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発達障害とは?原因は何?タイプ別の症状の特徴は?

はじめに

発達障害(神経発達障害)は、脳の発達に影響を与える状態で、興味や活動が限られていることが多い。例えば、社会的なコミュニケーションや行動に困難を伴う状態(自閉スペクトラム症ASD)であったり、注意力の持続が難しく、多動性や衝動性が見られる状態(注意欠陥・多動性障害ADHD)であったりする。

さらには、読み書きや計算など、特定の学習分野で困難を感じる状態(学習障害LD)であるため、学校教育でも支障をきたすことが多い。

    これらの障害は、個々の特性や強みを理解し、適切な支援を提供することで、Quality of Life (生活の質)を向上させることができるというから興味深い。

    目次
    はじめに
    発達障害(神経発達障害)とは?
    原因
    症状
    知的障害(旧精神遅滞)
    コミュニケーション障害(発達性言語障害)
    聴覚障害
    音声障害
    発話障害
    言語障害
    自閉症スペクトラム障害
    旧広範囲発達障害
    アスペルガー症候群
    高機能自閉症
    注意欠陥多動性障害(ADHD)
    特異的学習障害(LD)
    運動障害(発達性協調運動障害、チックなど)
    その他、レット症候群
    検査・診断
    治療・支援体制
    あとがき

    発達障害(神経発達障害)とは?

    発達障害(神経発達障害)とは、子供の発達途上において、生体の機能の一部が成熟しないでとどまっているため、特定の技能や一連の情報の獲得、保持、応用を妨げることがある、発達期における脳機能不全に起因する精神障害の総称である。

    神経発達障害(neuro-developmental disorders)には下記のような障害が含まれる。

    • 知的障害(旧精神遅滞)
    • コミュニケーション障害(さまざまな言語障害含む;発達性言語障害)
    • 自閉症スペクトラム障害(旧広範囲発達障害、アスペルガー症候群・高機能自閉症)
    • 注意欠陥多動性障害(ADHD)
    • 特異的学習障害(LD)
    • 運動障害(発達性協調運動障害、チックなど)
    • その他、レット症候群

    尚、2004年に成立した発達障害者支援法には、「発達障害は、自閉症、アスペルガー症候群、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などに類する脳機能の障害で、その症状が通常低年齢で発現するものとして政令で定


    原因

    発達障害(神経発達障害)は、脳機能の障害が原因とされ、先天的なものであったり、そうでない場合も低年齢時に生じたほかの疾患の後遺症によるものであったりする。

    尚、生育環境(例えば、愛情のかけ方や育て方など)が原因となったものは含めない。


    症状

    発達障害(神経発達障害)は、脳機能の障害が原因で脳の発達に不都合が生じ、発達の停滞や偏りが出る。それが他者の介入を必要とするほどの周囲との摩擦の原因となる。

    なお、これらの摩擦自体は発達障害が発生する直接の原因とはならない。患者の不適応状態は、個人の発達的変化によって様相が変わり、そこに環境要因が大きく影響を及ぼしていく。

    神経発達障害は、青年期になって発生する中途障害とは異なり、発達期に明らかとなる点がその特徴である。相応の支援が必要であって、それは一生涯続く。

    発達障害によって、注意力、記憶力、知覚、言語、問題解決能力、対人関係に支障が出ることがある。こうした障害は、軽度で行動介入と教育的介入によって容易に対処できる場合もあるが、重度でそのような介入以上の支援が小児に必要になる場合もある。


    知的障害(旧精神遅滞)

    知的障害(知的能力障害)とは、出生時や乳児期の初期から知能の働きが明らかに標準以下であり、正常な日常生活動作を行う能力が限られている状態である。

    知的障害がある小児は、出生時や出生直後に明らかな異常を呈する場合がある。こうした異常には、身体的異常や神経学的異常がある。顔貌の異常、頭が異常に大きかったり小さかったりすること、手や足の奇形など、様々な形で現れることがある。

    外見上はまったく正常であっても、けいれん、嗜眠、嘔吐、尿の匂いの異常、哺乳不良、発育不良など、健康に深刻な問題があることを示す徴候が現れる小児もいる。

    重い知的障害のある小児は、生後1年における運動能力の発達が遅れ、寝返りをうつ、座る、立つなどの動作ができるようになるのが遅くなる。

    しかしながら、知的障害がある小児のほとんどでは、幼稚園や保育所に行く年齢になるまで目立った症状が現れない。知的障害の程度が重いほど、症状が明らかになるのが早くなる。

