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医薬品の開発および製造における ICH ガイドライン及び規制当局が定めた規制等

はじめに

医薬品の開発・製造においては、各国の規制当局および国際的な協議機関が定めたガイドラインや規制に準拠することが必須である。これらの規制やガイドラインにより、医薬品の安全性、有効性、品質を世界共通のレベルで保証することができる。

本稿では、医薬品の開発・製造に関わる主な規制やガイドラインについて取り上げる。

目次
はじめに
ICHガイドライン
米国FDAの規制・ガイドライン
欧州EMAの規制・ガイドライン
日本PMDAの国内規制・ガイドライン
各規制・ガイドラインの統合的な役割
あとがき

ICHガイドライン

ICH(国際医薬品規制調和会議)は、米国、欧州、日本を中心とする主要な規制当局が参加し、医薬品開発の各段階で統一的な基準を提供している。

ICHにより制定されたガイドラインは、医薬品の開発および製造に関する技術的要求事項を国際的に統一することを目的としており、米国、欧州、日本などの主要な規制当局と製薬業界が協力して策定したガイドライン群である。これらのガイドラインは、医薬品の安全性、有効性、品質を確保し、各国での重複審査の手間を省くとともに、グローバル市場への迅速なアクセスを実現するための共通基準として機能している。

代表的なガイドラインには以下のようなものがある。

ICH Q8 – 医薬品の開発

製剤開発において、製品およびプロセスの設計をQuality by Design(QbD)の視点から体系的に行うことを推奨するガイドラインである。QbDアプローチにより、製造条件や原材料の影響を理解し、リスク評価の基盤となるデータが得られる。

言うなれば、ICH Q8は製品開発の段階でのプロセス設計や製品特性の最適化に関する指針を提供している。

ICH Q9 – 品質リスクマネジメント

製造工程や製品における潜在的リスクを特定・評価・管理するためのフレームワークを提供するガイドラインである。FMEA、FTA、リスクマトリックスなどを活用して、リスク低減策の策定や継続的な監視が促進される。

言うなれば、ICH Q9は製品のライフサイクル全体を通じたリスク評価と管理手法を体系化したガイドラインである。

ICH Q10 – 品質管理システム

製造全体の品質管理体制(Quality Management System: QMS)の構築に関するガイドラインである。製造プロセスの安定性、継続的改善、知識管理が求められるため、製造現場から市場後のフォローアップまで一貫した管理が実現される。

言うなれば、ICH Q10は開発から製造に至る一貫した品質管理体制の構築を推奨し、プロセスの安定性と信頼性の向上に寄与しているガイドラインである。

ICH Q11医薬品原薬の製造プロセス

原薬(API)の製造における最適なプロセス設計と管理手法を示したガイドラインである

ICH Q1シリーズ(Q1A~Q1F)– 安定性試験

医薬品の安定性評価に関するガイドラインである。実施すべき安定性試験の保存条件や試験方法、試験期間などが詳しく定められており、製品の有効期限(使用期間)や品質保持期間の根拠となる安定性試験データを得るために役立つ指針となっている。

これらのICHガイドラインは、多国間での承認プロセスを円滑にするための基盤として機能しており、特にリスク評価やプロセス管理の考え方に共通性を持たせる点が特徴である。


米国FDAの規制・ガイドライン

米国では、FDA(Food and Drug Administration)が以下の文書や規制を通じて医薬品の品質管理と製造プロセスのバリデーションを指導している。

21 CFR 210/211 – 現行GMP

製造工程、試験、包装、保管など医薬品の全ての段階において、厳格なGMP(Good Manufacturing Practice)が求められ、これにより製品の一貫性と安全性が保証されることになる。

FDAガイドライン

FDAガイドラインとして、Process ValidationやQuality Systems Approachなど知られている。これらのガイドラインは、製造工程のバリデーションや品質リスクマネジメントに関する具体的な手法が解説された文書として発行されてものである。

これらのFDA独自のガイドラインは、ICHガイドラインと整合性を保ちながら現場実務に応用されている。

なお、ハイリスク薬の場合は、Risk Evaluation and Mitigation Strategies (REMS) といった追加の安全管理プランが要求されるケースもある。


欧州EMAの規制・ガイドライン

欧州では、EMA(European Medicines Agency)がICHガイドラインに準拠すると同時に、独自の補足的指針も発表している。

EMAの医薬品製造・品質管理に関するガイドライン

ICH Q7(原薬のGMP)や、製造プロセス、安定性試験、リスクマネジメントに関する文書が適用され、欧州全体で統一された高水準の製品品質を確保している。

高度な製造技術への対応

EMAは、高度な最新製造技術(例えば、連続製造技術)を取り入れたプロセス管理(例えば、PAT)やバリデーション手法に関してもガイドラインを更新している。これらのガイドラインは、製品の安全性確保と市場投入の迅速化を図ることに寄与している。


