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基礎知識

プレフォーミュレーションでは何を研究するのか?

プレフォーミュレーションとは

プレフォーミュレーションは、薬物の物理化学的性質及び生物薬剤学的性質を評価し、フォーミュレーション(製剤化研究)に必要なデータを取得するための研究である。

研究評価対象は多岐に及び、このプレフォーミュレーションの研究結果を基に製剤開発に使用する原薬(塩や多形の選択)が決定される。

多岐に及ぶプレフォーミュレーションの各試験項目における具体的な試験方法については割愛する。興味のある方はそれぞれの入門書・専門書を参照して学んでもらいたい。


物理化学的性質の評価

吸収過程に影響する物理化学的性質

分子量分配係数

薬物の分子構造に由来した化合物自体の性質は、吸収過程にかかわる物理化学的パラメータとしても重要である。そのような評価項目に分子量と分配係数がある。

分配係数は、生体成分との親油的な相互作用を表現する物理化学的パラメータであり、特に消化管吸収に関連が深いと認識されている。

消化管内での安定性

溶解して分子状態になった薬物が消化管内であるかどうかの安定性の評価は、特に胃内での安定性が注目される。

薬剤が吸収される前に分解されれば、バイオアベイラビリティが低下するので当然である。吸収のバラツキにも影響するかも知れない。薬物が消化管内で不安定である場合には、製剤化は容易ではない。程度にもよるが、腸溶性コーティングで対応できる程度であるならば、まだましな方である。


溶解度及び溶解速度に影響する物理化学的性質

溶解度溶解速度

薬物の溶解度は、溶解速度と密接な関係があり、薬物は溶解されてはじめて吸収される。そのため溶解度はバイオアベイラビリティに直接的に影響する。したがって、溶解度のデータは製剤設計にとって欠かせない情報となる。

pH-溶解度プロファイル

消化管の生理的pHをカバーする酸性からアルカリ性領域の等張緩衝液を用いて測定される薬物の溶解度とpHの関係は、薬物が消化管のどの部位で吸収されにくくなるかを推定するのに役立つ。中性域での溶解度が極度に低下するような薬物では、pH modifierとしての有機酸と一緒に製剤化することがある。

pKa(酸解離定数)

電解質の解離定数で、その酸性あるいは塩基性の強さを表すパラメータとなる。あるpHでどのような分子種が存在するのかを算出するのに役立つ。

イオン性の薬物の場合、非イオン型の分子種の割合が高くなるpH領域でないと吸収されないので、バイオアベイラビリティの向上を考えるときに必要なパラメータとなる。

粒子径粒度分布

原薬の粒子径は、特に溶けにくい原薬の場合には、溶出性や吸収効率に影響を及ぼすので重要な評価項目となる。製剤化研究において、原薬を粉砕(例えば、ジェットミルでの粉砕)する必要があるかどうかは溶出性と吸収性の評価から判断される。

結晶形(多形)

原薬の結晶形、特に多形は、溶出性や吸収効率に影響を及ぼすことが多いので重要な評価項目となる。どの多形を原薬に使用するかで製剤化研究の難易度が変わることがある。


安定性に影響する物理化学的性質

化学的安定性

原薬の分解反応である化学的安定性に関する情報は、製剤化研究には欠かせないデータである。原薬が安定であればあるほど、製剤化は容易となる。反対に原薬が非常に不安定な場合、製剤開発は苦難の道を辿ることになる。

物理的安定性

原薬の状態変化である物理的安定性に関する情報も、製剤化研究には欠かせないデータである。原薬の吸湿性が高い場合には、製剤設計と共に包装設計で対応することになる。


生物薬剤学的性質の評価

吸収効率

原薬の吸収効率は、経口投与された薬物が消化管粘膜上皮からどれくらい吸収されるかの指標である。吸収効率は、消化管粘膜透過性に支配される特性であり、経口投与製剤を開発する上で極めて重要な特性である。

