はじめに
2025年9月3日付でPMDAより発出された通知「医薬品の製造販売承認申請書における フィルムコーティング用プレミックス添加剤に係る記載について」は、製剤設計の合理化が進む中で、プレミックス型コーティング剤の使用に関する医薬品製造販売承認申請書への記載方法の明確化を目的としている。本記事では、この最新通知の要点を踏まえて、CTD作成時の実務対応について解説してみたいと思う。
プレミックス添加剤とは?
プレミックス型コーティング剤とは、例えば、以下のような複数の成分をあらかじめ均一に混合した製品を指す。
- 主成分(例:ヒプロメロース、ポリビニルアルコール)
- 可塑剤(例:ポリエチレングリコール)
- 着色剤(例:酸化チタン、三二酸化鉄などの鉄酸化物)
- 滑沢剤/付着防止剤(例:タルク)
- その他(例:界面活性剤、安定化剤)
これらが製剤の製造工程(コーティング液の調製工程)において「一括投入」されるため、製造の簡略化と品質の再現性が向上する。
通知の背景と目的
近年、複数の添加剤を予め混合した、いわゆる「プレミックス型フィルムコーティング剤」の使用が益々増加傾向にある。かつて私が勤めていた製薬会社でも特別な場合を除き、フィルムコーティング錠の製造にはフィルムコーティング剤としてプレミックスを使用するのが通例であった。
プレミックス型フィルムコーティング剤の使用が増加している背景には、製造効率・品質管理・薬事対応の三位一体のメリットが存在する。その主な理由を整理すれば、以下のようになるかも知れない。
- 製造工程の簡略化と効率化
- 各成分を個別に秤量・混合する必要がない
- 一括投入が可能なため製造時間の短縮
- 秤量時の人的ミスの削減
- 設備稼働率の向上に寄与
- 特に多品種少量生産の現場では製造効率と柔軟性が高まる
- 品質の均一性と再現性の向上
- プレミックスは製造業者(原料メーカー)によって均一に混合・品質管理されており、ロット間のばらつきが少ない
- 粒度分布や分散性が最適化されており、コーティング膜の品質の均一性が確保されやすい
- 原料調達と在庫管理の最適化
- 複数の添加剤を個別に管理する必要がなく、在庫管理が簡素化できる
- サプライチェーンの安定化とコスト削減にもつながる
- 製剤設計の柔軟性
- プレミックス製品には、可塑剤・着色剤・滑沢剤などが最適な比率で配合されており、目的に応じた製剤設計が容易
- 特定の溶媒系(例:水系、エタノール系)に対応した製品もあり、製品設計の選択肢が広がる
- 薬事申請・規制対応の合理化
- 海外の規制当局(FDAやEMA)は早くからプレミックス製品の使用を認めており、海外での申請に障害は全くない
- 最近のPMDA通知により、構成成分の明示と規格提示が標準化され、申請者側の対応が明確になった
このような理由もあり、プレミックス型フィルムコーティング剤の使用が増加傾向にあるのは疑う余地がない。それに伴い、承認申請書における記載のばらつきや、各使用成分の特定・規格の妥当性に関する照会が多発していたと推察される。この薬事申請・規制対応の合理化の観点から、PMDAは以下の目的で通知を発出したと思われる。
- プレミックス製品の構成成分の透明性確保
- 添加剤の品質・安全性評価の一貫性向上
- 承認審査における照会事項の削減
プレミックス型コーティング剤の記載要点
1. 組成(CTD Module 3.2.P.1)
- プレミックス製品を「一つの添加剤」として記載するのではなく、構成成分ごとに名称・含量・役割を明確に記載する
- プレミックスの製品名のみで済ませるのは不適切
- 各成分の名称・役割・含量比/配合比(割合)を明記
- 製品名(商標名)を併記する場合は、参考情報として括弧書きで記載する
例:ヒプロメロース(METOLOSE® SR)、酸化チタン、タルク、ポリエチレングリコール4000
2. 規格・試験方法(CTD Module 3.2.P.4)
- プレミックス製品の一括規格ではなく(規格書を添付するだけでなく)、構成成分ごとの規格と試験方法を提示する
- 製造業者から提供された資料を基に申請者自身が評価する
- 製造業者が提供する規格書を活用する場合でも、申請者が妥当性を評価した根拠資料を添付する
- 製造業者から提供される一括規格がある場合でも、ICH Q6Aに準拠した個別規格の妥当性評価が求められる
3. 製造工程(CTD Module 3.2.P.3)
- プレミックス製品の投入工程は「一括投入」として記載可能
- ただし、混合均一性・分散性の管理指標(例:粒度分布、分散性)を試験結果で示すことで工程の妥当性を補強する
4. 安定性(CTD Module 3.2.P.8)
- プレミックス製品の安定性データがある場合は、製剤への影響評価とともに提出する
- 着色剤や可塑剤の分解・変色リスクに関する情報は、加速試験や長期保存試験の結果を活用する
実務者への助言
- 早期の情報収集・製造業者との連携強化
- プレミックス製品の構成情報・規格・安定性データは、製造業者との連携で早期に取得する
- 文献・安全性情報の収集
- 各成分の薬理学的・毒性学的情報を整理し、必要に応じて「添加剤の安全性評価書」に反映
- 照会事項への備えとして資料整備
- 構成成分の安全性評価、規格妥当性、工程管理指標などを事前に整理しておく
- PMDAから「プレミックスの成分構成と規格の妥当性」に関する照会が入る可能性があるため、事前にQ&A集を整備しておくと安心である
- 社内教育・文書整備の強化
- 通知内容を踏まえた社内ガイドラインやCTD記載テンプレートの更新を推奨
あとがき
医薬品の製剤設計において、フィルムコーティングは安定性・識別性・服用性の向上など多くの利点をもたらす。近年では、複数の添加剤をあらかじめ混合した「プレミックス型コーティング剤」の使用が一般化しており、製造効率や品質の均一性の観点からも注目されている。つまり、フィルムコーティング用プレミックス添加剤は、製剤設計と製造工程の合理化に貢献している。
しかし、その一方で、NDA申請のためのCTD作成においては、プレミックス添加剤の記載方法に注意が必要である。特に、日本でのNDA申請のためのCTD記載においては構成成分の明示、規格の妥当性、安定性の裏付けが不可欠である。薬事申請の成功には、製造業者との連携と規制要件の深い理解が求められている。
ICH Q8/Q9/Q10/Q11では、製剤設計の柔軟性とリスクベースアプローチが推奨されているが、日本の規制当局(PMDA)では依然として成分の個別記載が重視される傾向がある。
EMAでは、プレミックス製品の使用に関して比較的柔軟な対応が可能だが、原料の由来と品質管理の透明性は必須である。一方、FDAではDrug Master File(DMF)との整合性を重視するため、プレミックス製品がDMFに登録されているかどうかも確認ポイントとなるらしい。このように、プレミックス型コーティング剤の扱いについても規制当局間の違いが見受けられる。
今回のPMDA通知は、そんなプレミックス型フィルムコーティング剤の使用に関する申請書記載の標準化を図る重要な指針であると言えよう。申請者としては、構成成分の明示、規格の妥当性、工程の管理指標、安定性の裏付けを丁寧に記載することで、照会事項の回避と審査の円滑化が期待できるはずである。本記事で紹介したCTDの記載上の留意点と実務的な対応策が少しでも実務者の役に立つことを願っている。