    多くの場合、親が最初に気づく徴候は言葉の発達の遅れである。知的障害がある小児は、単語を話し始めたり、単語をつなぎ合わせて使ったり、完全な文を話したりする時期が遅れる。認知障害や言語能力の不足から、社会性の発達が遅れることもある。

    知的障害がある小児は、自分で着替えたり自分でご飯を食べたりするようになるまでに、時間がかかることがある。小児が小学校や幼稚園、保育所に通うようになって、年齢相応の振る舞いができないことが分かるまで、認知障害の可能性を考えない親もいる。

    知的障害がある小児では、他の小児と比べて、怒りを爆発させたり、かんしゃくを起こしたり、攻撃的な行動や自傷行為をとったりするといった行動面での問題を抱えている傾向がやや大きくなる。

    こうした行動が多くみられるのは、コミュニケーション能力や衝動を抑える能力に障害があるために、特定の状況に対する欲求不満が悪化する場合である。年長児は、だまされやすくつけ込まれやすいことがあり、ささいな犯罪に引きずり込まれることもある。

    知的障害がある人の約20~35%には、精神障害もみられる(重複診断)。特に不安やうつ病が多く、これらは、自分が周りの小児と違うことに気づいた場合や、障害のために中傷や虐待を受けた場合に、とりわけ多くなる。


    コミュニケーション障害(発達性言語障害)

    コミュニケーション障害には、聴覚障害、音声障害、発話障害、言語障害、またはそれらが複合したものがある。


    聴覚障害

    小児が音に反応しない場合や、言葉をうまく話せなかったり、話し始めるのが遅かったりする場合、聴覚障害を疑ってみる必要がある。


    音声障害

    学齢期の小児に声の問題がみられる場合、最も多いのは声がれである。声の問題のある小児の多くでは、 声帯に小さな結節がみられる。結節は通常、音声療法で解消し、手術が必要になるのはまれである。


    発話障害

    言語音を出すことが困難になる。その結果、小児は意味のあるコミュニケーションをうまく行うことができなくなる。発話障害には次のようなものがある。

    • 開鼻声または鼻からの発話
    • 吃音(きつおん)
    • 構音障害

    言語障害

    言語を使う能力、理解する能力、または表現する能力が、ほかの点では健康な小児において低いことがある(特異的言語障害)。そのためにコミュニケーション能力が大きく損なわれ、教育上、社会上、就業上の機会が制限される。


    自閉症スペクトラム障害

    自閉症スペクトラム障害は、神経発達障害の一つであり、正常な社会的関係を構築することができず、言葉の使い方に異常がみられるか、まったく言葉を使おうとせず、強迫的な行動や儀式的な行動がみられる疾病である。

    自閉スペクトラム障害の症状には軽度から重度まで幅があり、学校や社会で自主的に行動する能力には大きな個人差がある。したがって、支援する必要性も大幅に異なる。さらに、自閉スペクトラム障害の小児の約20~40%では、特に知能指数(IQ)が50未満の小児の場合、青年期に至る前にけいれん発作が起こる。

    自閉スペクトラム障害の小児では、
    (1)社会的コミュニケーションと対人関係、及び
    (2)言語、
    (3)行動・興味・活動の領域に
    下記のような症状が現れる。


    (1)社会的コミュニケーションと対人関係

    多くの場合、自閉スペクトラム障害の乳児は、典型的な抱かれ方や視線の合わせ方をしない。親と離れると動揺する自閉スペクトラム障害の乳児もいるが、自閉スペクトラム症でない小児のように安心や安全を求めて親を頼ることをしないことがある。

    多くの場合、年長児は1人で遊ぶ方が好きで、誰か(特に家族以外の人)と親密な関係を築くことはない。他の小児と交流する際、コミュニケーションをとるために視線を合わせたり顔に表情を浮かべたりしないことがある。

    また、他者の気分や表情を読みとることが苦手で、いつどのように会話に加わればよいのか分からず、その場にふさわしくない言葉や人を傷つける言葉に気づきにくいことがある。このような要因のため、自閉スペクトラム障害の患者は、奇妙で風変わりな人とみなされ、社会的に孤立する。


    (2)言語

    最も重症の小児は話せるようにはならない。話せるようになる場合でも、話し出すのは普通の小児よりずっと遅く、変わった言葉の使い方をすることがある。

    多くの場合、自分に話しかけられた言葉をそのまま繰り返したり(反響言語)、自発的な言葉の代わりに記憶している原稿にあるような表現を使ったり、代名詞を入れ替えて使ったりする。

