はじめに
グローバル化が進む医薬品開発の現場では、海外で製造された治験薬を日本国内の臨床試験で使用するケースが増えている。しかし、その際には日本独自の薬事規制を正しく理解し、対応することが不可欠である。
本稿では、薬機法やPMDAのガイドラインを踏まえ、必要な手続きや留意点を分かりやすく簡潔に解説してみたいと思う。
1. 治験薬の輸入に必要な薬事手続き
海外で製造された治験薬を日本に持ち込むには、まず「治験計画届出書」の提出が前提となる。これがPMDA(医薬品医療機器総合機構)に受理されていないと、輸入は認められない。
さらに、輸入時には以下のような書類が必要となる。
✅ 主な提出書類
- 治験計画届出書
- PMDAに先に提出し、受理されることが前提条件!
- 輸入確認申請書
- 輸入時に必要な書類
- 治験薬の品質に関する資料
- 治験薬概要書
- GMP適合性証明資料
- 表示内容の確認資料
- 治験薬ラベル案(日本語表示)
これらの提出書類は、治験薬が臨床試験用であることを明確にした上で、品質や安全性が確保されていることを証明するために必要なものである。
2. 治験薬の表示及び品質管理の義務
日本では、治験薬に対して日本語での適切な表示が義務付けられている。表示すべき内容は以下のような事項である:
- 治験薬である旨(例:「治験薬」)
- 使用目的(例:「治験用」)
- 製造番号
- 有効期限
- 治験依頼者名
また、治験依頼者(スポンサー)は、輸入後の保管・管理体制についても責任を負う必要がある。温度管理や保管記録の整備、トレーサビリティの確保など、GMP(適正製造基準)に準じた対応が求められる。
3. 日本人データの取り扱いと国際共同治験の留意点
海外で実施された臨床試験のデータを日本での承認申請に活用するには、「日本人における有効性・安全性の妥当性」を示す必要がある。特に希少疾患などで日本人の症例が少ない場合は、個別の医学的情報をもとに慎重な評価が行われる。
国際共同治験に参加する場合でも、日本人症例の組み入れや、全体集団との一貫性・類似性の評価が重要なポイントになる。
📘 厚労省通知のポイント(令和6年10月23日発出)
- 国際共同治験において、日本人症例数が少ない場合でも、全体集団との一貫性・類似性を評価する必要あり
- 希少疾患などで日本人症例が極めて少ない場合は、個別症例の医学的情報から妥当性を検討
- 日本が共同治験に参加できなかった場合は、国内試験の実施が原則
評価の視点
| 評価項目 | 内容 |
|---|---|
| 一貫性 | 日本人と外国人の反応が類似しているか |
| 類似性 | 有効性・安全性の傾向が一致しているか |
| 医学的妥当性 | 個別症例の医学的背景からの判断 |
4. 治験国内管理人(ICCC)の役割
海外依頼者が日本で治験を実施する場合、「治験国内管理人」の設置が義務付けられている。この管理人は、薬機法やJ-GCPに基づき、以下の業務を担う:
- 治験届出の代行
- 安全性情報のPMDA報告
- 治験薬の表示・保管管理
- 文書保管・監査対応
あとがき
薬事対応は成功のカギである!早めの準備と薬事専門家との連携が、グローバル治験成功の第一歩と言える。
海外製造の治験薬を日本で使用するには、薬事規制への深い理解と、適切な手続きが不可欠である。特に、輸入手続きや表示、品質管理、日本人データの取り扱いなど、細かな要件が多いため、早めに薬事専門家と連携して準備を進めることが成功への近道となるだろう。
PMDAとの連携、表示と品質管理、日本人データの評価など、細かな要件をクリアすることで、円滑な臨床試験の実施が可能になるはずである。
グローバルな治験の流れに乗りつつ、日本の規制もきちんと押さえて、安全でスムーズな臨床試験を実現して頂きたい。
【参考資料】
| 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 | e-Gov 法令検索 |
| 令和7年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)等の一部改正について|厚生労働省 |
| 臨床試験(治験を含む)に用いるために輸入する場合 |
| 薬機法等制度改正に関するとりまとめ |
| 【2025年最新】薬機法とは?基本から改正まで完全解説 | 薬事情報ナビ |