吸収部位

経口投与された薬物すべてが消化管全域で吸収されるとは限らない。むしろ消化管の全域からまんべんなく吸収される薬物の方が珍しいと言えるかも知れない。大半の薬物においては、吸収部位が十二指腸を中心とする消化管上部に限定されていると考えた方がよい。大腸(colon)からの吸収が全く期待できない薬物では、1日1回投与の徐放性製剤の製剤化は容易ではない。

消化管内安定性

経口投与された薬物は、消化管から吸収される過程で、化学的あるいは酵素的分解される場合がある。例えば、酸性のpH領域で化学的に不安定な薬物は、経口投与後、胃内で胃酸により速やかに分解されてしまう。また、エステル結合やペプチド結合を有する薬物では、消化管内に存在するエステラーゼやペプチダーゼといった酵素によって分解される。

消化管内で不安定な薬物は、そのまま経口投与しても十分なバイオアベイラビリティが得られないので、消化管内での分解を回避するための製剤学的工夫(例えば、腸溶性コーティング)が必要となる。

製剤学的工夫で対応できない場合には、エステル化などのプロドラッグ化(薬物分子の化学修飾)が必要となる。ペプチド性薬物のように消化管内で速やかに分解される薬物では、製剤学的工夫による安定化には限界があるので、プロドラッグやアナログの合成が必要である。


初回通過効果肝初回通過効果

薬物が消化管から吸収され全身循環血流に到達するまでの間に、肝臓によって薬物が除去される現象を「肝初回通過効果」、特に肝臓で除去される場合が多いので単に「初回通過効果」と呼ぶ。

経口投与される薬物のほとんどは、消化管粘膜上皮を通過し、門脈を経て全身循環血流に到達するが、薬物のなかにはこの過程で肝臓において初回通過効果を受けるものがある。初回通過効果を受ける薬物は、消化管粘膜上皮の透過性が良好であっても全身循環血流には到達しないのでバイオアベイラビリティが悪くなる。

また初回通過効果は、投与量や投与速度に依存することが知られている。ある一定の投与量以上から全身循環血流での薬物(未変化体)の存在が認められるようになる。したがって、初回通過効果が確認されている薬物では、経口投与した場合におけるAUCやCmax(最大血中濃度)の値が投与量に比例せずに非線形性を示す。つまり投与量の増加率以上にAUCやCmaxが増加する。

初回通過効果は、食事の影響を受けることも知られている。原因は、肝血流量が食事によって変化するからである。このように初回通過効果は生理学的要因によっても影響を受けるので、初回通過効果が確認されている薬物では、個体内や個体間でバイオアベイラビリティのバラツキが大きいために、臨床試験成績のバラツキを引き起こす要因となる。

このように初回通過効果の評価は、製剤設計のためだけでなく、良質な医薬品開発候補品を選択する上で重要な評価項目となる。


腸肝循環

胆汁によって消化管内に排泄された薬物やその代謝物が消化管から再吸収され、肝臓を経由して再び胆汁に排泄される現象を「腸肝循環」という。

腸肝循環が確認されている薬物では、グルクロン酸などの抱合体として胆汁と共に消化管内に排泄され、腸内細菌叢にある酵素グルコロニターゼによって未変化体に変換され再び吸収されることが多い。

腸肝循環が確認されている薬物では、長時間にわたり体内に残留(滞留)するので、医薬品の用法・用量の設定時には考慮すべき生物薬剤学的性質となっている。


溶解度を増加させる研究

塩の選択

塩の種類によって薬物の溶解度や吸収性、さらには吸湿性、化学的安定性や製造コストに大きな差がある場合が多々あるので、塩の選択は医薬品開発にとって重要である。もちろん、原薬としてどの塩が選択されたかは製剤設計を開始する際の関心事である。

結晶多形の選択

低分子化合物である薬物は、ほとんどが結晶性の有機化合物であるので、多くの場合、結晶多形が存在する。結晶多形によって、溶解度、吸収性、吸湿性や化学的安定性などの物性だけでなく製造コストにも大きな差が生じる場合があるので、どの多形を原薬に選ぶかは製剤開発のみならず、医薬品開発全体にとっても重要なことである。