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カンナビジオール(CBD)が大麻取締法の規制対象外として使用できる前提条件

はじめに

医療用大麻は、特定の病気や症状の治療を目的として利用されるもので、通常、医師の処方に基づいて提供される。例えば、難治性てんかんやがん治療中の副作用の軽減、筋肉のけいれんや慢性の痛みの緩和などに役立つとされている。しかしながら、日本では、医療用大麻の使用はまだ法的に認められていない。

この医療用大麻の解禁を訴え、政治活動に参加した経験がある元人気女優の高樹沙耶さんが、2016年に大麻取締法違反の容疑で逮捕されたというニュースによって、医療用大麻の存在を知った人も多いのではないだろうか。実は、私もその一人である。

医療用大麻の主な有効成分は、大麻草(Cannabis sativa)に含まれるカンナビノイド(Cannabinoid)の一種であるテトラヒドロカンナビノール(tetrahydrocannabinol;THC)とカンナビジオール(cannabidiol;CBD)である。ちなみに、カンナビノイドは天然化合物であり、104種類も知られている。

THCは、強い向精神作用(精神活性作用)のある化学物質で、マリファナの主成分とされる。マリファナを吸うと「ハイ」になる高揚感や、幻覚などを引き起こすのは、このTHCの薬理作用であると言われている。また、THCは精神作用を持つため、痛みの緩和や吐き気の軽減に効果があるとされている。

マリファナは、ヨーロッパやアメリカの一部の地域では合法となって使用されているケースもあるが、日本では違法薬物に指定されている。

一方、CBDには精神作用がなく、比較的安全な非精神活性成分として知られている。そのため、抗炎症や不安の軽減、てんかん治療などの目的で利用されることが多い。

CBDは、体内のエンドカンナビノイドシステムと相互作用し、炎症の抑制、鎮痛、抗不安、抗痙攣作用などが報告され、さまざまな症状の緩和に寄与する可能性が示唆されている。

目次
はじめに
エンドカンナビノイドシステム(ECS)
CBDの基本的な特徴と非精神活性
医療応用とエビデンス
特定の疾患への効果
医薬品研究の現状
Δ9-THCの残留限度値による法規制
今後の展望
あとがき

エンドカンナビノイドシステム(ECS)

近年の科学研究において、私たちの身体に備わっているエンドカンナビノイドシステム(Endocannabinoid System;ECS)は、生体維持のためのメカニズムで、代謝、気分、消化、睡眠、免疫、心臓機能、体温など、生存のために必要なさまざまな機能を調節していると言われてる。つまり、私たちの身体のホメオスタシス(恒常性)を調整する重要な機能を果たしているとされる。

このECSが健康に機能するためには、体内で分泌される内因性カンナビノイドが正常に分泌され続けている必要があるとされる。カンナビノイドは、ECSに作用する化学物質の総称である。

ECSの受容体は体中に散在しており、受容体が最もたくさん存在する部位が最もカンナビノイドの影響を受けやすい部位となる。

ECSの受容体は、全身に分布しているが、特に中枢神経系に多く存在しているらしい。その中でも、CB1受容体は脳内の特定の部位(海馬や小脳など)で特に密度が高く、記憶、気分、運動機能、痛みの認識に関与していることが知られている。

一方、CB2受容体は主に免疫系や末梢神経系に多く見られ、炎症や免疫応答の調整に関わっているとされる。

どちらの受容体も体の恒常性を保つために重要な役割を果たしており、これら受容体にカンナビノイドがくっつくと身体のホメオスタシス(恒常性)を調整する機能がうまく働くことになるわけである。

しかし、ストレスを感じたり、疲れていたり、忙しすぎたりすると体内でカンナビノイドがうまく生成されなくなり、いわゆる「カンナビノイド欠乏症」になる。体内で生成される内因性カンナビノイドが欠乏すると、身体でさまざまな疾患として現れることになるわけである。

そこで、外因性のカンナビノイドの一種である、特にTHCとは異なり、精神作用がなく、安全な非精神活性成分であるCBDが注目されることになる。カンナビノイド欠乏状態で、CBDを摂取すると、体内のカンナビノイド受容体と結合して、ホメオスタシス(恒常性)を調整するサポートを行い、身体が本来のバランスの取れた状態を取り戻すことを助けるという。

そのため、CBDを含有するサプリメントが世界中で人気となり、日本でも流通しているようである。


CBDの基本的な特徴非精神活性

カンナビジオールCBD)は、THCと比べ精神活性がなく、意識状態に影響を及ぼさない。そのため、リラックス効果や抗不安作用、抗炎症効果、鎮痛作用などの健康効果が注目されている。

カンナビジオールCBD
テトラヒドロカンナビノールTHC

CBDは、私たちの体内に存在するエンドカンナビノイドシステムECS)に作用し、痛みの緩和や免疫調整、ストレス応答の調整などに貢献すると考えられている。


医療応用とエビデンス

特定の疾患への効果

CBCの医薬品としての活用例では、特に難治性小児てんかん(ドレベ症候群やレノックス・ガストー症候群など)に対する治療薬としての適用が進んでいる。米国ではEpidiolex®が承認されている。

また、多発性硬化症に伴う筋肉の痙攣や慢性疼痛、炎症性疾患の補助療法として、研究が進んでいる。 CBDを含む複合製剤(例えば、サティベックス(Sativex);CBDとTHCの配合製剤)も一部の国で使用されている。

