はじめに
繊維筋痛症という病名は、私にはあまりなじみのないものであったが、日本には約200万人もの患者がいると言われている。有病率にすると約1.7%であるから結構高いと思う。しかもこの病気の原因がよく分かっていないらしく、しかも治療法も対症療法だけであり、根治療法はないというから厄介である。
繊維筋痛症とは
繊維筋痛症とは、全身の広い範囲に感じる慢性的な痛みと特定の部位に感じる圧痛が主な症状の一つで、疲労感、こわばり、頭痛、しびれ、不眠、不安感、抑うつなど、さまざまな症状が見られる。
原因
繊維筋痛症の原因については、はっきりとは分かっていない。
しかしながら、思春期に受けた虐待やトラブル、手術や事故などによる外傷、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などが発症や増悪のきっかけになることが分かっている。
症状
繊維筋痛症の主な症状としては、下記のようなものが知られている。
- 全身的な痛み
- 全身の広い範囲、または一部に強い痛みが生じる
- 痛みが起こる箇所は、肩、背中、腰、おしり、足、首、あご、腕など
- 痛みの感じ方は患者によって異なる
- 激しい痛みを感じる患者が多い
- 血管のなかをガラスが流れるような痛み
- 電気が通るような痛み
- 鈍痛を訴える患者もいる
- 筋肉や関節のこわばり
- 筋肉や関節がこわばり、体を動かしにくく感じる
- こわばりの症状は関節リウマチと似ている
- 関節リウマチと違って関節の腫れや変形はない
- その他の症状
- 疲労感、睡眠障害、うつ状態などを伴うことがある
- 痛みに伴って疲労感が生じると、日常生活に支障をきたす
- 痛みや痛みによる不安から睡眠障害に陥ったりする
- うつ状態となったりする場合がある
これらの症状は、患者自身も周囲の者もこの病気を理解しにくいことがある。具体的な症状やその程度は、患者により異なるため理解や判断が遅れる傾向にある。症状が気付いたら場合には、早めに医師(内科又は診療内科)に相談することが推奨される。
検査・診断
診断は、米国リウマチ学会 (ACR) の「繊維筋痛症分類基準」 (1990 年) や「繊維筋痛症診断予備基準」 (2010 年) が用いられるようだ。
全身の18カ所にある「圧痛点」と呼ばれる部分に、約4kg程度の圧力を加え、痛みを感じるかどうかを検査する。その結果、11カ所以上で痛みを感じ、それが3カ月以上続く場合、繊維筋痛症が疑われるという。
治療
繊維筋痛症の治療は、痛みを軽減し、心身の状態や日常生活の質を改善することを目指すものであり、対症療法である。その治療方法は、薬物療法と非薬物療法の2つに大別される。
薬物療法:
- 抗うつ薬
- 痛みを和らげる効果がある
- 神経障害性疼痛治療薬
- プレガバリン(リリカ®)などの治療薬を使用
- 痛みを和らげる効果がある
非薬物療法:
- 有酸素運動
- 適度な運動は痛みを軽減し、体調を改善する効果がある
- 認知行動療法
- 心理的なアプローチで、痛みの感じ方や対処法を学ぶ
予防
繊維筋痛症は原因が不明であるため、確立された予防法はない。しかしながら、精神的や肉体的なストレスが症状をさらに悪化させることは明らかである。したがって、規則正しく穏やかな生活を営み、睡眠をとる環境を整備し、適切な運動を毎日行なうことなどが重症化の予防のために重要であると考えられている。また、周囲の理解を得ることも不可欠であると言える。
あとがき
繊維筋痛症は、慢性的な疾患であり、痛みを伝える神経が敏感になることで起こると考えられているが、詳しい発症原因も痛みのメカニズムは分かっていない。
また、痛みの他に頭痛、しびれ、めまい、抑うつ、動悸、呼吸困難感など様々な症状を伴うので、これらの症状の管理と改善にはさまざまなアプローチが必要とされている。
現在の医療技術では、繊維筋痛症の治療は対症療法に留まっており、まだ根治療法が見つかっていない。つまり、繊維筋痛症の治療にはまだ課題が存在している。
したがって、繊維筋痛症はUnmet Medical Needsの対象疾患と言えるだろう。繊維筋痛症に対する新たな治療法の開発は、医療の未来にとって重要な研究課題となっているはずである。