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New modality レギュラトリーサイエンス

核酸医薬品の研究開発における国内外での現状と展望

はじめに

核酸医薬品は、従来の低分子医薬や抗体医薬とは一線を画す新たな治療アプローチとして、国内外で大きな注目を集めている。

本稿では、核酸医薬品の研究開発における国内外での現状と今後の展望について取り上げてみたい。

目次
はじめに
核酸医薬品開発の海外での動向
mRNAワクチンの成功と応用の拡大
RNAiおよびアンチセンスオリゴヌクレオチド
CRISPR/Casなどの遺伝子編集技術の進展
ドラッグデリバリーシステム(DDS)の改善
核酸医薬品開発の国内での動向
研究基盤の強化と官民連携
日本独自の技術革新
核酸医薬品開発の今後の展望と課題
より多くの疾患領域への展開
技術的課題の克服
規制と市場環境の整備
あとがき

核酸医薬品開発の海外での動向

mRNAワクチンの成功と応用の拡大

新型コロナウイルス感染症に対するmRNAワクチン(例えば、Moderna社やBioNTech/Pfizer社の製品)の開発成功は、核酸医薬品分野における最も象徴的なブレークスルーであると言われている。

この成功により、mRNA技術は感染症予防だけでなく、がん免疫療法や希少疾患の治療、さらにはタンパク質補充療法など、多彩な疾患領域への応用が急速に進められている。


RNAiおよびアンチセンスオリゴヌクレオチド

RNA干渉(RNAi)技術は、細胞内の特定の遺伝子発現を抑制することで、従来の薬剤では対処が難しかった疾患の治療法として開発が進んでいる。

また、アンチセンスオリゴヌクレオチドは遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)に直接結合して翻訳を妨げることで、遺伝性疾患や神経変性疾患の新たな治療戦略として注目されている。


CRISPR/Casなどの遺伝子編集技術の進展

近年、CRISPR/Casシステムをはじめとする遺伝子編集技術が急速に発展し、核酸医薬品の応用範囲はさらに拡大している。

これらの技術は、単に遺伝子発現を調整するだけでなく、疾患原因となる遺伝子そのものを直接修正する可能性を秘めており、個別化医療や難治性疾患へのアプローチとして期待されている。


ドラッグデリバリーシステム(DDS)の改善

核酸医薬品の効果的な臨床応用には、安定的なDDSが不可欠である。リピッドナノ粒子(LNP)をはじめとするキャリア技術の革新により、細胞への取り込み効率や組織特異性が向上し、安全性と有効性が大きく改善されている。


核酸医薬品開発の国内での動向

研究基盤の強化と官民連携

日本国内でも基礎生物学・分子生物学の分野で培われた研究基盤を背景に、核酸医薬品への関心が年々高まっている。

大学、研究機関、大手製薬企業、そしてスタートアップ間での官民連携が進み、新規のアンチセンス技術やsiRNA、mRNA治療の研究が活発に行われている。

各種助成事業や規制当局の柔軟な対応が、臨床試験や製品の早期承認を促進しており、この点は海外動向とも連動している。


日本独自の技術革新

日本の研究機関では、核酸の化学修飾や新規デリバリーシステムの開発に注力しており、例えば、細胞特異的に核酸を標的部位へ運ぶシステムや、長期安定性を持たせるための改変技術が検討されている。

また、希少疾患や遺伝性疾患に対する核酸医薬品の適用例も増えており、国内発の製品が国際競争力を持つ可能性も期待される。


核酸医薬品開発の今後の展望と課題

より多くの疾患領域への展開

mRNAワクチンの成功を皮切りに、今後はがん、自己免疫疾患、神経変性疾患、さらには遺伝性疾患など、従来治療が難しかった分野に対しても、核酸医薬品の応用が広がっていくと予測される。

また、個々の患者に合わせた個別化医療の実現も、核酸技術が持つ柔軟性の一つとして期待されている。

技術的課題の克服

一方で、核酸医薬品の実用化には依然として多くの技術的課題が残こされている。代表的な技術的課題は、体内環境での分解防止、正確なターゲティング、免疫応答の最適化などである。

これらの技術的課題に対して、化学修飾技術、最新のDDS、さらにAIや機械学習を活用した分子設計など、さまざまな技術革新が進展している。

規制と市場環境の整備

急速に発展する核酸医薬品分野に対応すべく、国内外の規制当局も柔軟な審査体制や支援策を整備し始めている。これにより、臨床試験や市場投入のプロセスが加速し、患者が新たな治療恩恵をより早期に受けられる環境が整いつつあると言える。


あとがき

核酸医薬医薬品の国内外での研究開発は、今後さらなる技術革新と臨床応用の拡大によって、医療のパラダイムシフトを引き起こす可能性を秘めている。

例えば、mRNAをベースとしたがん免疫療法や、CRISPR/Casシステムを組み合わせた遺伝子編集治療の実用化は、今後の治療戦略に新たな選択肢を提供すると期待される。

また、国際的な共同研究やデータ共有が進むことで、技術の標準化とグローバルな規制調和が進展し、より多くの患者に安全かつ効果的な治療が提供される未来が見えてくる。

さらに、近年のCOVID-19パンデミックは、核酸医薬品の迅速な研究開発と実用化のモデルケースを示した。これからも、国際的な協調体制や革新的な技術の融合により、核酸医薬品の分野は、医療の革新を牽引する主要な役割を果たすと予想される。


【参考資料】

核酸医薬品の開発動向と規制整備の現状
創薬に関する研究開発動向と今後の展望
バイオ政策の現状と今後の方向性について
新薬における創薬モダリティのトレンド
令和2年度 特許出願技術動向調査 結果概要 中分子医薬
医薬品・再生医療・細胞治療・遺伝子治療関連の産業化に向けた課題及び課題解決に必要な取組みに関する調査
医薬品関連の産業化に向けた課題及び課題解決に必要な取組みに関する調査
国内外の感染症治療薬開発動向等調査
創薬化学の側面から見た低分子医薬の将来像―低分子から中分子への広がり
Phase3段階にある開発品のグローバル動向と開発ラグの分析
世界と日本の創薬の現状
ペプチド医薬品および核酸医薬品CDMO業界の現状と展望
ペプチド創薬市場規模・シェア分析 – 産業調査レポート – 成長動向
日本医療研究開発機構 医薬品等規制調和・評価研究事業事後評価報告書
バイオCMO/CDMOの強化について
中分子ペプチド医薬品の開発効率化に資するレギュラトリーサイエンス研究
新規創薬モダリティに関する国内外研究開発の現状調査とAMEDの支援体制に関する考察
バイオ医薬品製造技術の現状と課題
企業的観点から見たDDS技術の将来展望
CDMOグローバル環境および主要プレーヤー動向概観
拡大する創薬スタートアップの役割とエコシステム間連携
次世代型医薬品に活用できるαーアミノ酸の合成方法開発に成功!―中分子ペプチド医薬品の基盤技術としての活用に期待―

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