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トラブルシューティング 製剤技術 錠剤

糖衣錠の糖衣コーティング工程が起因の外観不良の種類及びその原因と防止策!

はじめに

糖衣錠【とういじょう】(Sugar-coated tablets)は、錠剤の周りを白糖や糖アルコールの緻密な結晶層で被覆した製剤形態で、菓子のドラジェ技術を応用して苦味や臭いをマスキングし、服用性や安定性を向上させた錠剤を指す、経口固形製剤の剤形の一種である。

糖衣コーティング(Sugar Coating)は、かつては厚膜・光沢・優れたマスキング性を誇る最古のコーティング(被覆)技術であったが、現代の製剤開発ではフィルムコーティングにとって代わられた印象が強い。つまり、コーティングが必要な新規医薬品の製剤開発ではフィルムコーティングが第一選択肢となっている。

しかしながら、糖衣コーティングが有する独自の長所により、次のような特殊性を求めるケースでは今なお有効な選択肢であることには変わりがない。

  • 服用しやすさ
  • 強力な苦味・臭気マスキング
  • 厚膜による高い耐湿・耐光バリア性
    • 経時安定性向上
  • 高グロスな装飾性・ブランド差別化
  • 口腔崩壊錠向けの速崩壊性(糖アルコール系被覆) など

しかしながら、糖衣コーティング工程では、クラッキング(ひび割れ、しわ形成、色ムラなど多様なトラブルが起こりやすく、製品品質や歩留まりに大きく影響する。美的な外観を重視する糖衣錠で引き起こされる外観不良(Defects)は、糖衣錠にとってはある意味では致命的なものとなる。

本稿では、そんな糖衣錠の重要な製造工程である糖衣コーティングにおける主要トラブルを原因別に整理し、処方設計から装置条件、プロセス制御まで包括的に対策を考え、糖衣コーティングが起因とされる外観不良(Defects)の原因となるトラブルを特定し、そのトラブルを未然に防ぐための根本的な防止策について取り上げたいと思う。

目次
はじめに
糖衣錠の開発と進歩の歴史
糖衣錠の特徴
糖衣コーティングの概要
糖衣コーティングの代表的なトラブル
糖衣コーティングでのトラブルの原因
糖衣コーティングでのトラブルの防止策
あとがき

糖衣錠の開発と進歩の歴史

起源・初期

ドラジェ(仏: dragée)と呼ばれる砂糖菓子の技術を薬学に応用し、19〜20世紀初頭には総合ビタミン剤やL-システイン製剤などで糖衣採用が始まったと伝えられている。

20世紀前半

サブコーティング→スムージング→シロップコーティング→ポリッシングの多重工程が確立し、被覆重量は総重量の10%以上にも及ぶ厚膜化技術が発達した。

1960〜70年代

半連続式・連続式コーティング装置が実用化され、1965年頃には米国アボット社のFiLTABフィルムコーターの登場によりフィルムコーティング技術への転換が本格化した。

1990年頃まで

穿孔ドラム(perforated pan)の導入が進み、フィルムコーティングと同様の連続スプレーが可能になり、コーティング時間が短縮されるようになった。また、粒子径制御、プロセスモニタリング、バインダー・可塑剤の最適化など、糖衣プロセス研究の最盛期を迎えた。

1990年代後半

ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)やヒプロメロース(ヒプロキシプロピルセルロース;HPMC)、各種腸溶性ポリマーを用いたフィルムコーティング錠へのシフトが加速し、糖衣錠は次第に主流から遠ざかっていった。

薄膜で効率よく被覆できるフィルムコート技術が実用化し、普及したため、糖衣コーティングの多工程・長時間プロセス(シーリング→下塗り→シロップ→研磨)が敬遠されるようになった。その結果、ほとんどの新規医薬品ではフィルムコーティングが第一選択肢となった。

1995年頃〜

口腔内崩壊錠(ODT)の実用化に伴い、糖アルコール系コーティングによるODT製剤が多数上市されることに伴い、糖衣コーティング技術の新たな応用領域となった。

21世紀以降

流動層コーターの導入による流動層コーティングや機能性ポリマーを組み合わせた多層被覆技術、連続製造プロセスへの適用など、多様かつ効率的なコーティング戦略が開発されている。

QbDアプローチやPAT を活用したリアルタイムモニタリング などにより、従来ネックだった「長時間化」と「バッチ間変動」が大幅に改善し、糖衣技術のニッチ需要が再燃している。

このように糖衣錠の開発と進歩の歴史を振り返ると、現代ではほとんどの新規医薬品では効率性・環境負荷低減の観点からフィルムコーティングが優先されている。

しかしながら、強力な苦味マスキングや厚膜・装飾性が不可欠な製剤、ODTなど「用途特化型製剤」では糖衣コーティングは今もなお必要かつ有用な技術であると言える。


糖衣錠の特徴

糖衣錠は、その構造に特徴がある。糖衣層は、錠剤総重量の約50%以上を占めることが多く、シールコーティング→下掛け層→上掛け層→艶出し層(光沢仕上げ;Polishing)などの複数工程を経て、完成までに約5日間も要する大変な製造工程である。

