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バイオ医薬品 レギュラトリーサイエンス

先発抗体医薬品とそのバイオシミラーにおける品質の同等性と相違点とは何か?

はじめに

高額な先行バイオ医薬品に比べ、薬価が低く設定されるバイオシミラーは、高騰する国民医療費の抑制策として、また、患者の医療費負担軽減策として大いに期待されている。

日本でも2015年9月までに7品目のバイオシミラーが販売されており、その後も低分子医薬品のジェネリック医薬品ほどではないが、品目数が増え続け、2021年までに日本で販売されているバイオシミラーの品目数は約100品目(但し、成分数は18)に達しているらしい。

そのため、バイオシミラーの開発や承認申請に関する企業側の経験も蓄積されてきている。特に、抗がん剤、関節リウマチ治療薬や腎性貧血治療薬の領域で、バイオシミラーの開発・販売が進んでおり、バイオシミラーの開発や承認申請に関する企業側の経験も蓄積されてきている。

しかしながら、バイオシミラーの普及にはまだ課題があり、医療の現場におけるバイオシミラーの認知度は依然として低いとされている。そのため、国の政策に加え、開発・販売する企業がバイオシミラーに関する正しい情報を発信し、医療機関や患者と共有することが重要とされている。

目次
はじめに
バイオ医薬品とは
抗体医薬とは
バイオシミラーとは
抗体医薬とバイオシミラーの品質同等性
抗体医薬とバイオシミラーの相違点
あとがき

バイオ医薬品とは

バイオ医薬品は、遺伝子組み換え技術や細胞培養技術などのバイオテクノロジーを応用して製造される医薬品で、人間の体内にある生体分子(酵素、ホルモン、抗体など)を応用して作られる。

バイオ医薬品は生物を起源とするため、有効成分の含量のばらつきや製剤に対する免疫応答の惹起などの問題点を有し、その特性上、低分子医薬品と比較して分子構造が複雑で、不安定な高分子物質であるとされている。また、経口投与ができず、注射薬がほとんどである。

しかしながら、バイオ医薬品は、これまで治療薬のなかった病気や、従来の医薬品では満足度の高い治療を行うことの出来なかった病気への効果が期待されている。


抗体医薬とは

抗体医薬品とは、人の免疫機能を担っている抗体(免疫グロブリン)を、遺伝子組換え技術などを応用して人工的に生成し、医薬品として開発したものである。抗体医薬品は、遺伝子組み換え技術などのバイオ技術(バイオテクノロジー)を用いてつくられるバイオ医薬品の一種であると言える。

抗体医薬品は、ヒトの抗体に近い構造の抗体をつくることで、ヒトの体内でも安全に機能する。一種類の抗体は、特定の抗原だけに作用するので、その抗原をもっていない他の組織や細胞に作用することは少なく、副作用も少ないと考えられている。

抗体医薬品は、がん細胞などの細胞表面の目印となる抗原をピンポイントでねらい撃ちするため、高い治療効果と副作用の軽減が期待できる。病気の原因の組織(例えば、がん細胞)で過剰に作られるタンパク質を抗原として認識して結合する抗体医薬品もある(下図参照)。

抗体医薬の作用メカニズム

バイオシミラーとは

バイオシミラーとは、「バイオ後続品」とも呼ばれ、先発品であるバイオ医薬品の特許が切れた後に、他の製薬会社(異なる製造販売業者)から販売される、先発品と同等の品質、有効性および安全性を有する医薬品を指す。

バイオシミラーは、先発品のバイオ医薬品と品質がほとんど同じで、同じ効果と安全性が確認された医薬品でありながら、先発品に比べて開発費が安いために、安い薬価(先発品の約7割程度)で利用できる点が患者にとってのメリットとなっている。

バイオシミラーは、低分子医薬品(先発品)の後発品(ジェネリック医薬品)に相当する「バイオ医薬品版」ではあるが、ジェネリック医薬品とは区別して扱われている。

その理由は、バイオ医薬品の成分が複雑であり、先発品と全く同じものを作ることが非常に難しいからである。さらに、バイオシミラーの開発・製造時には、ジェネリック医薬品よりも厳密な品質管理が必要になるなど、明らかに低分子医薬品の後発品開発とは異なる高度なアプローチが必要になる。


抗体医薬とバイオシミラーの品質同等性

バイオシミラーの「Comparability(品質同等性)」は、先発品のバイオ医薬品との品質特性が全く同一であるということを意味するものではなく、品質特性において類似性が高く、かつ、品質特性に何らかの差異があったとしても、最終製品の安全性有効性に有害な影響を及ぼさないと科学的に判断できることを意味する。

バイオシミラーの開発には、新薬に準ずる様々な試験(品質試験、薬理試験、毒性試験、臨床試験など)が必要とされる。先発品と「同等」であることを証明するために患者を対象とした臨床試験(治験)が先発品を対照薬として実施される。そして、これらの試験の結果、先発品のバイオ医薬品と品質、有効性や安全性が「同等」であることが検証された医薬品が「バイオシミラー」とされ、製造・販売が承認される。市販後の安全性管理も先発品と同様に行われており、安全性の確保が図られている。

