カテゴリー
凍結乾燥 基盤技術 製剤技術

研究用小・中型凍結乾燥機の基本的な操作方法

はじめに

凍結乾燥は、低温かつ真空状態で試料中の水分を除去できるため、熱に弱い成分や繊細な構造を損なうことなく保存することが可能となる。これにより、バイオマテリアルや不安定な医薬品などの本来の性質や機能を維持したまま長期保存でき、品質の劣化防止や再現性向上につながる。

研究用小型および中型の凍結乾燥機(フリーズドライヤー)は、ラボサイズでのプロトタイプ作成に最適なため、医薬品やバイオテクノロジーなど多様な分野で利用されている。サイズや操作性においても研究室での導入がしやすく、省スペースかつユーザーフレンドリーな設計が採用されている点も魅力的である。

研究用機器は、温度や圧力などのパラメータを精密にコントロールできるよう設計されており、プロセスの統一性と繰り返し実施可能な条件を提供してくれる。これにより、実験結果の再現性が確保され、データの信頼性が高まる。また、最新の凍結乾燥機では、プロセス条件のモニタリングや自動調整が可能になっており、研究開発における重要なツールとなっているわけである。

さらに、進化した自動制御システムやリモートモニタリング機能の搭載により、操作(運用)が容易で安全性も確保されている点が、研究の現場で支持される大きな背景にもなっている。

ラボ用フリーズドライヤーの一般的な操作方法は、複数の工程に分かれており、各工程で正確なパラメータの設定とモニタリングが求められる。機種やモデルによっても操作方法は若干異なるであろうが、基本的な操作手順の流れは同じようなものである。

目次
はじめに
凍結乾燥機の基本構造
研究用凍結乾燥機の基本的な操作方法
事前準備
基本的な操作手順
あとがき

凍結乾燥機の基本構造

凍結乾燥機は次の各ユニットで構成される。

  • 試料保持部
    • 棚の冷却(-40~-80℃程度)と加熱による試料凍結と温度制御機能、および各種センサーによるモニタリング機能が付加され、プロセスの効率化と信頼性が向上している
  • 水蒸気トラップ
    • 水蒸気を氷として凝縮させるトラップは、一般に-50℃付近までの冷却が可能である
    • 臨界温度が低い凍結溶液および水以外の揮発性溶媒や添加剤を含む試料の乾燥には、より低温(-80℃等)のトラップを装備した機器が用いられる
  • トラップ冷却装置
  • 真空ポンプ
    • 外付けの真空ポンプを用いる場合も多い

研究用凍結乾燥機の基本的な操作方法

事前準備

機器の状態確認と清掃

使用前に装置内部や外部の汚れや、前回の使用残留物がないか確認し、必要に応じて清掃する。また、周辺環境(電源や排水、換気など)が適切に整っていることを確認する。

試料や付属品の準備

対象の試料を事前に適切な容器に分注し、必要ならば凍結処理を済ませておく。また、専用のラックやプレート、シールなど、装置に合わせた付属品も準備しておきたい。

パラメータの確認

使用する試料に合わせ、装置マニュアルやプロトコルに基づいて、冷却温度、真空圧、昇華(一次乾燥)および二次乾燥の時間・温度設定などを予め決定し、操作パネルに設定しておく。

パラメータ設定の準備

① 凍結乾燥機の凍結機能(冷凍機)を利用して、試料溶液の共焦点を測定する。

② 試料溶液の共焦点データを基に棚温度と真空度の制御プログラムを設定する。


基本的な操作手順

試料のセットアップ

  • 試料の配置
    • 冷凍済みまたはこれから凍結させる試料を、専用のトレイまたはラックに均一に配置する
    • 均一な配置により、各サンプルに同じ冷却・乾燥効果が得られる
    • 具体的には、
      • 例えば、試料溶液を凍結乾燥用ガラスバイアル(容量 5 ml)に分注(各 2 ~3ml)し、専用のゴム栓を開口部を開けてセットする
      • 試料バイアルをチャンバーの棚に並べて扉を閉じる
      • 真空コックのノブを閉じる
  • 扉の閉鎖・安全確認
    • 試料をセットした後、装置の扉を確実に閉じ、インターロックなどの安全機構が正常に働いていることを確認する

