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口腔内崩壊錠 高齢者用製剤

口腔内崩壊錠の長所と短所

はじめに

口腔内崩壊錠を製剤設計/製剤開発する上で、そのメリットを理解しておくことは重要なのは当然であるが、そのデメリットについても把握しておく必要があると私は思う。何事でもそうであるが、良い点ばかりではないはずである。

目次
はじめに
口腔内崩壊錠のメリット
利便性の向上(その1):嚥下困難な患者が服用できる
利便性の向上(その2):飲水制限の患者も服用できる
服薬コンプライアンスの改善
服薬アドヒアランスの改善
QOL(Quality of Life)の改善
口腔内崩壊錠のデメリット
加齢に伴い唾液量が減少している患者には悪影響がある
苦味マスキングが十分でないと服薬アドヒアランスが低下
患者さんにまだ周知されている状況ではない

口腔内崩壊錠のメリット

利便性の向上(その1):嚥下困難な患者が服用できる

嚥下障害の患者さんが、通常錠剤よりも口腔内崩壊錠の服用を好むことは多くの報告により現在では常識になりつつある。

嚥下障害の患者さんに対しては、錠剤を粉砕したり、ジェリーやプリンに混ぜてとろみをつけた上で服用してもらうことがあるようだが、有効成分に苦味などの不快な味がある場合には、このようなアプローチによっても患者さんに服用してもらえないかも知れない。

一方、口腔内崩壊錠は、口腔内で崩壊させて服用するという目的を達成するために、有効成分が不快な味を有している場合には、苦味マスキング技術を施しているのが普通である。このような患者さんの服用に対しての配慮がなされていることが口腔内崩壊錠の良い点である。


利便性の向上(その2):飲水制限の患者も服用できる

口腔内崩壊錠を通常錠と同じように水と共に服用すると何か支障がでるというようなことは全くない。一方で、口腔内崩壊錠は、唾液だけで口腔内で崩壊し、服用できることを目指して製剤設計されているので、通常錠に比べて易服薬性が優れているのは当然のことである。

通常錠に比べ、少ない飲水量で容易に服用できるはずである。服用すべき薬剤数が多い患者さんにとっては、少ない水で服用できることは好まれるはずである。

ところで、透析をされているような患者さんは飲水制限がある。そこで、このような飲水制限があるような患者さんにこそ優れた口腔内崩壊錠を服用してもらいたいと思う。


服薬コンプライアンスの改善

処方された薬剤が服薬しにくい場合には、それがカプセルであった場合には「脱カプセル」といってカプセル殻から内容物だけを取り出して服用したり、自分自身で錠剤をすりつぶして服用する患者さんがいるかもしれない。

その錠剤が徐放性あるいは腸溶性などの特殊製剤である場合には、重篤な副作用が起こる可能性があり危険である。

さらに服用するのが嫌で服用回数を勝手ぶ減らす場合もあるかもしれない。このような服薬遵守からほど遠い患者さんの行動が、服薬しやすい口腔内崩壊錠で回避することができるならば、それは口腔内崩壊錠のメリットと言えるはずである。


服薬アドヒアランスの改善

他人に病気を知られたくない患者さんは意外に多いものである。そのような患者さんは薬を飲んでいるところを他人には見られたくないはずである。口腔内崩壊錠は、水なしで服用できるので場所を選ばない。この利便性が服薬アドヒアランスの向上に貢献するはずである。


QOL(Quality of Life)の改善

外出先や公共交通機関の中で急に腹痛やアレルギー症状が出た場合、皆さんはどうされるだろうか? 

コマーシャルにもあったが、こういった場合に服用できる口腔内崩壊錠があれば安心である。場所を選ばず、水なしですぐに服用できるなんて実にありがたい薬剤である。

そのようなありがたい薬剤を製剤化しているのが、口腔内崩壊錠の製剤技術であるから、この製剤技術こそがQOLを改善していると言っても過言ではない。


口腔内崩壊錠のデメリット

上述のように、ちょっと口腔内崩壊錠を褒めすぎたきらいもあるので、以下はちょっと辛口の批評をしてバランスをとっておきたいと思う。


加齢に伴い唾液量が減少している患者には悪影響がある

私はもうすく前期高齢者の仲間入りであるが、一般的に加齢に伴い唾液の分泌量が低下していくことが知られている。高齢者の約40%近くが唾液の分泌量が極度に低下したドライマウスという状態であるという報告もあるくらいである。

そういったドライマウスの患者にとっては、健常人で製剤設計したような口腔内崩壊錠は、口腔内でざらつきを感じさせたり、逆に服用しにくいなどの不快な服用感を与えているのではないかと危惧している。


苦味マスキングが十分でないと服薬アドヒアランスが低下

苦味や不快な味の感じ方には個人差があるので、有効成分が不快な味を有する場合、中途半端な苦味マスキング技術で口腔内崩壊錠を製剤開発していた場合には逆に服薬アドヒアランスが低下する懸念がある。

苦味マスキングの程度や甘味料・フレーバーなどによる矯味の工夫に対する患者さんの好みも一様ではないので完全無欠とはなり得ない。味覚には個人差があり、好みも分かれるから仕方がないとはいえ、製剤設計者が提供する苦味マスキングが患者さんに受け入れられなければ、口腔内崩壊錠としてのメリットが生かせなくなる。

味については、高齢者よりも小児の方が厳しい意見をもっていると小児用製剤に関するセミナーで聞いたことがある。小児の患者さんには、無味無臭の製剤の方が好まれるそうである。有効成分が不快な味を有する場合、口腔内崩壊錠の製剤設計は大変だということである。


患者さんにまだ周知されている状況ではない

医療関係者間では口腔内崩壊錠を知らない者はいないような状況になっているが、一般の患者はどのように口腔内崩壊錠を認識されているのでしょうか? もちろんよくご存じの患者さんもいるとは思うが、私の周囲にいる一般人(家族・親族・知人・友人)は口腔内崩壊錠のことを正確には知らない。

語弊を恐れずに言えば、中途半端な服薬指導をされた患者の中には、口腔内崩壊錠以外の併用薬は水で服用し、口腔内崩壊錠は別途「水なしで飲む」と誤解している場合がある。生真面目な親族の一人がそのように理解していたから本当のことである。私の親族以外にもそのような患者さんがいても不思議ではない。

口腔内崩壊錠は、一般錠剤の併用薬と別々に飲まなければならないわけではなく、一般錠剤と同様に水と一緒に服用すればよい。服薬指導をする薬剤師と服薬指導された患者のどちらに問題があるのかはここでは議論したくはない。口腔内崩壊錠が通常錠剤と併用された場合、服用する際に煩わしさを感じる患者さんもいるということを問題提起しているだけである。

もっとも上述のような問題は、口腔内崩壊錠という製剤自体に責任があるわけではなく、この世の錠剤がすべて口腔内崩壊錠になればなくなる問題である。しかし、そのような世界がすぐに来るはずはないので、対策が必要だということである。