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勃起不全(ED)とは?原因と症状は?治療法と予防策

はじめに

勃起不全(Erectile Dysfunction; ED)とは、男性の性機能障害(Sexual Dysfunction; SD)の一種であり、陰茎の勃起の発現又は維持ができないため、満足に性交の行えない状態を指す。

かつてはインポテンツもしくはインポテンスと呼ばれていたが、るのが一般的であった。しかし、侮蔑的な意味合いも含んでいたため、勃起不全またはED【イーディー】と呼ばれることが多くなり、近年では一般的な(平均的な)呼称としてEDが定着している。

日本人のED罹患率に関する報告では、20~39歳の若年層では4.7%であるものが、40代前半で16%、40代後半で20%、50代前半で36%、50代後半で47%、60代前半で57%、60代後半では70%というふうに加齢に伴って顕著に増加している。EDは、顔のシワや白髪と同じような老化の現れの一つなのかも知れない。つまり、加齢による老化のプロセスということである。

目次
はじめに
勃起不全とは
原因
症状
検査・診断
治療
薬物療法
その他の治療法
予防
あとがき

勃起不全とは

勃起不全(Erectile Dysfunction; ED )は勃起しない、または勃起が持続しないために満足な性交ができない状態と定義されている。

EDは、米国では最大2000万人の男性が罹患している。部分的または完全EDの有病率は40~70歳の男性では50%を超えており、加齢とともに有病率は上昇する。日本国内でも、中等度EDと完全EDを合わせておよそ1,130万人の患者がいると推定されている。


原因

EDには次の2つの病型がある。

原発性ED
過去に勃起を達成または維持できたことが一度もない場合。 まれであり、ほぼ常に心理的因子または臨床的に明らかな解剖学的異常に起因する。心理的原因には、罪悪感、親密性に対する恐怖、抑うつ、不安などがある。
続発性ED
以前は勃起可能であった男性が後になって発症する場合。 比較的頻度が高く、全症例の90%以上で器質的な病因が存在する。続発性EDのある多くの男性では、反応性の心理的問題が発生し、問題を複雑化させる。 心理的原因には、性的能力に関する不安、ストレス、または抑うつがある。心因性EDは、特定の場所、時間、またはパートナーなどが関係する状況に応じて生じることがある。 主な器質的原因は血管疾患と神経疾患である。 これらの疾患はしばしば動脈硬化または糖尿病に起因する。
血管性の原因
最も頻度が高い。 陰茎海綿体動脈の動脈硬化であり、これは喫煙および糖尿病が原因である場合が多い。動脈硬化と加齢によって動脈血管の拡張能と平滑筋の弛緩能が低下することで、陰茎に流入できる血液の量が制限される。静脈の閉鎖機能障害により静脈から血液が流出する結果、勃起の維持が不能になる。
神経性の原因
脳卒中、複雑部分発作、多発性硬化症、末梢神経障害および自律神経性ニューロパチー、脊髄損傷などがある。糖尿病性神経障害と外科的損傷が特に頻度の高い原因である。

EDを発症する原因として考えられているものには下記のようなものがある。

加齢
喫煙
高血圧・糖尿病・脂質代謝異常
肥満および運動不足
うつ病
前立腺肥大症などの下部尿路症状
薬剤の服用(降圧剤や精神疾患の治療薬の服用によることが多い)

症状

性交を行うのに十分な勃起を達成または持続できない。


検査・診断

EDであるかどうかは、定義「満足のいく性行為に十分な勃起を達成できない、もしくは維持できないこと」に当てはまれば診断できるので、患者自身でも診断可能である。

EDがどんなものかの鑑別診断は、ED専門医が行い、下記のいくつかの検査や問診を行う。


問診

EDの発現の時期、EDの原因となる病気(糖尿病、動脈硬化症、骨盤内手術や外傷の有無、精神疾患など)やEDを引き起こすとされる内服薬の服用の有無や他の性機能障害(射精障害、性欲障害など)の合併の有無やパートナーとの関係などを尋ねる。

またEDの程度を客観的に判断するために国際勃起機能スコア(IIEF5)といわれる質問表を記入する。具体的には下記5つの質問を5段階で評価する。

勃起を維持する自信の程度はどのくらいですか?
性的刺激による勃起の場合、何回挿入可能な勃起の硬さになりましたか?
性交中、挿入後何回勃起を維持することができましたか?
性交中、性交が終るまでに勃起を維持するのにどれくらい困難でしたか?
性交を試みた時に何回満足に性交ができましたか?