日本PMDAの国内規制・ガイドライン

日本においては、PMDA(医薬品医療機器総合機構)が主導する形で、医薬品の承認申請や製造・品質管理に関するガイドラインが整備されている。

薬機法およびGMPガイドライン

日本の医薬品は、厚生労働省およびPMDAが定める薬機法(旧薬事法)に基づき、GMPをはじめとする厳格な品質管理基準が遵守される。これにより、ICHガイドラインと同様の国際水準の製品安全性が保証される。

リスク管理計画(RMP)や安全管理プラン

ハイリスク薬や特定の医薬品に対しては、製造から販売後の市場監視まで一貫したリスク管理計画が求められている。このリスク管理計画(RMP)は、リスク評価や低減策に関する具体的な戦略を文書化したものであり、承認申請時の重点評価対象となる。


各規制・ガイドラインの統合的な役割

これらのガイドラインや規制は、以下の点で医薬品の開発・製造プロセスに重要な影響を与えている。

  • 安全性・品質保証の基盤
    • 開発初期から市場導入後まで、製品の一貫した安全性と品質を確保するための体系的な管理が行われる
  • プロセスの透明性と再現性の確保
    • バリデーションや継続的プロセス監視を通じ、製造過程におけるばらつきを最小限に抑え、GDP・GMPに基づく厳密な管理が実現される
  • 規制当局との信頼関係の構築
    • 透明なリスク評価、文書化、継続的改善のプロセスは、承認申請時に規制当局への信頼を築く上で不可欠である

近年は連続製造やプロセス分析技術(PAT)の導入など、最新技術を取り入れた規制対応やガイドラインの改訂も進められているため、最新動向の把握がますます重要となっている。


あとがき

ICHガイドラインおよび各国の規制は、医薬品の開発と製造全体において極めて重要な役割を果たしており、その遵守は患者の安全性や治療効果の確保に直結する。

各国の医薬品当局(FDA、EMA、PMDAなど)による規制やガイドラインは、医薬品の製品の安全性、有効性、品質を保証するための枠組みとして、開発から承認、その後の市場監視に至るまで幅広い範囲をカバーしている。

各国の規制当局によるガイドラインは、ICHガイドラインを基礎として自国の規制環境を整備したものとなっている。これにより、医薬品の臨床試験、製造、品質管理、流通、市販後の監視といった全プロセスにおいて、国際的に統一された基準が適用され、製薬企業はこれらに準拠した開発体制を整えることで製品の承認を獲得しやすくなる。また、技術の進展や新たな科学的知見の反映を目的として、ICHガイドライン自体も定期的に見直され、更新が行われている。

製薬企業は、ICHガイドラインや各国の規制に基づく審査・監査を経て、医薬品の開発から製造、そして上市後のフォローアップに至る一連のプロセスを構築・運用している。これにより、グローバル市場での医薬品承認取得や流通が容易になるとともに、高い品質と安全性を維持するための内部システムの強化が促進される。また、国際基準の採用は、企業間の技術移転や共同研究、製造委託など、さまざまな局面での協力関係を育む基盤となっている。

本稿では、CMC関連のガイドラインを中心に取り上げたが、ICHガイドラインには、CMC関連以外に次のようなガイドラインも策定され、運用されている。

  • 安全性(Sシリーズ)
    • 動物実験や毒性試験をはじめとする安全性評価に関する試験方法と評価基準が規定され、製品の初期段階での安全性確認を行うための枠組みとなっている
  • 有効性(Eシリーズ)
    • 臨床試験の計画、実施、解析に関する基準が定められており、特にICH E6で示されるGood Clinical Practice(GCP)は、臨床試験被験者の権利保護やデータの信頼性確保のための国際基準として広く採用されている
  • マルチディシプリナリー(Mシリーズ)
    • 医薬品の登録申請に使用されるCTD(コモンテクニカルドキュメント)のフォーマットなど、各国の規制当局への申請書類の標準化を推進するガイドラインが含まれている

最後に、GMP(Good Manufacturing Practice)の役割についても触れておきたい。

医薬品製造においては、ICHが提示する仕組みや原則に基づくGMPが各国で導入されている。GMPは、製造工程のすべての段階で、製品が一定の品質基準を満たすように管理する仕組みである。GMPには製薬工場の設備、製造プロセス、従業員の教育訓練や文書管理など、多岐にわたる項目が厳格に規定されている。このGMPを準拠することにより、製品品質の均一性と安全性が確保され、市場での信頼性が高まることに寄与している。