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核酸医薬

まずは「核酸医薬」について学ぼう!

核酸医薬への期待

核酸医薬は、mRNAやmiRNAなどの標的分子を創薬ターゲットにすることが可能で、 低分子医薬品と抗体医薬品の利点を併せ持つ。 また、一度プラットフォームが完成すれば短時間で開発可能で、抗体医薬品に続く「次世代分子標的薬」として期待されているものである。


核酸医薬品の定義

核酸あるいは修飾型核酸が直鎖状に結合したオリゴ核酸を薬効本体とし、タンパク質発現を介さず直接生体に作用するもので、化学合成により製造される医薬品を指す。


核酸医薬品の特徴

核酸は全ての生物の細胞内に存在し、タンパク質の合成や生物の遺伝現象に関与している物質で、ヌクレオチド(塩基+糖+リン酸のつながった物質)が長く鎖状に結合したものである。

核酸には、リボ核酸(RNA)とデオキシリボ核酸(DNA)の2種類がある。RNAには糖のOH基があるが、DNAにはOHのOがとれた(デオキシされた)Hがついている。反応しやすいOH基がないため安定である。DNAは細胞核の染色体に局在し、遺伝情報を保管する遺伝子の本体である。RNAはそのヌクレオチド配列に従ってタンパク質を産生し、遺伝情報を特定の形質や機能として発現するための担い手である。

核酸医薬品の特徴は、ヌクレオチドを基本骨格とし、遺伝子発現を介さずに直接生体に作用することであり、化学合成により製造されることである。

核酸は化学的性質を有するので、核酸に多彩な機能を持たせることができる。一方で、核酸は似たようなユニットのつながりで成り立っているため核酸医薬は安定して大量合成が可能である。核酸医薬ならば、材料を用意して、同じような反応を何回か繰り返すだけで、目的の核酸医薬を得ることができる。

また、核酸医薬品は化学合成できるからこそ、人工の改変核酸をはじめ自然にあったものを改良して不可能を可能に変える化学の立場から貢献できる場面がたくさんある。しかしながら、そのままのRNAやDNAには問題点が多く、化学修飾をしない天然のままのかたちでは医薬品とすることはできない。


遺伝子治療との違い

遺伝子治療では、細胞に導入したDNAの塩基配列が、やがてアミノ酸配列に変換されタンパク質を作ることで効果を発揮する。細胞にDNAを導入するために、細胞への感染性が高く染色体への遺伝子組み込み能力が高いといった特性を活かしてウイルスをDNAのベクター(運び屋)とすることが多い。

ウイルスは単独では増殖できないが、細胞の代謝系を利用して増殖する。病原体として知られているが、遺伝的に改変し病原性を無くして治療に活用している。遺伝子治療薬の特徴は、細胞核の中にあるゲノムDNAの配列を書き換えること、つまり遺伝子発現を介して作用することであり、生物学的に製造される。

これに対し核酸医薬品は核酸そのものが機能するもので、遺伝子治療のように細胞に導入したDNAの配列をアミノ酸配列に置き換えることはなく、タンパク質への翻訳を介して作用発現するものではない。また遺伝子治療薬は鶏卵なり培養細胞なりを用意して生物学的につくられるが、核酸医薬品は化学合成でつくらる。


核酸医薬品の分類

アンチセンスantisense)は、13~25残基程度のオリゴヌクレオチドである。細胞内で標的mRNAと二重鎖を形成し、翻訳過程を阻害してタンパクの発現を抑制する。

生体内に存在するセンス方向のRNAに対合するアンチセンス方向のRNAを外部から人為的に導入し、生体内で機能を発揮すると考えられるセンス方向のRNAの機能を阻害することで、目的の遺伝子発現を制御することにより、医薬品としての効果を期待したものである。

siRNA (small interfering RNA)は、19~21塩基長の二本鎖RNAである。細胞質でmRNAの分解を誘導する。細胞レベルでの有効性は極めて高いが、利用にはDDS技術が必要である。

短い2本鎖RNAは細胞内に入ると、アルゴノートという特別なRNA分解酵素と結びついて、RISC(RNA Included Silencing Complex)という複合体を作って、相補的な配列を持つmRNAを切断する。これは本来、ウイルスRNAを切り刻んだり、自分の遺伝子発現量を抑制したりするための「RNA干渉」と言われる仕組みで、siRNAはこのRNA干渉の原理を応用してタンパク質の発現を抑制する。

miRNA (micro RNA)は、元来生体に備わっている一本鎖RNA機構として存在する。siRNAは人工的に調製した二本鎖RNAを用いて遺伝子発現制御を行なうが、miRNAは元来生体に備わっている同様の機構を用いて遺伝子発現制御を行う。

anti-miRNAは、miRNAに相補的なオリゴヌクレオチドである。

デコイ核酸は二本鎖DNAである。デコイ核酸の標的は、転写因子(transcription factor; TF)と呼ばれるタンパク質である。転写因子として機能するNF-κBタンパク質が認識するDNA配列をもとに設計されたデコイ核酸の研究が進んでいる。

アプタマー(aptamer)は、特定の物質と特異的・選択的に結合するので分子標的治療薬と成り得える。疾患の原因となる細胞やウイルスなどに結合して生理活性を阻害することで、副作用の少ないすぐれた薬効を示す。アプタマーの特徴は、標的とするタンパク質の形状にフィットする立体構造を形成してその活性を調節すること(=形状捕捉)である。RNAは、生物の体内ではDNA上の遺伝情報の配列のコピーとしてタンパク質の合成の鋳型となるが、それ以外に「様々な立体構造を形成する」という重要な特性を有している。この造形力を利用して、標的となるタンパク質に結合してその働きを阻害あるいは調節できるRNA分子(アプタマー)を創製し、医薬品として開発したものがアプタマー医薬である。アンチセンスやsiRNAなどの核酸医薬は細胞内に入らなければ効果を発揮しないが、アプタマーは細胞内に導入する必要がない。