はじめに
肝星細胞(Hepatic stellate cells; HSC)は、肝臓内のディッセ(Disse)腔(肝実質細胞と類洞内皮細胞の間隙;類洞周囲腔ともいう)に局在する線維芽細胞で、ビタミンAなどレチノイドの貯蔵、恒常性維持の中心的役割を果している。
また、肝星細胞は肝傷害時に活性化され、肝細胞の再生に必要なHGF等のサイトカインを分泌し肝再生を促進する。一方、肝星細胞はコラーゲンやTGF-βを産生して肝臓の線維化にも関与することが知られている。
肝星細胞の役割と機能
レチノイドの貯蔵および恒常性維持
肝星細胞は、ビタミンA貯蔵細胞又は伊藤細胞とも呼ばれ、生体のレチノイド総量の80%をレチニルパルミテート(レチニルパルミチン酸)として貯蔵している。生理学的条件下では、肝星細胞はレチノイド恒常性維持において重要な役割を果たす。その機構は、レチノールに特異的な結合タンパク質であるレチノール結合タンパク質(RBP)に対する特異的な受容体を細胞表面に発現させ、受容体を介したエンドサイトーシスによりレチノールとRBPの複合体を取り込んでいる。
人間は自分自身ではレチノイドを生合成できないので、食物として植物からはβ-カロテンとして,動物からはレチニルエステルとして,レチノイドを取り入 れている。 β-カロテンは小腸上皮細胞によって吸収され,この細胞の中でレ チノールとなる。
一方、 レチニルエステルは小腸腔内で加水分解され、やはりレチノールとなり、小腸上皮細胞によって吸収される。
レチノールは小腸 上皮細胞内で長鎖脂肪酸とエステルをつくり、キロミクロン中に組み込まれる。キロミクロンはレチニルエステルを組み込んだままリンパ管を通って大循 環に入り、毛細血管を失って小型化し、キロミクロンレムナントになる。キロミクロンレムナント-レチニルエステル複合体は血流にのって肝臓に達する。
肝臓に達したキロミクロンレムナント-レチニルエステルは肝実質細胞に取り込まれる。取り込まれたレチニルエステルは細胞膜か、エンドソームにあるレチニルエステルヒドロラーゼによって加水分解されてレチノールになる。このレチノールはリソソームには運ばれず、粗面小胞体に運ばれ、ここでレチノール結合タンパク質と結合してレチノール-RBP複合体となり、ゴルジ体を通って細胞外に分泌される。肝実質細胞から分泌されたレチノール-RBP複合体はパラクリン輸送機構によ って星細胞に移り、ここで貯蔵される。
一部のレチノール-RBP複合体は大循環に入る。こうして日によって摂取するレチノイドの総量には変動があるに もかかわらず、血漿中レチノイド量(レチノールとして2μM)が一定に保たれるのは、消化管でのレチノイドの吸収、肝臓での取り込み・貯蔵、さらには分泌が巧みに制御されているためである。
肝組織の再生への関与
肝星細胞は、正常な肝臓においては非増殖性の静止状態を保持しているが、肝臓が障害を受けた際には活性化し、増殖性、炎症性,そしてコラーゲンを始めとする細胞外マトリックス(ECM)を産生するmyofibroblastに形質転換することで、組織の修復を促す。
肝臓におけるマクロファージは、組織常在型のクッパー細胞と、骨髄の単球由来のマクロファージに大別される。これらのマクロファージが、肝線維化の退縮や進展に重要な役割を果たすことが明らかとなってきている.
マクロファージは、TNF-related apoptosis-inducing ligand(TRAIL)を産生することで、肝星細胞にアポトーシスを誘導し、抗線維化作用を有することも知られている。また MMP12 や MMP13 といったマトリックスメタロプロテアーゼを分泌することにより、ECMを分解し線維化の退縮に重要であることも明らかとなっている。特にマクロファージのなかでもCD11bhi/F4/80intLY6Clow を示すサブポピュレーションは、修復型マクロファージとして、MMPや CX3CR1 を高発現しており、肝線維化の退縮を促進させることが示されていることから、抗線維化の観点からも注目されている。
肝細胞の繊維化への関与
NASHやウイルス性の肝炎(A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎)などにおいて、肝臓の炎症や障害が慢性化した際には、活性化した肝星細胞が過度に肝線維化を惹起することにより、肝実質細胞の形態的な異常である肝硬変へと進展させる。
マクロファージは TGFβ、PDGF、TNF、IL-1β、MCP1、CCL3、CCL5 といった炎症性サイトカインを産生し、直接的に肝星細胞を活性化させる。
肝星細胞は、マクロファージ、さらには類洞内皮細胞、肝実質細胞などからのサイトカインや増殖因子といったシグナルに応答し,ECMを産生し、収縮能、増殖性、炎症促進型といった性質を獲得していく。肝星細胞は肝実質細胞など、肝臓に局在する他の細胞とは異なる特徴的な遺伝子発現のパターンや肝星細胞特異的な分子を発現している。
あとがき
肝星細胞は、要は肝臓に存在する特殊な細胞で、肝臓の健康と機能に重要な役割を果たしている。主な役割と機能を改めてまとめると次のようになる。
- ビタミンAの貯蔵
- ビタミンAを貯蔵する役割を持っている
- ビタミンAは視力や免疫機能、細胞の成長に重要な栄養素
- 肝線維化の調節
- 肝臓が損傷を受けると、肝星細胞は活性化して線維化を引き起こす
- 傷ついた肝臓組織を修復する過程で、過剰な線維化は肝硬変などの病気につながることがあるので要注意
- コラーゲンの生成
- 活性化した肝星細胞はコラーゲンや他の細胞外マトリックスを生成し、肝臓の構造を維持する役割を果たす
- サイトカインの分泌
- 炎症性サイトカインを分泌し、免疫応答や炎症反応を調節する役割を持っている
これらの機能により、肝星細胞は肝臓の健康を維持し、損傷からの回復を助ける重要な役割を果たしていると考えられている。しかしながら、過剰な活性化が肝臓の病気、例えばNASHなどに繋がるため、バランスが重要であるとされる。
【参考資料】
恩地森一;肝臓における免疫応答と疾患;日本消化器病学会雑誌 101 (2004) 146 – 154 |
妹尾春樹、畑隆一郎;星細胞(ビタミンA貯蔵細胞)の細胞生物学;ビタミン 68 (1994) 501–513 |
土田琢磨;非アルコール性脂肪肝炎の治療標的としての肝星細胞の活性化機序;日本薬理学雑誌(Folia Pharmacol. Jpn.)154(2019)203–209 |