クリーム剤の製法
私がバイエル薬品(株)で先輩から最初に教わったのはクリーム剤の製造方法であった。毎日のように製造条件や処方の異なるクリーム剤(ほとんどプラセボ)を作っていた経験がある。
私が愛用する「ニベアクリーム」は優れたクリーム剤であるが、材料とホモジナイザー(乳化機)さえあれば自分で調製できる自信がある。
私が入社した当時は、クリーム剤は日本薬局方に収載されていない時代であった。軟膏剤(ointments)が収載されていたが、処方も製法もクリーム剤とは全く別物であった。
現在の日本薬局方/製剤総則によると、クリーム剤は、皮膚に塗布する、水中油型(O/W)又は油中水型(W/O)に乳化した半固形の製剤であると記載されている。
油中水型(W/O)に乳化した親油性のクリーム剤については「油性クリーム剤」と称することができる。使用感の良いのは水中油型(O/W)の方である。
クリーム剤を製造するには、通例、ワセリン、高級アルコールなどをそのまま、又は乳化剤などの添加剤を加えて加温溶解して油相とする。別途、精製水をそのまま、又は乳化剤などの添加剤を加えて加温して水相とする。
原薬(有効成分)の溶解特性に応じて、いずれかの相に有効成分を加えて溶解させた後、適切な温度で油相及び水相を合わせて全体が均質になるまでホモジナイザーなどで攪拌・乳化した後、減圧下で攪拌しながら室温になるまで冷却する。私の経験では、有効成分は油相に溶解させることが多いように思う。
クリーム剤を製造していた日々を思い起こすと、クリーム剤の品質特性に影響を及ぼす重要プロセスパラメータ(CPP)は、次のようなものであった。
- 乳化温度(乳化時の油相と水相の温度調整がとても重要)
- ホモジナイザーの回転速度
- ホモジナイザーの稼働時間(乳化時間)
- ホモジナイザーの位置(ベッセル底からの距離)
- ホモジナイザーの天板の位置
- 乳化後の冷却速度
- 脱気のための減圧度
- ベッセルの底の形状
- ベッセルとホモジナイザーの大きさのバランス
- バッチサイズ(仕込み量)
上記以外にも影響因子があったかも知れないが、上記のようなパラメータを考慮するだけで十分に目的の品質特性を有するクリーム剤を製造することができるはずである。
ゲル剤(又はジェル剤)の製法
クリーム剤が日本薬局方に収載されていない時代にあって、ゲル剤は世間的にはほとんど知られていなかった。私が特許出願して初めて特許登録されたのが、ゲル剤に関する特許であった。
現在の日本薬局方/製剤総則によると、ゲル剤は皮膚に塗布するゲル状の製剤であると記載されている。ゲル剤には、水性ゲル剤及び油性ゲル剤がある。
水性ゲル剤を製造するには、通例、有効成分に高分子化合物、そのほかの添加剤及び精製水を加えて溶解又は懸濁させ、加温及び冷却、又はゲル化剤を加えることにより架橋させる。
一方、油性ゲル剤を製造するには、通例、有効成分にグリコール類、高級アルコールなどの液状の油性基剤及びそのほかの添加剤を加えて混和する。
ゲル剤は、クリーム剤に比べると製造しやすいように思う。ゲル剤の品質特性に影響を及ぼす重要プロセスパラメータ(CPP)もクリーム剤に比べると少なく、どちらかと言えば重要物質特性(CMA)の方が重要であったように記憶している。
記憶に残っているCPPは、中和時のpHぐらいである。CMAとしては次のようなものがある。
- 高分子化合物の種類
- 高分子化合物の濃度
- ゲル化剤(中和剤)の種類
- ゲル化剤(中和剤)の濃度
ゲル剤は、クリーム剤よりも熱に対して安定、すなわち日本の夏場でも分離するようなことがなく、エタノールなどの揮発成分が入っている場合には使用感(清涼感?)も良いというメリットがある。
欠点と言えば、高分子化合物の濃度が高いゲル剤では、使用後に高分子の「カス」のようなものが皮膚に残ることぐらいだろうか。それもゲル化剤の添加量を極力少なくすれば支障を生じる程ではない。ゲル剤は、皮膚に塗布すると液状になって皮膚に浸透していくので外用剤としては優れていると思う。
現在、化粧品分野ではクリーム剤よりもゲル剤(化粧品分野では「ジェル」と呼ぶらしい)が多いのではないだろうか。
ゲルクリーム剤の製法
ゲルクリーム剤をインターネットで検索するとほとんど化粧品がヒットする。ゲルクリーム剤というのは、クリーム剤とゲル剤の良い点を併せ持つ優れた剤形である。
私がゲルクリーム剤を水虫薬(抗真菌剤)の開発に利用しようとしていた頃は、化粧品にはゲル剤(ジェル剤)という名前すらなかった時代であるから、私自身が年老いてしまったなあと思ってしまう。それはさておき、ゲルクリーム剤の製造方法は、基本的にはクリーム剤とゲル剤の製造方法と同じである。
ゲルを形成する高分子化合物は、クリーム剤の水相に溶解させて、ゲル化剤(中和剤)は冷却してクリームが形成された後に添加して攪拌する。水中油型(O/W)のクリームの水相部分がゲルとなっているイメージである。
したがって、通常のクリーム剤よりも熱に強いし、クリームの有する皮膚浸透性もあるので最高の品質が期待できる。現在、ゲルクリーム剤が化粧品に多く採用されている理由が容易に納得できるはずである。