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錠剤のコーティング工程におけるトラブルの原因特定

はじめに

錠剤のコーティングには、高分子膜を施すフィルムコーティングと白糖を主成分とする被膜を施す糖衣コーティングがある。

今日では、フィルムコーティングと糖衣コーティングは、共にパンコーティング法と呼ばれる自動コーティング装置を用いて実施するのが一般的である。

コーティング工程はフィルムコーティング錠の製造の最終工程であるので、ここで失敗すればすべての努力がパーになるので、失敗はできない。しかし、細心の注意を払わないでいるとトラブルが発生しないとは限らない。

どんな種類のトラブルがあり、その原因は何かを特定することは非常に重要である。工程中にそのトラブルの原因を特定し、適切な対処をすれば、リカバリーできる場合が多いからである。

目次
はじめに
フィルムコーティング工程
トラブルの種類
ピッキング/ピーリングの原因
ブリッジングが起きる原因
オレンジピールイフェクトが起きる原因
オーバーウェッティングが起きる原因
糖衣コーティング工程
起こり得るトラブル
あとがき

フィルムコーティング工程

トラブルの種類

フィルムコーティング工程は、フィルムコート錠のバルク製造の最終工程にあたり、外観(重要な品質特性の一つ)に直接、影響を与える。この製造工程で失敗するわけにはいかない。

フィルムコーティング工程で時折生じる製造トラブルには次のような現象が知られている。

ピッキングPicking
錠剤表面からフィルム切片が剥離した状態
ピーリングPeeling
ピッキングがより進行した状態。より大きなフィルム切片が錠剤表面から剥離する。
ブリッジングBridging
錠剤表面の刻印の一部分をフィルムが埋めてしまって鮮明な刻印ではなくなった状態
オレンジピールイフェクトOrange peel effect
噴霧液滴が錠剤表面にうまくコーティングされずに錠剤表面が「荒れた」状態(Roughness)
オーバーウェッティングOver wetting
コーティングパン壁に錠剤が付着、または錠剤同士が付着を起こしている状態

ピッキング/ピーリングの原因

ピッキング(Picking)及びピーリング(Peeling)を引き起こす原因は、コーティング分散液の噴霧過剰の場合(噴霧速度が速すぎる)、あるいは乾燥が不十分な(コーティングパンの回転速度が遅い、給気・排気温度が低い、給気・排気湿度が高い)場合である。問題となる要因を特定し、改善すればトラブルは解消される(下図参照)。

©takaaki.nishioka 2021

ブリッジングが起きる原因

ブリッジング(Bridging)を引き起こす要因は、コーティング分散液の物性・組成(濃度、粘度、表面張力、可塑剤の濃度)に影響されることが多い。

コーティング分散液が濃くて粘性がある場合にはブリッジングが起き易い。コーティング分散液を再調製できない場合には、噴霧空気圧を高くすることで噴霧液滴を小さくするとブリッジングが起こりにくくなる。(下図参照)

©takaaki.nishioka 2021

オレンジピールイフェクトが起きる原因

オレンジピールイフェクト(Orange peel effect)を引き起こす原因は、噴霧液滴が錠剤表面に付着して展延する前に乾燥した場合で、錠剤表面がまるでオレンジの皮のようにブツブツのある荒れた状態になることを指すので、そのような状況を防ぐ必要がある。

噴霧液滴が錠剤表面に付着して展延する前に乾燥する」という状況をなくすためには、まずはスプレーガンの位置が錠剤床からちょうど良い距離に設定されているか、ノズルヘッドの数が多すぎてノズルヘッド当たりの噴霧液速度が遅くなっていないか、噴霧液速度が遅く、または噴霧空気圧が大きすぎて噴霧液滴が細かくなりすぎて乾燥しやすくなっていないか、噴霧方向が錠剤床に対して適切であるかどうかなどをチェックする必要がある。

 次に、錠剤床の混合具合や乾燥状態をチェックする。これらのコーティング操作条件をチェックしても要因を特定できない場合は、コーティング分散液の濃度や粘度が高すぎることが原因と考えられるので、再調製も視野にいれて検討することが重要である。(下図参照)。

©takaaki.nishioka 2021

オーバーウェッティングが起きる原因

オーバーウェッティング(Over wetting)を引き起こすと水分が核錠の内部に侵入するリスクが高まり、その結果として有効成分の安定性にも影響を及ぼす懸念がある。したがって、オーバーウェッティングは絶対に引き起こしてはならない。

オーバーウェッティングを引き起こす原因は、噴霧液による湿潤と給気による乾燥のバランスが崩れていることであるから、直ちにこのバランスを正さなければならない。

通常、主たる原因となるのは、コーティング分散液の噴霧過剰(噴霧速度が速すぎる)、噴霧液滴が十分に小さくなっていない(噴霧空気圧が低い)、乾燥が不十分(コーティングパンの回転速度が遅い、給気・排気温度が低い、給気・排気湿度が高い)などの場合が多い。したがって、速やかに問題となる要因を特定し、改善すればトラブルは解消される(下図参照)。

©takaaki.nishioka 2021

糖衣コーティング工程

起こり得るトラブル

糖衣錠を生産する上で、糖衣コーティング(糖衣工程)は複雑で製造時間が長く(2~3日)、フィルムコーティングとは全く別のトラブルが発生することがある。

トラブルが発生すれば、まず修復不可とあきらめることになるでしょう。

糖衣工程は、通常、「防水膜掛け」、「下掛け」、「上掛け仕上げ)」、「つや出し」の4工程で構成されており、特に下掛けの出来が糖衣錠の品質を決定する。下掛けによって糖衣錠の直径と厚みが決定されるからである。

上掛け仕上げ)工程では色シロップを噴霧して糖衣錠に色を付ける場合がある。そのような工程では色ムラが生じないように注意しなければならない。

糖衣コーティングは、フィルムコーティングよりもはるかに難しい製造技術であり、熟練者でなければハンドリングできない。


あとがき

コーティング工程はフィルムコーティング錠の製造の最終工程であるので、ここで失敗すればすべての努力がパーになるので、失敗はできない。しかし、細心の注意を払わないでいるとトラブルが発生しないとは限らない。

フィルムコーティング工程の場合、トラブルの原因を直ちに特定し速やかに対処すれば、工程中にリカバリーできないことはない。むしろリカバリーできることの方が多い。

キーポイントは如何に早く原因を特定し、その原因を解消するよう対処するかである。

原因の特定が遅れ、対応が遅れれば遅れる程、リカバリーができなくなり、最終的に外観不良で廃棄の憂き目をみることになる。このようなケースは可能な限り避けたいものである。

一方、糖衣コーティングの場合は、どのステップのトラブルかにもよるが、一般的にはトラブルを起こすとまずリカバリーは無理と考えた方がよい。したがって、トラブルを起こさないようにプロセス管理をより慎重に行った方がよい。

新薬の製剤開発で、糖衣錠が姿を消して行った背景にはこのような製造技術上の困難さがあることを知っておきたい。


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