方が適切である。


症状

IBSの症状としては、腹痛、けいれん、膨満感、ガス、下痢、および/または便秘が含まれる場合がある。これらの症状は排便によって良くなるのが特徴的である。また、全身症状として、頭痛、だるさ、不安、不眠、発汗などを伴うこともある。

排便に伴う腹痛や、排便することで緩和する腹痛、便の頻度(便秘や下痢など)や便の硬さ(軟便またはかたまりが多く硬い)の変化、腹部膨隆、便に粘液が混じる状態、排便後の残便感などさまざまな症状がみられるようだ。

痛みは持続する鈍痛あるいはけいれん痛の発作として現れることがあり、通常は下腹部に起こる。症状は排便によって軽快もしくは軽減する。一方、社会的心理的ストレスで増悪する。いずれの場合も一時的であるが、長期的には慢性あるいは再発性に持続すると言われている。


検査・診断

IBSの人のほとんどは健康に見える。IBSの診断は、認められる症状の特徴に基づいて行う。男性より女性に多く、男性は下痢型、女性は便秘型が多い傾向にある。

診断を行う際には血液検査、腹部単純X線写真、便潜血検査、下部消化管内視鏡など必要に応じて各種検査を行い、大腸がんや炎症性腸疾患など他の病気ではないことを確認しておくことが重要である。

IBSの国際的な診断基準としてRomeⅣが用いられている(表1参照)。

過敏性腸症候群(IBS)|慶應義塾大学病院 KOMPAS (keio.ac.jp)

便形状により便秘便と下痢便の頻度の割合から、便秘型下痢型混合型分類不能型に分類される(表2参照)。

過敏性腸症候群(IBS)|慶應義塾大学病院 KOMPAS (keio.ac.jp)

治療

食事、ライフスタイル、ストレスを管理することで症状をコントロールできるのがこの疾病の特徴であるとも言える。

基本的に日常生活の改善やストレス対処などの環境整備を行うことが多いが、症状が強い(重篤な)場合や、なかなか改善しない場合には薬物療法で治療することもある。

過敏性腸症候群は、生命にかかわるような病気ではないが、慢性的な下痢や便秘の持続、腹痛や腹部の不快感を伴うため、人知れず悩んでいる人が多いのも事実である。適切な診断と治療により、QOL(生活の質)を向上させることができる。


IBSの治療は、対症療法であり、 生活様式の調整、食事療法、薬物療法 (抗コリン薬やセロトニン受容体に作用する薬剤など)で構成される。理解を示す支持的な治療関係が必須であり、薬物療法は主要な症状を対象として行う。


生活様式の調整と食事療法

IBSの患者は規則正しい生活と十分な睡眠が推奨される。刺激物摂取や、夜間の大量の食物摂取は避けることが望ましい。

さらに、特定食物で症状が起こりやすい患者はその回避により症状が改善する場合があるので、食生活を振り返ることが解決の鍵となる。

多くの人は、量の多い食事を少ない回数食べるのではなく、1回の量を少なくして食事の回数を多くすると、状態がよくなる(例えば、1日3回量の多い食事をするのではなく1日5~6回少量の食事をする)。

通常よりゆっくりと食事するようにする。腹部膨満やガスの増加(鼓腸)がある人は、豆類やキャベツなどの消化しにくい食べものを控えるべきである。


薬物療法

薬剤療法には、ポリカルボフィルムカルシウム、プロバイオティクス、酸化マグネシウムなど腸管の内容物を調整する薬物やトリメブチンや臭化ブチルスコポラミンのような腸管の機能を調節する薬物が用いられる。

