はじめに
打錠工程は、代表的な経口固形製剤である「錠剤」の製造プロセスでの「心臓部」に該当する重要な工程である。この打錠工程で発生する打錠障害は、不良率上昇だけでなく後工程(フィルムコーティングや外観全数検査)や品質保証にも大きく影響する。
本稿では、打錠工程で最も頻度の高い障害の一つであるキャッピング(錠剤上面の剥離・分裂)とラミネーション(錠剤の層状分離)に焦点を絞り、その主な発生メカニズムを考え、処方設計から装置調整、環境管理まで網羅的に防止策をまとめてみた。
<目次> はじめに キャッピングとラミネーションとは? 打錠障害の主な潜在的発生要因 キャッピングとラミネーションの発生要因 キャッピングとラミネーションに共通の発生要因 キャッピングの発生メカニズム ラミネーションの発生メカニズム キャッピングとラミネーションの防止策 キャッピングの防止策 ラミネーションの防止策 打錠障害の根本的な防止策 あとがき |
キャッピングとラミネーションとは?
キャッピング(Capping)
- 打錠体の上層もしくは下層が、天板から剥がれる現象
- 見た目は「フタ状」に欠けが生じ、含量不均一や強度低下の原因になる
- 凸面錠剤のR部が大きい形状の錠剤で起きる場合が多い
ラミネーション(Lamination)
- 錠剤が層状に分離し、内部で剥離を起こす現象
- 典型的には中央部から水平に割れ、破片が製剤表面に出る
- 二層錠などの多層錠で起きる場合が多い

打錠障害の主な潜在的発生要因
打錠障害の主な発生要因を下表にまとめてみた。
背景要因 | 主なポイント |
---|---|
処方組成 | 粉末の粒径分布、滑沢剤の比表面積、結合剤の種類や添加量 |
粉体物性 | 打錠末の流動性、圧縮可塑性、せん断強度、含水率 |
打錠条件 | 圧縮力(本圧)、予備圧縮力(予圧)、打錠速度、 ツールクリアランス(杵と臼の間のわずかな隙間)、死腔量 |
打錠機・ ツール | 杵・臼の摩耗、杵ヘッドの潤滑不良、杵先端角度 |
環境条件 | 打錠部屋の温湿度管理、湿度変動、温度変動など |
キャッピングとラミネーションの発生要因
キャッピングとラミネーションはいずれも打錠障害の一種であるが、その原因や発生メカニズムは重なる部分もあれば明確に異なる部分もある。
両者とも処方・プロセス・装置のトレードオフで起こるが、キャッピングは「錠剤表面付近の気泡と結合力不足」、ラミネーションは「錠剤内部のせん断応力と塑性不足」が主な要因である。
キャッピングとラミネーションに共通の発生要因
- 打錠末の粉体物性の不良
- 流動性や粒度分布などが悪い
- 含水率が低く過ぎる(過乾燥)
- 結合剤の不足
- 滑沢剤の過剰
- 塑性変形能が低い
- 打錠条件
- 打錠速度、打錠圧縮力、ツールクリアランス
これらが適切でないと、いずれの打錠障害も起こりやすくなる。
キャッピングの発生メカニズム
キャッピングの発生箇所は、錠剤の上層・下層界面である。そのため錠剤天面の剥離が生じるになる。その主なメカニズムは以下のとおりである。
- 打錠末の空隙率が高い
- 圧縮時に錠剤内部に閉じ込められた空気が解放時に弾ける
- 錠剤内部に空気が取り込まれ、圧縮時に脱気・膨張して上部層がはがれる
- 予備圧縮力(予圧)の不足
- 打錠末の粉粒間の初期結合が弱く、本圧縮で割れやすい
- 打錠速度が速すぎる
- 粉体流動に時間が足りないため、錠剤内部の気泡抜けが追いつかず、層間で結合強度差が生じる
- ツールクリアランスの過大
- 臼内で粉体が締め固められずに層が浮く
- 重要パラメータ:
- 予備圧縮力(与圧)、打錠速度、死腔量、結合剤量
ラミネーションの発生メカニズム
ラミネーションの発生箇所は、錠剤中央付近の内部層である。そのため錠剤の層状剥離が生じるになる。その主なメカニズムは以下のとおりである。
- 圧縮時のせん断応力
- 臼壁への摩擦力差が層間でせん断応力が集中している
- 打錠末の塑性変形不足
- 圧縮時の塑性転移が不十分で、錠剤表面が杵表面に張り付いて錠剤内部で層間剥離面を生じさせる
- 打錠末の高含水率
- 粉体が凝集しすぎる上に、打錠熱(高温)が錠剤内部の層間の水膜が熱膨張して剥離(層分離)を助長する
- 臼温度の上昇(高温化)
- 錠剤表面と杵表面の微妙な融着を引き起こして、錠剤内部での剥離を繰り返し層剥離化を助長する
- 重要パラメータ:
- 本圧縮プロファイル、摩擦係数(杵/臼温度)、粉体せん断強度
キャッピングとラミネーションの防止策
打錠工程において、キャッピングやラミネーションの頻繁に発生するような場合は製剤設計(処方設計)がうまくいっておらず、打錠末の粉体物性が最適化されていない可能性が高い。
このような事態が技術移管当初から頻繁に起きている場合は、製剤設計を担当した製剤技術研究者の責任である可能性が高い。本来ならこのようなケースは絶対に避けたいところである。
