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製剤処方の最適化に効く!決定的スクリーニング計画は実験計画法の進化形?

はじめに

製剤開発では「どの因子が製剤品質に大きく影響するのか」を見極めることが最適化への近道である。従来の一因子ずつを検討する方法では、試験数が急増し、効率的とは言えない。

そこで近年注目されるのが決定的スクリーニング計画DSDDeterministic Screening Design)と呼ばれる実験計画法(Design of Experiment;DoE)である。

DSDを使えば、少ない実験回数で主効果はもちろん、二次効果や交互作用の有無も明らかにできるので効率的に処方設計での製剤処方の最適化が可能となる。

目次
はじめに
決定的スクリーニング計画(DSD)とは?
DSD適用のメリット
DSDを用いた実施手順
サンプル:錠剤製剤の因子設計例
ケーススタディ:錠剤崩壊時間の最適化
DSD適用時の注意点・ポイント
あとがき

決定的スクリーニング計画(DSD)とは?

  • 基本コンセプト
    • 各因子を「3水準(−, 0, +)」で設定
    • 最小の実験数で主効果と二次効果を“デターミニスティック”(Deterministic)に分離
  • 特徴
    • 実験数が要因数+1~3程度で済む
    • 混み入った二次効果や一部の交互作用も検出可能
    • モデルの過剰適合を抑制しつつ、錠剤特性のスクリーニングに最適

デターミニスティック(Deterministic)とは、確定的または決定論的な特性を持つことを指す。 これは、特定の条件下で必然的に結果が決まる性質を意味し、特に科学や哲学の文脈でよく使われる用語である。例えば、物理法則は一般的に決定論的であるとされ、初期状態と物理法則がわかれば、未来の状態を予測することが可能であるとされる。


DSD適用のメリット

  • 実験コスト削減
    • 少ない実験回数で要因絞り込みが可能
    • 時間・原料の節約に直結
  • 多次元な因子評価
    • 主効果だけでなく、二次効果のサインも拾える
    • 「非線形挙動」の初期把握に有効
  • 早期リスク把握
    • 相乗効果や拮抗効果を早期に検出
    • 後続工程でのトラブルを未然に防止

DSDを用いた実施手順

  1. 因子(材料・工程条件など)の選定
  2. 各因子の水準(−, 0, +)設定
  3. DSDプランの作成(統計ソフトやRパッケージを利用)
  4. 実験の実施&応答(レスポンス)測定
  5. 回帰モデルの推定(主効果+二次効果項)
  6. 重要因子の同定とレベル最適化
  7. 検証実験によるモデル精度評価

サンプル:錠剤製剤の因子設計例

因子コード因子名− レベル0 レベル+ レベル
X1バインダー含有量 (%)1.02.03.0
X2崩壊剤含有量 (%)2.04.06.0
X3潤滑剤(Mg-St)(%)0.20.50.8
X4打錠圧力 (kN)81216
X5乾燥温度 (℃)405060

この5因子DSDなら、わずか 7~9回 の実験で主効果+二次効果の検証が可能です。


ケーススタディ:錠剤崩壊時間の最適化

  1. 実験の目的:
    • 錠剤崩壊時間を5 分以内に
  2. 応答(Y):
    • USP法による崩壊時間
  3. 試験結果の要約
    • X2(崩壊剤量)とX4(打錠圧力)が主効果で大きく寄与
    • X1²(二次効果)も検出、バインダーの過剰量は崩壊時間を延長
  4. モデルに基づく最適点:
    • X1=1.8%、X2=5.5%、X3=0.5%、X4=10 kN、X5=50℃
  5. 検証:
    • 最適条件下での崩壊時間=2.7 分(目標達成)

DSD適用時の注意点・ポイント

  • 因子は開発ステージ初期に絞り込む
  • DSDはすべての交互作用を検出できるわけではない
  • 実験ノイズを抑えるため、実験バラツキ管理を徹底
  • モデルの外挿には要注意:最適化後は中心複合計画(CCD)などで精緻化を

あとがき

決定的スクリーニング計画の活用例を実務に即して紹介したいと思っていたが、第一線を退いた今の私には「実験データ」がないので、非常に簡単な架空の事例になってしまった。この程度であれば、実際にはDSDを使うまでもなく、基本的な知識や経験だけで目的を達成することが可能である。DSDは、もっと複雑な製剤処方、例えば徐放性製剤やDDS製剤の処方設計に有効である。

決定的スクリーニング計画は、製剤開発の初期段階で「リソースを抑えつつ因子スクリーニング」を行うのに強力な武器となる。

主効果に加え、二次効果まで捉えられる点が最大の魅力となる。最適条件発見後の精緻化ステップと組み合わせれば、スピーディで堅牢な処方設計が実現するはずである。

―――――― 次のステップとして、

  • 中心複合計画(CCD)による定量的最適化
  • 混合設計を使った複合エキス配合割合の解明
  • 機械学習を用いた高次元データ解析

などにも是非、挑戦してみてほしい。製剤開発研究が”科学”であることをきっと実感できるはずである。私の恩師、朝比奈菊雄先生が「統計学をよく勉強しておくように!」と助言して下さったが、製剤開発を楽しむことができたのは科学と共に歩むことができたからかも知れない。先生を偲ばずにはいられない。