はじめに
帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-zoster virus, VZV)によって引き起こされる感染症である。このウイルスは、初感染では水痘を引き起こし、その後は体内の神経節に潜伏するらしい。
帯状疱疹は、通常、人から人へは直接的に感染しないと言われている。しかし、帯状疱疹の患者が発疹を持っているとき、その発疹からウイルスが排出され、水痘に感染したことがない人に接触感染する可能性がある。また、播種性帯状疱疹は空中に浮遊する可能性があるため、要注意である。
日本での帯状疱疹の有病率(発症率)は、50歳代から上昇すると言われている。80歳までに3人に1人が帯状疱疹を経験すると推定されている。つまりシニア世代は要注意の感染症である。
帯状疱疹とは
帯状疱疹(herpes zoster)は、水痘帯状疱疹ウイルス (varicella zoster virus;VZV ) が後根神経節で潜伏状態から再活性化される際に生じる感染症である。
症状は通常、侵された皮膚分節に沿った疼痛から始まり、その後小水疱が2~3日以内に生じる。
治療は皮膚病変発現後72時間以内に抗ウイルス薬を投与する。
通常は生涯に一度しかかからず、日本では6~7人に1人がかかるものと推定されている。高齢者がかかることが多い疾患であるため、高齢化社会が進めば、帯状疱疹患者数はさらに増えると推測される。
原因
初めての感染で水ぼうそうを発症した後、帯状疱疹ウィルスは知覚神経に沿って、顔面の三叉神経や脊髄の神経、坐骨神経などの神経細胞に残る。長い間、症状が無いまま過ぎるが、体の免疫能の低下をきっかけにして、潜伏していた帯状疱疹ウィルスが活性化する。
きっかけとしては、加齢、疲労、ストレス、悪性腫瘍、重症な感染症、放射線や紫外線への曝露、免疫抑制剤や抗がん剤を使用した場合などがあげらる。活性化した帯状疱疹ウィルスは神経を伝わって皮膚へ出てきて、皮膚でウィルス粒子が増殖し、水疱を発生する。
症状
刺すような疼痛、知覚異常を伴う疼痛、またはその他の疼痛が病変部で発生し、その後2~3日以内に発疹が現れるが、通常は紅斑上に小水疱の集簇がみられる。
病変部は通常、胸部または腰部の1つまたは複数の隣接する皮膚分節であるが、少数の衛星病変がみられることもある。病変部は典型的には片側性である。病変部位は通常、知覚過敏を伴い、疼痛は重度となることがある。病変の形成は通常3~5日間ほど続く。
帯状疱疹の症状には、皮膚と粘膜の症状と、神経痛がある。皮疹がでる前に、しばしば神経痛あるいは知覚の異常が、数日から1週間続く。これは片側の神経分布領域に一致して起こる。その後同部に少し膨らんだ紅斑があらわれ、その中に小さな水疱がでる。
発生する場所は、胸やお腹、背中など(肋間神経領域)が最も多く、ついで顔(三叉神経領域)に多いが、全身のいずれの場所にも発症する。
皮膚症状 |
皮疹は一定の末梢神経の走る方向に沿って、体では中心を境に半周し、腕や足では長軸に沿って、片側だけに現れる。水疱は2~3日で膿を持ったり、血を含んだりする。その後4~5日目で破れてびらんになる。発症後1週間までは水疱は増えるが、2週間前後でかさぶたになり、3週間後にはかさぶたがとれて治る。水疱が大きい場合や深い場合は、潰瘍になることもある。これらは色素沈着や瘢痕を残すが、やがて目立たなくなる。顔に発症すると周囲にむくみが出ることがある。眼の周囲の帯状疱疹では眼にも炎症を起こしやすく、ひどい場合には視力障害を残すこともあるので注意が必要。多くの例では近傍のリンパ節が痛みを伴って腫れる。 |
神経痛 |
皮疹の部分に一致した神経痛がでる。軽いものから、強い痛みで眠れなくなる程ひどい場合まで様々である。ピリピリと焼けるような痛み、針を刺されるような痛み、締め付けられるような痛み、ものが張り付いたような感じと様々に表現される。痛いときは冷やすとより痛むので、温めると良い。痛みに消長はあるが持続性が高く、この部分に衣服が触れると不快感が強く、痛みも誘発される。これらの症状は忙しいときに軽くなるが、夕方や就寝後に増してくることが多い。多くは皮疹の改善とともに神経痛もよくなるが、持続する場合もある。重症の時は運動麻痺を伴い、まぶたや腕や足、腹筋などが動きにくくなる。腹部の神経の場合は便が出にくくなり、陰部の神経の場合は尿や便が出にくくなることもある。 |