エピディオレックス(Epidiolex®)とサティベックス(Sativex)は、イギリス、カナダ、アメリカなどの国々で承認されている。そして、どちらの医薬品もイギリスの製薬会社であるGWファーマシューティカルズ社(GW Pharmaceuticals)によって製造販売されている。

医薬品研究の現状

CBDは、多くの基礎研究や臨床試験において一般的に優れた安全性と忍容性が確認されており、適正な用量で使用する限り大きな副作用は報告されにくいとされている。

ただし、個人差や他の薬剤との相互作用の可能性もあるため、医療用として利用する際は、医師などの専門家と連携して適切な用量や剤形を選択することが重要とされる。

また、CBDの効果や安全性については製品ごとの品質のばらつきや投与量、長期使用の影響などについても慎重に評価する必要があるとされる。


Δ9-THCの残留限度値による法規制

日本では医療用大麻の使用はまだ法的に認められていないが、CBDを含む医薬品「エピディオレックス」が治験段階にあり、徐々に注目を集めている状況にある。

日本をはじめ多くの国では、CBDは産業用大麻(ヘンプ)から抽出されたもので、THCの含有量が厳格に管理された製品のみが合法的に流通している。

米国や欧州におけるCBD製品に含まれるΔ9-THC(テトラヒドロカンナビノール)の残留限度値については、日本と比べると緩やかな規制が設けられている。

  • 米国
    • Δ9-THCの含有量が0.3%以下であれば合法とされる
    • これは農業法(Farm Bill)による規定である
  • 欧州
    • 国によって異なるが、多くの国では0.2%~0.3%が許容限度とされている

一方、日本では、CBDは大麻草の茎や種子から抽出されたものに限り合法とされている。これを定めた法律は大麻取締法(Cannabis Control Law)であり、具体的には精神作用を持つTHCが含まれていないことが条件となっている。この法律によれば、第一種大麻草採取栽培者等が栽培に用いる種子は、「Δ9-THCの濃度が0.3%を超えない大麻草」から得られたものである必要があるとされる。

さらに、最近では2024年12月12日に一部法改正が施行され、CBD製品の規制基準がさらに明確化されている。この2024年12月の法改正では、CBD製品内のΔ9-THC残留限度値は製品の形状ごとに下表のように具体的に規定され、欧米に比べると、より厳しい規制がかかっている。

剤形Δ9-THCの残留限度値
油脂や粉末状の製品10 ppm(0.001%)
水溶液0.1 ppm(0.00001%)
その他の製品1 ppm(0.0001%)

このようにΔ9-THC残留限度値を超える残留量を有するCBD製品は、「麻薬」に該当するため大麻取締法の規制対象となる。

逆に言えば、この規制されたΔ9-THC残留限度値未満のCBD製品は大麻取締法の対象外となり、CBD製品の安全性が十分に確保されているということである。

現在の市場にはオイル、カプセル、クリーム、食品など様々な剤形のCBD製品が存在するが、信頼性の高い製造プロセスに基づく製造された製品を選ぶことが重要である。

特に、日本国内では法令(大麻取締法)に準拠して製造・販売されているかどうか、また成分表示や品質試験の実施状況について十分に確認することが安全な製品選びのために必要となる。


今後の展望

CBDに関する基礎研究や臨床試験の進展により、新たな適応症や使用方法、剤形の開発が期待されている。既存の医薬品としての利用だけでなく、さらなる安全性や有効性のデータが蓄積されることで、より広範囲な疾患に対する治療オプションとしての可能性も拡大すると期待される。

CBDに関する科学的知見は、日々進展しており、今後はより広範な疾患や症状に対する適応、また他のカンナビノイドとの組み合わせ効果や相乗効果についての新たな知見が得られることを期待したい。

また、健康補助食品や新たな医薬品としての可能性も広がっており、医療従事者や消費者自身が正確な情報に基づいて使用方法やリスク・ベネフィットを判断できるよう正確な情報提供が求められている。


あとがき

日本では2024年12月12日改正の大麻取締法(正式名は「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」)により、CBD製品中のΔ9-THCの残留限度値が非常に厳しく定められた。

興味深いのはCBD製品の剤形ごとに限度値が異なっている点である。例えば、油脂や粉末では10ppm(0.001%)であるのに対して、水溶液で0.1ppm(0.00001%)となっている。この点でも日本が欧米に比べて最も厳しい規制を持つと言える。

このような差異はそれぞれの国の文化的背景や社会的価値観、そして消費者保護の考え方に起因しているのかも知れないが、興味深い。

CBDは、非精神活性でありながら多様な健康効果が期待される成分であるが、使用にあたっては法規制の範囲内で、信頼性のある製品を選ぶとともに、医療専門家と相談しながら適切な用法用量で利用することが推奨されている。

サプリメントや新たな医薬品としての用途の可能性も広がっており、医療従事者や消費者自身が正確な情報に基づいて使用方法やリスク・ベネフィットが判断できるよう正確な情報提供を求めたいと思う。


【参考資料】

令和7年3月1日に「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の一部が施行されます
大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律の施行等について
「大麻草に含まれるΔ9-THC の分析法の例示について」別添の改正について
CBDを含有する製品について|麻薬取締部ウェブサイト
CBDオイル等のCBD関連製品(※)の輸入を検討されている皆様へ

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