キャッピングが頻発するような場合、特に打錠末間の結合力不足(結合剤の量不足、結合不良)により、上部片が圧力に耐えられずに剥離すると考えられる。そのため、製剤化研究の際に、可塑性の高い結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン;PVP)などを選択して、その添加量を最適化すべきであったかも知れない。
また、キャッピングが頻発するような場合は、処方設計の段階で結晶セルロース(MCC)の添加比率を通常よりも多くして(例えば、25~30%)、打錠末のせん断強度を向上させたり、レオロジー改質剤(例えば、軽質無水ケイ酸など)を製剤処方に加えるなどして打錠末の粉体物性(特に流動特性)を最適化しておく必要があったかも知れない。
キャッピングの防止策
- 打錠末の粉体物性の改善
- 前工程である造粒工程において、打錠末中の微粉(< 63 μm)の量を増やし、打錠末の比表面積を上げてみる
- 打錠条件の調整
- 予備圧縮力(予圧)を20–30%増加させ、初期結合を強化させてみる
- 打錠速度を落とし、打錠末の臼内での移動を改善する
- ツールクリアランスを5–10 μm程度に設定してみる
- ツール管理
- 杵先端の研磨
- 鏡面仕上げで潤滑性向上
- 死腔(dead space)を最小化するデザインを採用
- 環境制御
- 打錠室の湿度を35~45%に管理し、静電気/粉体のまとまりを抑制してみる
- プロセス分析技術(PAT) の導入
- リアルタイム残留水分モニタリング
- 打撃応力解析
ラミネーションの防止策
- 打錠末の粉体物性の改善
- 処方設計の段階でMCCや軽質無水ケイ酸などの添加の必要性を考慮し、必要な場合はその添加量を最適化しておく
- 打錠条件の調整
- 二段圧縮(予圧+本圧)を導入し、せん断応力を緩和する
- 予力の追加で、本圧での層間応力を大幅に低減させる
- 打錠圧縮力を徐々に増大させることで錠剤内の気泡を少なくする
- ツール管理
- 臼冷却装置の導入
- 打錠プロセス下流での空冷強化
- 杵・臼への特殊コーティング(PTFE系)で摩擦係数を低減
- 環境制御
- 打錠室の湿度を35~45%に管理し、静電気/粉体のまとまりを抑制してみる
- プロセス分析技術(PAT) の導入
- 打錠振動加速度センサーで異常振動を検知、即時フィードバック制御をかける
打錠障害の根本的な防止策
- 製剤処方の最適化
- 結合剤種類・量、造粒時の水分量を適切に設定し、打錠末の密度・水分分布を均一化
- 最適な微粉量も考慮し、打錠末の粒度分布を調整し、規格化する
- 滑沢剤量の最適化
- 滑沢剤(例:ステアリン酸マグネシウム)の被覆率を最小限に抑え、打錠末間の結合を阻害しない量に調整する
- 混合時間や混合速度を見直し、滑沢剤の均一性を確保
- 打錠操作条件の管理
- 打錠速度(ロータリー型打錠機のターンテーブルの回転速度)、打点間隔(打錠杵数)の最適化
- 二段圧縮(予圧+本圧)を導入し、予圧力比を設定して脱気を促進する
- ノックアウトピンの位置・ストローク量を調整し、排出時の応力を分散する
- 打錠圧縮力をQbD/PATツールで最適化
- 金型(杵・臼)の管理
- 杵エッジのR(丸み)や面取りを適切に維持し、応力集中を防止する
- 杵表面の研磨やコーティング(PVDなど)で傷・摩耗を低減させる
- 定期的な点検と交換スケジュールの策定
- 打錠室内の環境・設備改善
- 打錠室の温湿度管理を徹底し、加工中の吸湿・静電気を抑制する
- 打錠機のクリーニングやメンテナンス
- 防塵システムの導入で異物混入を防止
あとがき
キャッピングとラミネーションは処方設計、打錠操作条件、ツール(杵・臼)管理や打錠室の環境制御などが複合的に絡む現象である。
製剤開発の段階で、QbDアプローチで要因特定をし、DoEを活用して製剤処方を最適化した上で、スケールアップした際に検証を必ず実施しておくことが大切である。
キャッピングとラミネーションは、二段圧縮(予圧+本圧)機能のついたロータリー型打錠機を使用すれば、大抵の場合は打錠操作条件(予圧と本圧のバランス、打錠速度など)の調整で解決できる。また、最近のトレンドではPATを導入して打錠障害を未然に防ぐ試みもなされている。
PATのような先進技術が打錠障害を防いでくれるからと言って、製剤設計を担当する製剤技術研究者は今後も処方設計で手を抜くようなことはないように心がけたいものである。キャッピングやラミネーションのような打錠障害は、一次的には製剤設計で防ぐものであるというのが私の立ち位置である。決して、打錠工程でオペレーターが悪戦苦闘することがないようにしたいものだ。
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