検査

勃起に関係する内分泌ホルモン(血中テストステロン・LH・FSH・プロラクチンなど)や血糖値、コレステロール値などを採血にて検査する。また、夜間陰茎の膨張度を評価する検査や陰茎内の血流の程度を確認する超音波検査を行うことがある。


治療

薬物療法

治療の目的は満足のいく性的関係を回復することにあり、単に硬い勃起を得ることではない。一般には心理療法、薬物療法が行われますが、泌尿器科外来では、薬物治療が治療の中心となる。

バイアグラレビトラシアリスの3種類のPDE-5阻害剤がED治療薬として開発されており、これらのうちのいずれかを患者さんの状態に合わせて処方する。有効率は60~80%である。大切な点は、これらの薬剤を使用するにあたり、他の薬剤との併用禁忌、注意を守ること、副作用の発現に十分注意すること、使用方法をきちんと守ることである。

この他、 内服している薬剤が原因となりEDが疑われる場合は、原因薬剤の中止や減量・変更を考慮する。 血液検査で、テストステロンが低い患者においては、性機能の改善のためにテストステロン補充療法(エナルモンデポ筋肉注射)を行うことがある。


その他の治療法

海綿体注射
国内では治療として認可されていないが、プロスタグランディンという薬剤を陰茎海綿体に注射する方法である。陰茎痛や持続勃起症などの合併症がおきることがある。
陰圧式勃起補助具
医師の指導のもと、陰茎に陰圧をかけて陰茎内に血液を吸引した後に陰茎基部にゴムバンドをまいて血液を滞留させる方法である。
プロステーシス挿入術
プロステーシスといわれる器具を手術によって陰茎海綿体に埋めこむ方法である。この方法は手術を必要とするうえに、一度埋め込むと取り出すのが難しくなるため、他の治療法が失敗に終ったあとに選ばれたケースにのみ実施される。

予防

EDの予防策としては、生活習慣の改善を主眼した下記のような対策が知られている。

  • 栄養バランスの良い食事を心掛ける
  • 暴飲暴食を避ける
  • 定期的に運動をする
  • 骨盤底筋や下半身周りの筋トレ
  • 十分な睡眠をとる
  • ストレスを溜め込まない
  • 過度な飲酒を避ける(節酒)
  • 禁煙する

あとがき

EDになると、たとえシニア世代であっても一般的には下記のような問題が生じる可能性があるとされている。

  • 性生活への影響
    • 個人の性生活やパートナーとの関係に影響を及ぼす
  • 心理的ストレス
    • 自己評価や自尊心に影響を及ぼす
    • パートナーに対する罪悪感や恥ずかしさを感じる
  • 全身の健康問題
    • 全身の健康問題の一部である可能性がある
      • 慢性腎障害
      • 脳血管障害
      • 内分泌疾患
      • 神経疾患
      • 男性更年期障害
      • 心理的精神疾患
    • 生活習慣病との関連性が高い
      • 高血圧
      • 糖尿病
      • 脂質異常症
      • 動脈硬化
      • 睡眠時無呼吸症候群

これらのなかで、シニア世代にとっては全身の健康問題が気になるところである。その理由は、EDは全身の健康問題のバロメーター的な存在であると考えるからだ。

勿論、「性生活への影響」や「心理的ストレス」も大切ではあるが、シニア世代は現役世代とはあらゆる面で状況が違う。EDだからといって日本では夫婦関係が破綻することはない、と言われている(エビデンスはないが・・・)。

加齢に伴い男性ホルモン(テストステロン)が低下することが知られており、男性はさまざまな不調に見舞われる。その不調の原因は加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)というものであるとされる。

LOH症候群は、うつ、性機能低下、認知機能の低下、骨粗鬆症、心血管疾患、内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性の悪化、HDLの低下、コレステロール値とLDLの上昇に寄与し、メタボリック症候群のリスクファクターになると言われている。

健康的な身体であれば、勃起機能はいつまでも衰えないらしい。男が勃起するためには基本的に性的刺激が必要であるが、性的刺激があっても勃起しない、勃起が弱いということは、血管を含めて身体のどこかに異常があるということである。加えて、生活習慣も乱れている可能性がある。私が、EDを「全身の健康問題のバロメーター」と考えるのは、以上のような理由からである。


【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版