はじめに
モダリティ(modality)とは、医薬品の物質的な種別(カテゴリー)を指す。具体的には医薬品としての低分子化合物や抗体医薬、核酸医薬、再生・細胞医薬、遺伝子治療などのことである。
では、新規モダリティ(New modality)は何かと言うと、医薬品業界における定義は、「まだ一般的に使用されていない医薬品」や「使用され始めている新しい医薬品」とされている。
例えば中分子化合物であるペプチド医薬、アンチセンスやsiRNAなどの核酸医薬、mRNA、再生・細胞医薬などが該当する。
製剤技術に携わった経験のある私の目にはモダリティの定義が、「物質」から「手段」に移りつつあるように見える。
従来から研究されてきたDDS(drug delivery system)をさらに発展させ、siRNAやmRNAのキャリアとして実装すれば、それが新規モダリティと呼ばれるようになる。
例えば、研究の歴史が長いリポソームやLipid nanoparticles (LNP)、高分子ミセルなどがsiRNAやmRNAのキャリアとして実装化に向けて研究され、一部は開発されて、市販もされている。
昔から研究され、今なお研究課題として残っている課題として、脳内や膵臓組織への薬物送達(ターゲティング)技術がある。この難しいターゲティングを克服するDDSの実装化も新規モダリティと呼んでよいと私は思う。
このような新規モダリティがどのように医療体制の変革を促すのかを考えることは、私にとって非常に興味深い学びの場となる。
New modalityとは何か?
新規モダリティ(New modality)とは、従来の小分子化合物医薬品や従来型のバイオ医薬品(モノクローナル抗体からなる抗体医薬)などとは異なる、新しい作用機序や製剤技術に基づく治療法や医薬品の総称である。
これまでの治療の枠組みでは十分にアプローチできなかった、難治性疾患や「アンダードラッグ」状態の病態に対して、革新的な手段を提供することを目指している。
革新的な作用機序の採用
従来と異なる標的アプローチ
従来の医薬品は、特定の酵素や受容体を阻害・活性化することで効果を発揮していた。
一方、New modalityは、たとえば遺伝子そのものの編集(CRISPR/Cas9)、RNAを利用した治療(siRNA、mRNA)や、細胞療法(CAR-T細胞療法)など、分子レベルで病態を根本から変える作用機序を採用する。
これにより、従来「ターゲット不可能」とされた分子や経路に対して、直接アプローチが可能となる。
個別化医療との連携
患者ごとの最適化治療
New modalityは、患者の遺伝情報や分子プロファイルに基づいて治療を最適化する個別化医療(パーソナライズドメディシン)と非常に親和性が高い。例えば、mRNAや遺伝子治療によって、患者固有の病態をターゲットとした治療が可能になり、効果の向上や副作用の低減が期待される。
治療の幅と革新性の拡大
未解決の医療ニーズへの対応
New modalityは、従来の治療法では効果が限定的だったがん、希少疾患、神経変性疾患など、多くの分野で革新的な治療の選択肢を提供する可能性がある。
実際、mRNAワクチンや細胞療法のように、最近では急速な研究開発と実用化が進み、その成功事例が医療界に大きなインパクトを与えている。
迅速な研究開発・製造プロセスの変革
従来の医薬品開発は長い時間と高コストが伴ったが、New modalityの多くは、デジタル技術・自動化されたプロセス、ビッグデータ解析を組み合わせることで、より迅速かつ効率的な開発・製造が可能になっている。これにより、医療現場への早期供給や、革新的な治療法の迅速な普及が期待される。
医療体制の大変革への寄与
新たな規制やビジネスモデルの形成
New modalityは、その特性上、従来の医薬品承認制度や製造品質管理の枠組みでは十分に対応できないケースが多いため、規制当局や医療機器・医薬品産業全体で新たな評価基準やビジネスモデルの整備が求められている。
これにより、医療体制全体が再編され、より柔軟で迅速な対応が可能なシステムへと変革していくと考えられる。
患者中心の多層的アプローチの実現
New modalityは、治療効果を個々の患者に合わせて最適化するだけでなく、治療のタイミングや投与経路、さらには治療後の経過管理までデジタル技術と連携して行うことで、従来の一律型治療から多層的かつダイナミックな医療へと進化する基盤となる。
あとがき
New modalityは、従来の薬理学的手法に加え、遺伝子、細胞、RNAなどを用いた革新的な治療手段を提供することで、医療の根本的なパラダイムシフトを促している。
これにより、医療体制は従来の一律型から、個別化、迅速対応、そして全体最適が実現される新たなモデルへと変革していくことが期待される。
今後、薬事規制の整備、製造・品質管理技術の進化、そしてデジタルヘルスとの融合により、これらのNew modalityが実際の臨床の場で広く利用される時代がすぐそこまで来ていると言えるだろう。