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巣状分節性糸球体硬化症とは?原因と症状は?治療法

はじめに

「巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)」というあまり聞き慣れない病名の疾病がある。巣状分節性糸球体硬化症FSGS)は、腎臓の糸球体に異常が生じる病気で、多くは慢性の経過をたどる。

この病気は、腎臓内の毛細血管が球状に集まっている糸球体の一部が硬くなることで、高濃度のタンパク尿や血尿、高血圧、浮腫などが生じると言われている。FSGSは、10年以内に半数を超える患者が腎不全となり、約2割の患者は治療しても2年以内に末期腎臓病になるという報告もあり、厄介な疾病である。生命維持のためには、透析腎臓移植が必要になるということである。

FSGSには、原因の明らかではない一次性(特発性)と、原因の明らかな二次性(続発性)の場合がある。ともに糸球体上皮細胞障害による糸球体障害によって発症すると考えられている。

目次
はじめに
巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)とは

巣状分節性糸球体硬化症FSGSFocal Segmental GlomeruloSclerosis)は、臨床的にはタンパク尿、通常はネフローゼ症候群を呈し、光学顕微鏡下では糸球体に巣状分節性の硬化病変を認め、電子顕微鏡下では広範な糸球体上皮細胞の足突起の消失を呈する臨床病理学的症候群と定義されている。

FSGSは、元々は糸球体病変を呈する疾患の中で、臨床的に高度タンパク尿を伴い、ステロイド治療抵抗性で、徐々に腎機能障害が進展する疾患群のことをいうが、現在では、FSGSの中には組織学的に分節性の糸球体硬化病変を呈さない疾患群も含まれ、また、原因や病態が明らかな二次性のFSGSも加わり、複雑な疾患群により構築されている。

予後は不良である。自然寛解が起こるのは患者の10%未満である。10年以内に半数を超える患者が腎不全となり、20%では治療にもかかわらず2年以内に末期腎臓病を呈する。有意な尿細管間質線維化がある場合には、その可能性がより高くなる。本疾患は成人の方が小児よりも進行が急速である。

一次性FSGSでは腎移植後の再発率が15~55%といわれ、移植後早期から高度タンパク尿がみられ、移植腎機能の廃絶の原因となると言われている。

FSGSは、主に慢性腎臓病(CKD)に分類されるが、病状によっては急性腎障害(AKI)のような症状も示す。


原因

FSGSには、原因の明らかではない一次性(特発性)と、原因の明らかな二次性(続発性)の場合がある。ともに糸球体上皮細胞障害による糸球体障害によって発症すると考えられている。

糸球体上皮細胞障害の原因として、直接的な上皮細胞毒性と血行動態による過剰負荷やストレスが推測されている。一次性の場合には、循環血液中の液性因子の関与が推測されている。二次性の場合には、家族性/遺伝子変異、ウイルス感染、薬剤性、構造的・機能的な適応反応によるものが規定されている。

遺伝子変異としては、多くが糸球体上皮細胞およびスリット隔膜関連タンパクに関連した遺伝子の異常で、糸球体上皮細胞の障害がFSGSに直接関与することを裏づけている。

家族性発症の場合が多いが、孤発性の場合もあり、発症時期も先天性であるため小児期に多いが、成人発症もみられている。

ウイルス感染では、HIV感染者のHIV関連腎症として、またパルボウイルスB19感染により、これらのウイルスは糸球体上皮細胞を標的とし、FSGSが発症することが知られている。

薬剤性として、heroin、interferon-α、lithiumやpamidronateなどが知られている。

また、構造的・機能的なネフロンの脱落後の適応反応により二次性FSGSが発症することが知られている。ネフロン数の減少に伴う糸球体過負荷や過濾過により、糸球体サイズの増大を伴いFSGSを発症すると考えられている。

二次性FSGSの場合は、同じ病態でもFSGSの進展を認めない症例も多く、これらの病態のとらえ方の標準化がなされておらず、FSGSの扱いを複雑にしている。

二次性FSGSは、原因が明らかで、臨床病理学所見が一次性FSGSに類似している場合とするがその基準も明確ではない。


症状

FSGS患者は、一般的に重度のタンパク尿、高血圧、腎機能障害、浮腫、またはその合併を呈する。ときに、ネフローゼレベルには達しない無症候性のタンパク尿が唯一の徴候のことがある。顕微鏡的血尿がときに認められる。

ネフローゼ症候群を呈するFSGSの病態はpodocyte diseaseとも呼ばれ、糸球体上皮細胞障害により発症すると考えられている。障害された糸球体上皮細胞は、epithelial-mesenchymal transition(EMT)を含む細胞形質変化が誘導され細胞外基質との接着分子の発現の低下を伴い係蹄基底膜より剥離し尿中に脱落する。