    特に、自分のこと指して「わたし」「ぼく」ではなく「あなた」「きみ」を使うことがよくある。会話が双方向的ではないことがあり、会話があるとしても、考えや感情を共有するのではなく、一方的に表現したり要求したりするために会話を用いる傾向がある。また、自閉スペクトラム障害の人は、会話するときの声の抑揚や高さが独特なものになりがちである。


    (3)行動・興味・活動

    自閉スペクトラム障害の人は、たいていの場合、新しい食べものやおもちゃ、部屋の模様替え、衣服などの変化を非常に嫌う。

    また、特定の対象(生き物以外)に異常な執着を示すことがある。繰り返して物事を行うことがよくある。より年少の小児や重症の小児は、体を揺らす、手をたたく、ものを回転させるなどの特定の行動を繰り返す傾向がある。なかには、頭を何かにぶつける、自分をかむなどという行動を繰り返す結果、けがをする小児もいる。

    比較的軽症の患者は、同じビデオを何回も見たり、毎回の食事に同じものを食べることにこだわったりする。自閉スペクトラム障害の人は、非常に特殊な、しばしば異常な興味を示すことがある。例えば、掃除機に夢中になったりする。

    自閉スペクトラム障害の人は、感覚が鋭すぎたり鈍すぎたりすることがよくある。ある種の臭い、味、手触りをとても嫌がったり、人々が苦痛に感じる痛み、熱さ、冷たさに異常な反応を示すことがある。ある音を無視したり、ある音には極めて大きな苦痛を感じたりする。


    旧広範囲発達障害

    仲間関係をつくることが苦手で、楽しみや興味を他人と共有することを求めない。表情やジェスチャーで表現したり、相手の表情を読み取ったりすることが苦手である。自分の気持ちを表現することも、相手の気持ちを推し量ることも苦手である。

    比喩表現を理解できず文字どおりに受け取ってしまいがちである。具体的な指示がないと、その場でどう行動すべきかが理解できなくて、不適切な行動をとることがある。

    変化に対応することが苦手で、急なスケジュールの変更があると不安に陥り、パニックを起こすこともある。物体の一部に熱中する、特定のゲームにこだわるといった、興味や関心の範囲の偏りや、物事の順番や場所、道順など習慣へのこだわりがみられる。


    アスペルガー症候群

    アスペルガー症候群では、社会的コミュニケーションの障害と興味や活動の偏りを特徴とした症状が出現する。

    アスペルガー症候群の患者は、一見すると他人に興味がないように見える。しかし、本当に興味がないわけではなく、どうやって他人と関わっていけばいいのか、その方法が分からない状況である。こうしたことから、彼ら/彼女らは人のなかで浮いてしまうことが多く、幼児期には一人遊びが中心となる。しかし、他人にリードされること、自分より年齢が小さい子をリードすることなどで、集団行動が可能なこともある。

    場や年齢にそぐわない言葉づかいをする。また、年齢相応の羞恥心や常識についての理解が乏しいこともあり、オブラートに包んだ表現をすることも苦手である。本人に悪気があるわけではなく、思ったことを正直にいう傾向がある。しかしこうした気持ちは他人には伝わらないこともあり、対人関係に障害をもたらすことがある。

    アスペルガー症候群の患者は、興味や活動の仕方に偏りがある。こうした傾向が学問に向かう場合(たとえば数学やコンピュータープログラミングなど)には、驚くべき成果を達成することもある。しかし、こうした傾向は必ずしも社会的な意味を持つものばかりではない。例えば、バスのルートや時刻表の詳細まで記憶していることがある。

    こうした情報は、アスペルガー症候群の患者にとってはとても興味深いものであるため、他人と情報を共有しようとするし、話題を変えることを嫌がることもある。その結果、友人関係において、「話題が面白くない」「会話がつまらない」などの評価を受けることもある。

    アスペルガー症候群では、これらの症状があることから人間関係の構築に問題をきたすことがあり、学校生活や会社での環境において孤立することもある。また、自身の気持ちが周囲に伝わらないことを経験して引きこもりになったり、うつ状態を呈したりすることもある。


    高機能自閉症

    高機能自閉症は、対人コミュニケーション能力や社会性、想像力に障害があるため対人関係がうまくいかなかったり、限定された物事へのこだわりなどが強く表出されたりする特徴がある。言語の発達に遅れがありますが、知能の発達に遅れはない。 アスペルガー症候群とほとんど差がないように見受けられる。


    注意欠陥多動性障害(ADHD)

