はじめに
錠剤の製造工程では、一次包装前に100%外観検査を受け、不良品を徹底的に排除する。外観不良品が市場に流出すると、服用者(患者)の信頼低下はもちろん、異物混入リスクや規制当局からの指摘につながるため、製造現場では最も重要視される検査工程の一つである。
本稿では、外観全数検査で主に取り除かれる代表的な外観不良(Defect)の種類を整理し、発生原因と現場で実践可能な対応策について取り上げたい。
<目次> はじめに 外観全数検査の概要 代表的な外観不良(Defects)の種類 Defects発生の主な原因と対応策 チップ・欠け 割れ・クラック 色ムラ・離色 印字不良 異物付着 汚れ・斑点 寸法外・厚み異常 AI搭載の外観検査機で異物検出率が向上 あとがき |
外観全数検査の概要
- 検査方法:
- カメラやレーザーを搭載した錠剤自動検査機による高速自動選別
- 検査対象項目:
- 形状、色調、印字、異物・汚れ、寸法
- 合否判定基準:
- SOPに定められたNGサンプル画像と比較し、自動で排除
- データ管理:
- 検査結果はバッチレベルでトレーサビリティを保持する
代表的な外観不良(Defects)の種類
錠剤の外観全数検査で排除されることが多い代表的な外観不良(Defect)の種類を下表にまとめてみた。
外観不良の種類 | 具体例 | 外観不良の原因 |
---|---|---|
チップ・欠け | 錠剤端部の破損、 小片の剥離 | 打錠工程の操作条件 |
割れ・クラック | 錠剤中央からの亀裂、 ヒビ割れ | 打錠工程の操作条件 |
色ムラ・離色 | 表面一部の色濃淡、 不均一 | コーティング条件 |
印字不良 | ロゴ欠損、文字ずれ、 かすれ | 印字位置・インク量 |
異物付着 | 金属粉、繊維、樹脂片 | 装置内部清掃、 ライン保守 |
汚れ・斑点 | 原料粉末や油分の付着、 黒点 | 残留溶剤、水分管理 |
寸法外・厚み異常 | 規定外の直径・厚み | 打錠工程の操作条件 |
Defects発生の主な原因と対応策
チップ・欠け
- 発生原因
- 原料粉末の極端な粗大粒や異硬度粒子の混入
- 過剰な打錠圧や金型クリアランスの不適合
- 対応策
- 原料受入検査で粒度分布をモニタリングし超過品を除外
- 打錠パラメータ(圧縮力・予備圧縮力)をDoEで最適化
- パンチ/ダイ摩耗の定期点検・交換
割れ・クラック
- 発生原因
- 水分含量が規定より高く内部応力が解放
- 打錠速度が速すぎて粉体流入が不均一
- 対応策
- 粉砕後と混合後の水分最終チェック(Karl Fischer法)
- 打錠速度と圧縮プロファイル(二段圧縮)の見直し
- 金型冷却装置の導入による熱蓄積防止
色ムラ・離色
- 発生原因
- コーティング溶液の粘度変動や分散不良
- 乾燥温度・風量のムラによる層厚不均一
- 対応策
- 塗布液の粘度・固形分濃度のオンライン制御
- 乾燥トンネル内の温湿度センサー増設とゾーン別制御
- ロッド搬送速度と回転数の同期最適化
印字不良
- 発生原因
- インクの粘度劣化やノズル詰まり
- 打錠体の表面粗さ変動
- 対応策
- インクロットごとの品質テスト(粘度、乾燥時間)
- 印字機ノズルの定期洗浄・エアブロー
- 打錠後の外観バリ取り工程で表面均一化
異物付着
- 発生原因
- ライン搬送部の粉塵
- 人為的カートリッジ交換時の混入
- 対応策
- 設備清掃SOP(CIP/SIP)と清掃効果確認テスト
- 作業員のGMP教育強化+交換手順マニュアルの徹底
汚れ・斑点
- 発生原因
- 設備内部の金型潤滑油飛散
- 対応策
- 潤滑油は最小量使用+カバーで飛散防止
寸法外・厚み異常
- 発生原因
- 原料ブレンド比のばらつき
- 打錠機のストローク調整ズレ
- 対応策
- フロー計測装置(マスフローコントローラ)で混合比をリアルタイム監視
- 打錠機ストローク位置の自動校正機能活用
- SPC(統計的工程管理)でトレンド分析とアラート設定
AI搭載の外観検査機で異物検出率が向上
錠剤検査機(従来機)のカメラ検査では繊維状異物の検出率が十分でない場合があり、市場からのクレームが増加するといった状況である。
そのような場合は、深層学習ベースの画像解析AIを併用し、数千枚のNG/OK画像で学習させると、異物検出率が98%に向上し、検出漏れによるリコールリスクを大幅に低減できたという報告がある。
現在では、錠剤検査機にもAIが搭載される時代になったということであろう。AIの活用は私の予想をはるかに超え、多岐にわたっている。
あとがき
錠剤の外観不良(Defects)にはいくつかの種類があるが、特に多く見られる一般的なDefectsには以下のようなものがある。
- 割れ・欠け
- 製造過程や輸送中に錠剤が割れたり、欠ける
- 色むら・変色
- 錠剤の色が均一でない、または変色している
- 異物・汚染物質の付着
- 異物や汚染物質が錠剤表面に付着している
- 刻印や印字の不鮮明さ
- 錠剤に施された刻印が読みにくい
- 錠剤表面の印字が読みにくい
- サイズや形状の不均一
- 形状やサイズが規格外なもの
- 糖衣錠では起こり得るDefectsである
外観不良(Defects)の発生原因には多くの要因が考えられるが、一般的にDefectsの原因として考えられるものには下記のようなものがある。
- 製造装置の不具合
- 打錠機やコーティング機の操作条件の調整不良
- 原材料の品質問題
- 賦形剤や原薬の品質が影響している場合もある
- 輸送・保管条件
- 湿度や温度の変動により変質や破損が発生する場合もある
- 操作ミス
- 製造工程中の人的エラーが原因となる場合もある
そこで、外観不良(Defects)を防ぐためには、以下のアプローチが効果的である。
- 製造設備の定期メンテナンス
- 打錠機、コーティング機の定期点検でトラブルを防ぐ
- 高品質原材料の調達
- 安定した品質の原材料を確保(調達)
- 環境条件の管理
- 適切な温度・湿度を保った輸送と保管
- 人材育成
- 従業員の教育訓練
- 製造工程の見直し
- AI搭載錠剤検査機による検査の高度自動化
- 高精度な外観検査装置を導入し、不良品検出率の向上
錠剤の外観検査は、患者の安全と製品の信頼性確保に欠かせないステップである。外観不良を最小限にするために、製造プロセス全体の最適化とともに、原因分析を定期的に行うことが重要である。安全で高品質な医薬品を提供するために、製造現場だけでなく会社全体での品質への取り組みが求められると思う。
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