はじめに
配合剤とは、同じような薬効又は異なる薬効を有する有効成分を2 種以上含有する医薬品のことをいう。米国FDAの定義でも「配合剤 Fixed dose combination(FDC)は、1製剤中に有効成分を2種以上含有する医薬品」であるとされている。
日本とは異なり、米国では患者の便宜を考慮して、一つのカプセルや錠剤に複数の薬剤を含めることが一般的である。つまり配合剤とすることで、服用回数が減り、患者の服薬管理が容易になるなど患者にとっての利便性が向上すると考えられている。
米国で医薬品の配合剤の種類が多い理由の一つは、米国の規制当局であるFDA(アメリカ食品医薬品局)が、複数の成分を含む医薬品の承認プロセスを緩和していることである。この規制緩和によって製薬会社は多くの配合剤を市場に投入できるようになっているからである。
このような日米の薬事規制の違いは、医療制度や文化的な要因の違いによるものであり、どちらのアプローチも患者の健康を最優先に考えていることに違いはない。
配合剤開発の目的
配合剤は、次のようなメリットがあり、患者さん(顧客)に意義のある価値を提供するもと確信している。
- 薬効の向上
- 副作用の軽減
- 合計薬価負担の低減
- アドヒアランス(治療継続)の向上
一方、企業(開発者)の観点からみても新薬の開発に比べて開発コストが安く、開発中止のリスクも低く(副作用・薬害等のリスクは相対的に低いため)、安定的にかつ長期にキャッシュフローをもたらすというメリットがある。適応症拡大と並び医薬品のライフサイクルマネジメントに欠かせないものとなっている。
技術的課題
配合剤を製剤開発する際における技術的課題は、次のようなものです。
安定性の関する課題
- 有効成分同士が配合禁忌
- 片方の有効性分が他方の有効成分の製剤化に必須な添加剤と配合禁忌
錠剤サイズに関する課題
- 各有効成分の用量に大きな差があり,かつ,配合禁忌のために多層錠にすると服用可能な錠剤サイズにならない(小型化が必要)
生物学的同等性に関する課題
- 含量違いの製剤の開発(処方変更の度合が小さい製剤の要望が強い)
- 有効成分の各単剤の溶出挙動が異なる
- 即放性製剤と徐放性製剤の組合せ
課題解決のための製剤学的工夫
上記のような技術的課題を製剤学的工夫により解決できる方法として下図のような剤形を提案したいと思う。
Encapsulation(複数製剤をカプセルに充填)
Encapsulationは、複数の製剤を一つのカプセル殻に充填したものである。
既承認の複数製剤(錠剤または顆粒剤)をそのまま使用可能である。充填する製剤は錠剤でも顆粒剤でも構わない。即放性製剤と徐放性製剤の組み合わせもOKである。
生物学的同等性(Bioequivalency; BE)の証明が容易で、開発リスクも低いという利点がある。一方、欠点としては充填する錠剤が大きいとカプセルサイズも大きくなる。生産能力は、カプセル充填機の性能しだいだということを念頭にいれておく必要がある。
Mono tablet(通常錠剤)
Mono tabletは、通常の錠剤のことである。通常の製造設備で生産可能で、製造コストが最も安いというメリットがある。したがって、配合剤の開発に限らず、まずはこの剤形で製剤化を試みるのが普通である。
しかしながら、配合する有効成分同志が配合禁忌でない場合または適切な安定化剤が利用できる場合にしか利用できないという弱点がある。
Bilayer tablet(二層錠)
Bilayer tabletは、二層錠のことであるが、この剤形を採用すると各オリジナル処方をそのまま使用することが基本的に可能である。
このことは、処方変更度合を小さくできるという利点があり、 含量違いの製剤開発を開発する際に有用である。うまく製剤設計すれば、含量違いの製剤同士のBEは溶出試験のみで証明することが可能な場合がある。
また、有効成分同士又は片方の有効性分が他方の有効成分の製剤化に必須な添加剤と配合禁忌の場合、物理的隔離が可能であるので安定化に寄与する。