    注意欠陥/多動性障害(ADHD)では主に、注意力の維持、集中力、課題の持続性に問題がみられたり、逆に過剰に活動的であったり衝動的であったりすることもある。

    就学前のADHD児では、コミュニケーションに問題があり、社会的対人関係に問題があるように見える。学齢期に達すると、注意力が緩慢でそわそわして落ち着きがなく、衝動的になったり、不適切なときに話したりすることがある。

    小児期の後期では、脚を落ち着きなく動かしたり、手をそわそわと動かしたり、衝動的に話し出したり、忘れっぽかったり、だらしなかったりすることがある。しかしながら、通常、ADHD児は攻撃的ではない。


    特異的学習障害(LD)

    学習障害がある小児は、注意力、記憶力、論理的思考力が欠けているため、特定の技能や情報を習得したり、記憶したり、幅広く使ったりすることができず、学業成績にも影響が出る。

    学習障害の小児は、色の名前や文字を覚えたり、数を数えたり(算数障害)、読み書き(読字障害書字障害)を習得したりすることが遅れる場合がある。


    運動障害(発達性協調運動障害、チックなど)

    筋肉や神経、視覚・聴覚などに異常がないにもかかわらず、ボールを蹴ったり、字を書くなどの協調運動に困難を呈する障害をいう。


    その他、レット症候群

    レット症候群は、生後6カ月間正常な発達がみられた後、発達に異常がみられるまれな神経発達障害で、ほぼ女児だけにみられる。症状としては、対人関係の障害、言語能力の欠如、手の反復動作などがみられる。


    検査・診断

    発達障害(神経発達障害)は、できるだけ早期に発見して発達支援をすることが特に重要である。

    検査・診断は、医療機関の精神科や心療内科などで、下記のようなステップで実施されるのが一般的である。

    1. 問診
      • 医師による問診
        • 患者のこれまでの成長・発達の様子
        • 現在の生活状況
        • 困っていることや悩みについての聞き取り
    2. 心理検査
      • 臨床心理士による心理検査
      • 知能検査や適応能力検査なども含まれる
        • 知能検査:物事に対する理解や知識などを測定
        • 知能検査:課題を解決するための認知能力を測定
        • 適応能力検査:社会へ適応能力を測定
    3. 診断
      • 医師は診断基準に照らして総合的に発達障害を診断
        • 問診で得られた情報
        • 各種の検査結果
        • アメリカの精神医学会が発行の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)を使用

    治療・支援体制

    発達障害者支援法(2005年4月施行)により、都道府県レベルで支援センターが設置され、地域単位で乳幼児期から成人期まで一貫して支援できる体制が整えられつつある。

    神経発達症(発達障害)の治療と支援は、個々の特性や症状に応じて行われる。主な治療と支援の方法は下記の通りである。

    • 心理社会的治療・環境調整
      • 患者自身が発達障害の特性を理解する
      • その上で、社会生活に適応するためのスキルを学ぶ
        • ソーシャルスキルトレーニング(社会生活訓練)
        • ペアレント・トレーニング(PT)
    • 薬物療法
      • 特定の症状を改善するために使用
        • ADHDの症状(不注意・多動性・衝動性)を改善
    • 環境調整などの支援・配慮
      • 周囲の環境を整える
      • 周囲の状況に合わせた行動をとりやすくする

    これらの治療と支援は、関係各所が相互に連携して行われる。都道府県や政令指定都市ごとに「発達障害者支援センター」が設置されており、当事者を対象にグループ活動の場を提供したり、生活自立・就労などの相談に応じている。


    あとがき

    日本における神経発達障害(発達障害)の有病率は、小児期には約7~10%であるとの報告がある。そして有病率の男女比は4~6:1であり、圧倒的に男児に多いらしい。2002年に文部科学省が日本全国各都道府県の公立小中学校を対象に行った調査結果では、発達障害の可能性がある児童の割合は6.5%であったとする報告もある。これらの統計は、発達障害の診断基準や認識の変化、さらには地域や調査方法によって異なる可能性がある。したがって、これらの数値は参考の一つにするしかない。

    一方、成人期における有病率は、約0.5~4.6%と小児期よりも減少しており、男女比もほぼ1:1となり、性差を認めなくなっているようだ。神経発達障害(発達障害)は、小児期に早く発見して、適切な治療や支援を実施する必要がある。それは大人と社会全体の責任であろう。


    【参考資料】

    杉山登志郎著『発達障害のいま』(講談社現代新書)
    松為信雄著『発達障害の子どもと生きる』(幻冬舎ルネッサンス新書)
    小学館 日本大百科全書
    MSDマニュアル家庭版・プロフェッショナル版
    Medical Notes HP