帯状疱疹後神経痛 |
皮疹が消えてから3ヶ月以上たっても頑固な神経痛が残る場合がある。これは帯状疱疹ウィルスに感染した神経が支配する皮膚領域に起こる慢性的な痛みで、数ヶ月から数年にわたってしつこく続く場合がある。帯状疱疹による炎症が原因で神経が傷つき、結果として神経痛が残ると考えられている。帯状疱疹後神経痛は主に高齢者に多く、ほとんどの場合、痛みは1~3ヶ月で治まるが、10~20%のケースで1年以上、まれに10年以上続くこともある。 |
汎発性帯状疱疹 |
通常の帯状疱疹とともに、全身に水疱がでる。免疫不全状態にある高齢患者や、免疫抑制剤を使用している場合、悪性腫瘍を持つ症例などに起こる。皮膚のウィルスが血管内皮細胞内で増殖し、ウィルス血症を起こしたためである。汎発疹の患者の約10%は肺や肝臓、脳にも波及する。水ぼうそうと同じぐらい感染力が高い。 |
ラムゼイ・ハント症候群 (膝神経節帯状疱疹) |
膝神経節(顔面神経膝状部)が侵されることに起因する。耳痛(耳の発疹)と顔面神経麻痺(顔面神経が侵され顔面の麻痺)のほか、ときに回転性めまいが生じる。小水疱性の発疹が外耳道に生じ、舌の前側3分の2で味覚が失われる(味覚障害)ことがある。 |
検査・診断
症状の経過観察や皮疹の様子、神経痛などにより診断する。症状が軽い場合も、血液検査で帯状疱疹ウィルス抗体価の上昇を確認できれば、診断できる。
治療
抗ウイルス薬(アシクロビル、ファムシクロビル、バラシクロビル、 ビタラビン )は有益である(特に易感染性患者)。できるだけ早期に抗ウィルス剤の点滴または内服を行う。
神経痛に対しては、鎮痛剤、ビタミンB12、抗うつ薬や抗けいれん薬を内服したり、神経ブロックを行う。鎮痛剤としては非ステロイド性抗炎症薬やアセトアミノフェンを使用するが、麻薬系鎮痛剤が必要になることもある。
帯状疱疹後神経痛は、非ステロイド性抗炎症薬といった一般的な鎮痛薬が効きにくくなるため、神経痛に効果があるといわれている、抗うつ薬(ノリトリプチリン/ノリトレンTM)、アミトリプチリン/トリプタノールTM、デュロキセチン/サインバルタTMなど)や抗けいれん薬(プレガバリン/リリカTM)や、ガバペンチン(ガバペンTM)などを主として使用する。
また、カプサイシン軟膏やリドカイン軟膏の外用も効果がある。原因となった部位の神経ブロックや交感神経節ブロックが効果的な場合もある。
予防
帯状疱疹の感染予防対策としては、下記のような方法が知られている。これらの予防策は、帯状疱疹だけでなく、他の感染症の予防にも有効であるため、その実践が推奨されている。
- ワクチン接種
- 最も効果的な方法は帯状疱疹ワクチンの接種
- 特に50歳以上の人にワクチン接種が推奨される
- 健康的な生活習慣
- 免疫力を維持するため
- 栄養バランスの良い食事
- 適度な運動
- 十分な睡眠
- 感染制御
- 帯状疱疹の症状が出ている場合、患部を被覆する
- 他人への感染を防ぐことができる
あとがき
帯状疱疹は、数百年以上前から知られていた感染症であるが、水痘と帯状疱疹が同じウイルスによる感染症であることが確認されたのは、1950年代のことであると言われている。
20世紀の医療技術・科学の進歩によって、帯状疱疹が水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-zoster virus, VZV)によって引き起こされること、そしてこのウイルスが初感染では水痘を引き起こし、その後体内の神経節に潜伏することが明らかになった。
さらに、病原体ウイルスの構造や生物学的性質、感染のメカニズムなどが徐々に解明された。その結果、現在では帯状疱疹の予防にはワクチンが、治療には抗ウイルス薬が開発されている。医療技術の進歩に感謝したい。
【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト |
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版 |