高分子重合体
ポリカルボフィルカルシウム(コロネル®)のような高分子重合体は、胃ではほとんど膨張せずカルシウムを遊離させる。一方で小腸・大腸のような中性~弱アルカリ性条件下では大量の水分を吸収して膨潤・ゲル化することで水分吸収を抑制して保水作用を示すようになり、便は適度の水分を含み便の容積も増すようになる。安全性も高く、IBS患者の基本的な治療薬と位置づけられている。投与量は1.5-3gであるが、下痢型では1.5gまでとなる。数週間投与しても症状が改善されない場合は増量ないし中止を検討する。また、 ポリカルボフィルカルシウム は酸性条件下でカルシウムが遊離して薬効を示すので、胃切後や酸分泌抑制剤を服用している患者では十分に薬効が発揮されない場合がある。投与中に腹部膨満感・腹痛などの自覚症状や、高カルシウム血症を認めることがありますが、重篤な副作用はない。
セロトニン受容体(5-HT3受容体)拮抗薬
ラモセトロン塩酸塩(イリボー®)のような5-HT3受容体拮抗薬は、腸管蠕動運動の活発化や腸管水分輸送異常の改善を促し、下痢を抑制し、便形状や便意切迫感を改善させる。さらに腹痛や腹部不快感など内臓知覚過敏を改善する効果もある。 副作用として、便秘や硬便がある。
抗コリン薬
メペンゾラート臭化物(トランコロン®)、チキジウム臭化物(チアトン®)のような抗コリン薬は腸管運動の活発化を抑制する。下痢型IBSの場合に他剤と併用することもできる。副作用として便秘、排尿障害、視調節障害、眼圧上昇、口渇、眠気、めまい、心悸亢進などがあるため、前立腺肥大や眼圧の高い緑内障に患者に対する投与は禁忌となる。また高齢者や自動車の運転をする人に投与する際は慎重な判断が求められる。抗コリン作用を有する三環系抗うつ薬、MAO阻害薬、抗ヒスタミン薬と併用すると作用が増強されるため注意が必要である。
便秘治療薬
便秘に対しては浸透圧性下剤である酸化マグネシウム、刺激性下剤であるセンノシド製剤やピコスルファートが使用されてきたが、便秘に対して上皮機能変容薬と呼ばれるこれまでの便秘治療薬とは異なる作用機序の便秘治療薬が利用可能になった。塩素イオンチャネルアクチベーター(ルビプロストン®、アミティーザ®)、グアニル酸シクラーゼC受容体作動薬(リナクロチド® 、 プレカナチド®)や胆汁酸トランスポーター阻害薬(グーフィス®)が上皮機能変容薬に該当する。これらの薬剤はいずれも便秘型IBSに対する投与が可能である。
止瀉薬
下痢型IBSには,ジフェノキシラートまたはロペラミドを食前に経口投与してもよい。

予防

過敏性腸症候群(IBS)の予防策としては、下記のような対策が知られている。これらの予防策は、IBSの症状を軽減し、生活の質を向上させるのに役立つと考えられており、推奨されている。

  • 食生活の改善
    • 食事を規則正しくとる
    • 食物繊維を多く摂取する
      • 果物、野菜、穀物、ナッツなど
    • 食物繊維の多い食事を増やし、多くの水を飲む
    • カフェイン飲料を避ける
      • コーヒー、チョコレート、紅茶、ソーダなど
    • チーズとミルクの摂取を制限する(乳糖不耐症者)
    • 他の供給源からカルシウムを摂取
      • ブロッコリー、ほうれん草、サーモン
      • サプリメント
    • 少量の食事を、頻繁に摂る(1日あたり5〜6回)
  • 生活習慣の改善
    • 禁煙
      • 喫煙は避ける
    • 適度な飲酒(節酒)
      • 暴飲暴食、アルコールの多量摂取を避ける
    • 定期的な運動
      • 適度な運動を継続させる
      • 有酸素運動
  • ストレスの管理
    • ストレスを発散する
  • リラクゼーション

あとがき

IBSの発症や症状の悪化にはストレスや食生活などの生活習慣が大きく影響すると考えられている。IBSは、ストレスが原因で発症する疾病に数えられている。

特に、ストレスが加わることでストレスホルモンが脳下垂体から放出され、その刺激で腸の動きがおかしくなって症状が出るといわれている。

また、食事内容や食事のリズム、運動習慣などの生活習慣の改善がIBSの症状の管理に役立つとされている。


【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版