FSGSでは、尿中に脱落する糸球体上皮細胞が有意に増加していることが示されている。ボウマン嚢腔内には上皮細胞の増生がみられ、この上皮細胞は形質が変化した糸球体上皮細胞なのか、ボウマン嚢上皮細胞なのかが議論されている。

近年、ボウマン嚢上皮細胞の特徴も明らかにされつつあり、糸球体上皮細胞の前駆細胞になっている可能性も含めFSGSへのかかわりが注目されている。現在ではボウマン嚢腔内の増生細胞の多くがボウマン嚢上皮細胞由来であることが支持されてきている。


検査・診断

FSGSの診断は腎生検で行う。腎生検を施行し、可能な場合は免疫染色法および電子顕微鏡を用いる。尿検査を行い,BUN,血清クレアチニン値,および24時間尿タンパク排泄量を測定する。

病変糸球体は皮髄境界部にみられることが多い。非硬化部糸球体は光顕上ほとんど変化が認められないことから、腎生検で採取された腎組織が皮質浅層のみで不十分な場合には見逃される可能性がある。

微小変化型ネフローゼ症候群との鑑別が時に困難である。蛍光抗体法では硬化部に一致してIgMやC3の沈着が認められることがあり、電顕上では足突起の癒合と足細胞の空胞状変性が認められる。 Collapsing variantは治療抵抗性で急速に腎機能が悪化することが多く、cellular variantは移植後再発が多いなど、組織亜型と臨床像との関連が報告されているが、同一患者で亜型が変化することもある。

ネフローゼ症候群、タンパク尿、腎機能障害のいずれかを呈し、顕著な原因が認められない患者、特にFSGSと関連する疾患または薬物使用を有する患者ではFSGSを疑う。

診断は腎生検によって確定され、生検では糸球体に巣状および分節性の硝子化が示され、免疫染色によってしばしばIgMと補体(C3)の沈着が結節状の粗大な顆粒状パターンで示される。

特発性の症例では、電子顕微鏡下でびまん性の足突起の消失を認めるが、続発性の症例では、斑状の足突起消失を認めることがある。全節性硬化が、続発した糸球体萎縮とともに視認できることがある。生検では、巣状の異常領域が採取されなかった場合、偽陰性となることがある。

小児ではMCNS以外が疑われる場合やステロイド抵抗性の場合に、成人では治療前に腎生検が行われ、FSGSの診断がなされる。


治療

FSGSの治療は、一次性と二次性とでは方針が異なる。一次性FSGSは、ネフローゼ症候群を呈することが多く、無治療の場合あるいはステロイド抵抗性の症例では、進行性腎障害の経過をたどり末期腎不全に至る危険が高い。FSGSの治療法はまだ十分に確立された状況にない。

治療はしばしば効果的ではない。FSGS患者は、血管性浮腫または高カリウム血症により禁忌でない限り、アンジオテンシン阻害(ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬)によって治療する。ネフローゼ症候群患者はスタチンで治療する。

ステロイド抵抗例(4~8週間のステロイド治療において完全寛解や不完全寛解1型に至らない例)には、免疫抑制薬(サイクロスポリン、シクロホスファミド、ミゾリビンなど)を追加する。必要に応じ、タンパク尿減少効果と血栓症予防を期待して抗凝固薬や抗血小板薬を併用する。

副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬が長期間投与されることが多いため、副作用には細心の注意が必要である。 二次性の場合は原因や病態が明らかな場合を指すので、その原因や病態への対処が重要である。それぞれの原因や病態によって治療法が異なる。


予防

巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の予防策については、下記のような生活習慣の改善が推奨されている。

  • 健康的な食事
    • 栄養バランスがとれた食事を心がる
  • 塩分制限
    • 塩分過多は高血圧を引き起こし、腎臓に負担をかける
    • 減塩食を摂取する
  • 適度な運動
    • 適度な運動は全身の健康を維持するのに役立つ
  • 禁煙
    • 喫煙は腎臓に大きな負担をかける

あとがき

巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は、腎臓の糸球体に異常が生じる病気であり、生活習慣病には数えられていない。

しかしながら、FSGSの進行や症状の管理には、生活習慣の改善が重要であると言われている。例えば、高血圧、貧血、脂質異常症、糖尿病、肥満などの生活習慣病の治療や、減塩食、禁煙などの生活習慣の改善が推奨されている。これらの生活習慣の改善は、腎機能の低下を防ぎ、FSGSの進行を遅らせる可能性があるとして推奨されている。私たちにできることは生活習慣の改善だけである。


【参考資料】
小児慢性特定疾病情報センターHP
MSDマニュアル・プロフェッショナル版