凍結工程の開始

  • 急速冷却
    • 操作パネル上で「凍結開始」もしくは「プリフリーズ」モードを選択し、棚温度を設定温度(例えば、-40℃~ -80℃など)に下げる。これにより、試料全体が一様に凍結する
  • 温度・圧力のモニタリング
    • モニターのレコーディングを開始させる
    • 制御プログラムを選択し、凍結乾燥機を起動させる。棚冷却用の冷凍機が稼働し、棚温度制御(冷却)プログラムが開始される
    • 冷却中は、装置ディスプレイで棚温度、試料温度、室内・チャンバー内の圧力などのデータが表示されるため、異常がないか常に確認する
    • 棚温度が規定値まで低下して一定時間経過(凍結)後、真空ポンプが自動で起動され、減圧が開始される
    • 規定値まで減圧が進むことをモニターで確認する

乾燥工程の開始

  • 真空の作成
    • 試料が十分に凍結したら、装置の真空ポンプを作動させ、チャンバー内の圧力を設定された真空レベルまで低下させる
  • 一次乾燥(昇華工程)
    • 制御プログラムに従い、一次乾燥が自動的に開始される
    • 真空状態に達した後、棚温度を所定の昇華温度に設定(またはプログラムに従い自動で変化)し、凍結状態の試料中の水分が固体から気体へ直接昇華する工程を開始する
    • 期間中は温度と圧力を一定に保ちながら進行状況をモニタリングする
  • 二次乾燥(吸着除去工程)
    • 制御プログラムに従い、一次乾燥時間が終了後、棚温度を徐々に上げて二次乾燥が自動的に開始される
    • 一次乾燥が終了したら、棚温度を上昇させ、残留している結合水(吸着水)を除去する二次乾燥工程に移行するが、これにより、最終的な水分含有量を低く保てる

終了工程と後処理

  • ベントおよび平衡状態への復帰
    • 乾燥プロセスが完了した後、装置は自動的にベント操作(外部大気との接続)を行い、内部圧力を大気圧に戻す
    • この際、温度上昇にも注意が必要である
    • 真空解除バルブを開いて乾燥チャンバーを常圧に戻した後、制御装置、真空ポンプ、水蒸気トラップを停止させる
  • 試料の取り出し
    • 試料バイアルをチャンバーの棚から取り出す
      • 扉が開放され、安全が確認できたら、試料を速やかに取り出す
    • 取り出し時に試料の急激な温度変化や再吸湿を避けるため、必要に応じて速やかに封入や包装処理を行う
    • 二次乾燥時間終了後、減圧下で棚を上昇させてゴム栓をバイアルに押し込み、密封すると良い
  • 機器の後処理
    • 水蒸気トラップに付着した氷を融解させ、ドレインから除去後、乾燥させる(自動)
    • 使用後は装置内部の確認・清掃を行い、次回使用に備える
    • 定期点検や保守作業のスケジュールも合わせて管理することが望ましい

凍結乾燥装置の構造や制御機構は機種やアダプター等により異なるため、操作にあたっては説明書を確認の上、その指示に従う。


あとがき

ラボ用凍結乾燥機の基本的な操作方法を理解し、各工程でのパラメータ設定と安全確認を徹底することで、ラボ用凍結乾燥機を効果的に運用することが可能となる。

さらに、各メーカーの最新の技術や推奨プロトコルを関連文献や製品マニュアルで確認することで、より精密で再現性の高い乾燥が実現できるようになると思う。

ラボ用凍結乾燥機を取り扱う上での注意事項としては、次のようなポイントが考えられるので、参考にしてほしい。

  • 装置マニュアルの遵守
    • 本稿で述べた手順は一般的な流れであるが、機種やメーカーによって細かい操作方法や推奨されるパラメータは異なることがある
    • 必ず、各機種の取扱説明書や運転マニュアルに記載された手順・警告事項に従ってほしい
  • 安全対策の徹底
    • 真空運転や極低温作業では、オペレーター自身や装置への安全対策(インターロック機能、緊急停止装置など)の確認が不可欠である
    • 異常が認められた場合、すぐに運転を停止し、マニュアルに沿った対応を取る必要がある
  • パラメータの最適化
    • 試料の性質や体積により、昇華・乾燥条件は変動する
    • 事前の試験運転やパイロット実験を行い、最適な条件を確定することが成功の鍵である

若き優秀な製剤研究技術者たちの皆さん、I wish you success!


【関連記事】
タンパク質製剤および抗体医薬のための凍結乾燥技術