この「同等性」の捉え方が、低分子医薬品とは異なる点である。低分子医薬品のジェネリック医薬品は、先発品と有効成分の構造が全く同一であるため、生物学的同等性試験と特性解析のみで承認が可能であり、多くの場合、臨床試験(治験)を行う必要はない。バイオシミラーを開発するためには、高度な技術と多額の開発費を必要とするので、バイオシミラーを開発できる製薬企業は限られる。


抗体医薬とバイオシミラーの相違点

抗体医薬は、特定の疾患を治療するために新たに開発されたオリジナルのバイオ医薬品(先発品または先行抗体医薬品)であり、特許保護期間中はその製造方法と成分が保護されている。

一方、バイオシミラーは、先行バイオ医薬品の特許期間が切れた後に、異なる製造販売業者によって開発・販売される、先発品と同等の品質、安全性および有効性を有する医薬品を指す。

バイオシミラーの「Comparability(品質同等性)」は、先発品との品質特性が全く同一であるという意味ではなく、品質特性において類似性が高く、かつ、品質特性に何らかの差異があったとしても、最終製品の安全性や有効性に有害な影響を及ぼさないと科学的に判断できることを意味する。

したがって、バイオシミラーの開発には、新薬に準ずる様々な試験(品質試験、薬理試験、毒性試験、臨床試験など)が必要とされ、これらの試験の結果、先発品と品質、有効性や安全性が「同等」であることが検証された医薬品が「バイオシミラー」とされる。

以上のことから、先行抗体医薬品とバイオシミラーの主な相違点は、その製造過程や有効成分の性質、製造・販売承認に必要な試験などである。

バイオシミラーの使用は、現在のルールでは、新患からの使用に限られ、低分子医薬品のジェネリック医薬品のように先発品から変更(安価品への切り替え)になるようなことはない。つまり患者は、先発品とバイオシミラーのどちらかを使用する前に選択することになり、治療の途中で双方への切り替えはない。

また、バイオシミラーから別のバイオシミラーへの変更も不可とされている。

これは、バイオシミラーは先行抗体医薬品とは全くの「同一」ではないことによる判断であろう。この「同一性」の課題をクリアしない限り、先行抗体医薬品からバイオシミラーへの切り替えが可能にはならないであろう。但し、各国の規制当局や医療機関のガイドラインによっては切り替えが許可されているという。実際に、一部の国や地域では、医師の判断により、先行抗体医薬品からバイオシミラーへの切り替えが許可されているようだ。


あとがき

国策としてバイオシミラーを日本でも普及させようとしていることもあって、国内売上高が数百億円規模の大型バイオ医薬品の特許切れが相次ぐなか、バイオシミラーの開発・販売競争も激しさを増している。

特に、ファイザーや第一三共といった新薬大手もバイオシミラーの開発・販売競争に参入しており、さらにはバイオAGの登場により、バイオシミラー市場も大きく変化していくだろう。

バイオAGとは、オーソライズドジェネリック(AG)のバイオ医薬品版である。元々は、低分子医薬品のジェネリック医薬品の一種として、先発メーカーから許可を得て製造される医薬品で、原薬、添加物、製法などが先発品と全く同じである。

バイオ医薬品の場合、構造が複雑であるため、先行バイオ医薬品との「同等性」を示すのは困難であり、通常は先発品との「Comparability(品質同等性)」を示すバイオシミラー(バイオ後続品)として承認される。しかしながら、先発品と原料や製造方法が全く同じであるバイオAGとなると、先発品と品質は全く「同等」ということになる。そのため類似品であるバイオシミラーと区別して「バイオセイム」とも呼ばれることがある。

バイオAGは、先発品と同等で、特許切れ前に発売でき、しかも薬価も先発品の50%に設定される。通常のバイオシミラーの薬価は先発品の70%に設定されるから、さらに安いバイオAGが発売されるとなると、バイオシミラーの開発・販売会社にとっては脅威となるはずである。その理由は、ただでさえ不確実な投資回収の見通しがさらに低下するのが明らかであるからだ。

バイオAGの登場は、患者にとっては有難いことではあるが、バイオシミラーの開発・販売会社がビジネスから撤退していくような事態になれば、長期的な展望からすれば患者や国民にとっては決して好ましいことではないと思う。

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【参考資料】
バイオ医薬品・バイオシミラーを正しく理解していただくために
医療関係者向けリーフレット_0130 (mhlw.go.jp)
Q&A集(医療関係者向け) | 日本バイオシミラー協議会
高安義行、塚本哲治;バイオ後続品(バイオシミラー)の開発と今後の展望, 日薬理誌,147, 303 – 309 (2016) fpj (jst.go.jp)
【UPDATE】バイオシミラー 最新の国内開発状況まとめ―新薬大手も続々参入 | AnswersNews (ten-navi.com)
日本で承認されているバイオシミラー一覧 | 日本バイオシミラー協議会 (biosimilar.jp)

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