三層錠にして完全に分離させるというアイデアもあるが、三層錠の生産の困難さは二層錠の比ではないのでお勧めしない。
短所としては、一方の有効成分層が大きいと、錠剤がさらに大きくなるということがあります。その理由は、二層打錠機の機能に起因する。A層とB層から成る二層錠を製造したい場合、通常、A層とB層の体積比が1:1になるようにするのがベストである。それができない場合には、A層とB層の体積比がせめて2:1以内にしないと二層錠の質量コントロールが難しくなる。
糖尿病治療薬として欧米でよく使用されるメトフォルミン錠の用量は、500 mg、850 mg または1000 mgである。このメトフォルミン錠との配合剤を二層錠で製剤設計しようとすると、普通の人では飲めないような大きさの錠剤になってしまう。
Press-coated tablet (有核錠)
Press-coated tablet(Tablet-in-tablet)は、有核錠のことである。この剤形を採用すると有効成分同士が配合禁忌の場合、物理的隔離が可能である。核錠にフィルムコートを施せば完全な物理的隔離が可能となる。また、即放性外殻部と徐放性核錠部の組み合わせも可能である。
しかしながら、高度な製剤技術と設備投資が必要で、核錠の有効成分の用量が多い場合には錠剤が大きくなるという短所がある。
API coating for an IR portion(即放部)
API coating for an immediate release (IR) portionは、フィルムコート層に一方の有効成分を含有させたものである。
この剤形を採用すると、核錠には既承認の製剤をそのまま使用することが可能である。配合禁忌かつ用量が異なる有効成分の組合わせの場合、用量の大きな錠剤サイズに近似できるので、結果として製剤の小型化に寄与する。
また、即放性製剤と徐放性製剤(核錠)の組み合わせに最適な剤形と言えるかも知れない。何故、最適かというと徐放性製剤の錠剤をそのまま加工せずに核錠として使用できるからである。この場合、核錠が徐放性で、フィルムコート層が即放性である必要がある。残念ながら、反対の場合には実現できない。
短所としては、被覆部すなわちフィルムコート層は、薬物含量(用量)が比較的少ない場合に限る。30mgを超えるような場合は、不向きである。通常は、10mg以下の場合に採用したい剤形である。
Bull’s eye tablet
Bull’s eye tabletは、上面外観が牛の目玉のような形状に見えることから名付けられた剤形である。有核打錠機を用いて製造することができる。
この剤形を採用すると、各オリジナル処方を原則、そのまま使用することが可能である。処方変更度合を小さくできるので、含量違いの製剤を開発する際に威力を発揮する。
また、配合する有効成分が配合禁忌の場合、物理的隔離が可能ですので、安定化に寄与する。
さらに、有効成分の用量差が大きくても柔軟に製剤設計が可能という特長を有している。しかしながら、生産には高度な製剤技術と設備投資が必要となる。
あとがき
上述したように、実用化可能な(利用可能な)製剤技術による配合剤(経口固形製剤)のための剤形を紹介した。配合剤を製剤設計する場合にはこのような剤形を利用すると技術的課題を解決できる場合が多い。ただし、複雑な形態であればあるほど高度な製造技術が必要になるのは言うまでもない。
日本では単剤の医薬品が多く使われる傾向にあり、患者もだまって複数の錠剤を服用することが一般的である。しかしながら、必然的に併用すべき薬剤の配合剤、あるいは汎用される薬剤の配合剤が登場すれば、選択肢が増えることになる上、患者にとっても経済的なメリット(通常、配合剤の薬価は単剤の薬価合計よりも低く設定されるため)もある。将来、当局の規制緩和があれば、日本でも米国のように配合剤が多く製剤開発されるようになるかも知れない。そのような際には、本稿で紹介したようなアイデアが製剤設計の一助になるはずであると確信している。