はじめに
打錠機(錠剤機)には、単発打錠機とロータリー打錠機の2種類がある。一般的に単発打錠機はラボでの実験用であり、高速のロータリー打錠機が生産用に使用される。単発打錠機では全く確認できなかったスティッキングやキャッピングなどのような打錠時のトラブル(打錠障害と呼ぶ)は、ロータリー打錠機を用いて高速で、長時間打錠をした場合に初めて発生する場合が実際問題としてよくある話である。研究部門で十分に検討せずに製剤処方を決定し、そのまま製造部門に技術移管をして問題が顕在化するような事態は絶対に避けなければならない。
したがって、打錠工程における製造トラブル(打錠障害)のリスク評価はロータリー打錠機を用いて実施する必要がある。
打錠障害の原因とそのトラブルシューティング
素錠の打錠時のトラブル(打錠障害)の種類とその原因・対策を下記の表にまとめてみた。
打錠障害の原因はいろいろであるので、打錠用末、臼・杵、打錠操作条件のそれぞれの観点から原因を究明し、適切な対策をとることが求められる。下図は打錠障害の潜在的原因と発生リスクが高い打錠障害の関係をまとめてみたものである。打錠障害を未然に防ぐためにも打錠前に十分に気をつけたいものである。
多層錠に特有の打錠障害
多層錠(二層錠又は三層錠)の打錠の場合も基本的には素錠と同様の打錠障害を引き起こすことがあるが、素錠に比べてラミネーションのリスクが高くなる。
したがって、多層錠の処方設計ではラミネーションを回避するために各層の打錠用末の結合力を高めるようにする必要がある。また、滑沢剤量の最適化は素錠の場合以上に慎重に検討しておくべきである。さらに各層の質量変動が大きくなりやすいので流動性も良い打錠用末を使用しなければならない。
有核錠に特有の打錠障害
有核錠の打錠の場合も基本的には素錠と同様の打錠障害を引き起こすことがあるが、核錠が外殻内の打錠圧縮力の応力伝達を妨げているので素錠に比べてラミネーションを起こしやすい。
したがって、有核錠の処方設計ではラミネーションを回避するために外殻の打錠用末の結合力は高めておく必要がある。また、核錠が外殻の圧縮成形後に膨張する程度は外殻と同等以下にしておく必要もある。
さらに錠剤サイズの設計においては、有核錠と核錠の半径差を十分に検討してきめなければならない。核錠が有核錠の中心からずれるようなことがあるとラミネーションを引き起こし易い。核錠のセンターリング機能に優れた有核打錠機を製造に使用することをお勧めする。
あとがき
錠剤の打錠時における打錠障害の原因とそのトラブルシューティングについてまとめてみると下記のようになるかも知れない。
打錠障害の原因
- 滑沢剤の添加量
- 添加量が最適化されていないと打錠障害を引き起こすリスクが高まる
- 添加量が不足していると、スティッキングが起こりやすい
- 添加量が過量な場合は、キャッピングやラミネーションを引き起こす
- 添加量が過量な場合は、錠剤硬度が不十分であったり、崩壊時間が遅延したりする
- 打錠末の水分含量
- 打錠末が十分に乾燥されていないと打錠障害を引き起こすリスクが高まる
- 水分過多の場合、スティッキングが起こりやすい
- 打錠末の粒度分布
- 微粉が過多な場合は、キャッピングが起こりやすい
- 打錠機の調整
- 打錠機の操作条件の設定が適切でないと、打錠障害を引き起こすリスクが高まる
- 錠剤の形状やサイズ
- 異形錠の場合や錠剤厚みが不適格な場合には、打錠障害を引き起こすリスクが高まる
トラブルシューティング
- 滑沢剤の添加量の最適化(製剤開発の段階で)
- 打錠末の水分含量の管理
- 打錠機用臼杵の管理
- 打錠機の操作条件の設定
- 打錠速度や打錠圧縮力などの適正化
- 打錠機の定期的なメンテナンス
上記のような対策の一つまたは複数を組み合わせることで、大概の打錠障害は解決できるはずである。万一、解決できないような打錠障害が生産現場で頻繁に発生するようなら、処方設計からやり直した方が良い。
製剤開発時には、製剤研究技術者は真剣に製剤設計に取り組んでいるので、そのような事態が生産現場で起きることはまずない。そう願いたい!