構造以外の糖衣錠の特徴には以下のようなものがある。

  • マスキング効果
    • 苦味や不快な臭いを強力に覆い隠せるため、飲みやすさが大幅に向上する
    • フィルムコーティング以上のマスキング効果あり
  • 分解抑制・安定性向上
    • 白糖や糖アルコールの緻密な結晶層が水分・光の侵入を遮断し、薬効成分の分解を防止する
  • 服用性改善
    • 滑らかな光沢と丸みある外観が嚥下しやすさを助け、患者の服薬アドヒアランスの向上が期待できる
  • 識別性・外観向上
    • カラー顔料や光沢剤を加えた美しい仕上がりで、製品の視認性・ブランドイメージを強化できる
  • 放出プロファイルの制御
    • 糖衣層の厚みや組成を調整することで、徐放性や遅延放出など多様な放出挙動の設計が可能

糖衣コーティングの概要

糖衣コーティングは、核錠に「白糖や添加剤を含む糖衣液」を噴霧し、層を重ねながら外観や安定性を向上させる独特のプロセスである。一般的な糖衣コーティングは、以下のような5ステップで構成される。

各工程で「溶液温度」「スプレー体積」「ドラム回転速度」「乾燥風量・温度」を厳密に制御することが高品質製造の鍵です。

1.  シールコーティング (Seal Coating)

核錠への水分侵入を防ぎ、以降の糖衣コーティングによる糖層との密着性を高めるためのバリア層を形成するための工程である。この工程により、核錠が湿気や外的要因から保護され、糖衣コーティング液が核錠の表面に均一に塗布されるようになる。

2.  サブコーティング (Sub Coating)

核錠を目標の形状やサイズに整えるためのステップである。特に核錠の角が丸くなるように層を追加し、以降の糖液を安定して積層できるようにするのが目的であり、これにより錠剤の強度を高まる。この工程は「下掛け」とも呼ばれ、その層は「下掛け層」とも呼ぶことがある。

3.  スムージング (Smoothing)

サブコーティングによって残った粗い凸凹表面を滑らかにする工程である。この工程で甘味や厚みを付与し、最終的な仕上げ工程での色や光沢がきれいに表現される準備が整う。この工程は「上掛け」とも呼ばれ、その層は「上掛け層」とも呼ばれる。

4.  カラーリング (Color Coating)

錠剤に色をつける工程である。製品の識別性や見た目の向上のために行われる。必要に応じて着色顔料を添加し、色ムラのない均一な色合いを得ることが重要である。

5.  光沢仕上げ (Polishing)

最後に、錠剤に光沢を与えて見た目をさらに良くする工程である。この工程では、錠剤の表面が滑らかな鏡面化して、光が反射するように仕上げることがポイントとなる。

タルクなどの光沢剤を含む層で表面をなめらかにした後、最終的な乾燥と研磨を行い、錠剤表面に艶を与える。この工程は「艶だし」とも呼ばれ、その層は「艶だし層」とも呼ばれる。


上記の各ステップおいては、下記のようなプロセスパラメータを厳密にコントロールすることが高品質な糖衣錠を製造するための鍵となる。

  • 糖衣溶液の温度
  • 噴霧速度
  • ドラム回転速度
  • 給気風量
  • 給気温度、など

そして、上記各ステップでの溶液組成、乾燥温度・風量、回転速度などのパラメータが、糖衣コーティング工程でのトラブル発生のリスク因子となる。


糖衣コーティングでの代表的なトラブル

糖衣コーティング工程での代表的なトラブルの種類には、下表のようなものが知られている。

桃皮様Peach skin
糖衣表面がオレンジの皮のように細かな凹凸がある現象。マットなざらつき感が強い状態を指す。
しわWrinkling
糖衣層が収縮して細かいしわが発生している現象。しわの発生は錠剤のエッジ部や平坦面に集中しやすい。
クラッキングひび割れCracking
糖衣層に直線的または網状のクラックが走り、糖衣層が割れたように見える現象。
剥離Peeling)・層間剥離Delamination
糖衣層同士、または基材との接着不良で部分的に剥がれ落ちる現象。
ピンホール(Pinhole)・ポッティング(Pitting)
表面に直径数十μm~数百μmの小さな穴や凹みが多数発生する現象。
色ムラColor Mottle;Mottling)
着色の不均一による斑点状の濃淡パッチが現れる現象。
チッピング欠けChipping
糖衣層の端部やエッジ部が欠けたり、糖衣層が剥がれて鋭い断面が露出する現象。
スティッキング(Sticking)・ツインニング(Twinning)
湿度過多や糖衣液量過多で、乾燥中に錠剤同士がくっつき、剥がすと表面が荒れる現象。
光沢不足(Dull Finish)
本来のツヤ(鏡面光沢)が得られない現象で、粉っぽくフラットな見た目を指す。
フロスティング/粉吹き(Blooming)花が咲く/汗をかく
表面が白っぽく粉を吹いたように見える 現象。
しみ/よごれ(Staining)・異物付着(Contamination)
他の錠剤片や粉塵、乾燥中の浮遊物が付着して黒点や斑点が生じる現象。

糖衣コーティングでのトラブルの原因

糖衣コーティングでの各トラブルの原因について、下表にまとめてみた。

桃皮様Peach skin
糖衣液中の粒子サイズ不揃いや乾燥条件の過不足
しわWrinkling
糖衣膜の伸長性不足や乾燥速度が速すぎる場合に起きやすい。糖衣液の粘度が高すぎたり、過乾燥やドラム回転速度が速すぎる場合にも発生。
クラッキングひび割れCracking
糖衣液の収縮応力、核錠成分による膨張収縮差が原因と考えられる。
製造室の温湿度変動などによる、糖衣層の急激な吸湿膨張や、錠剤内部の層間応力の変化が原因であるのは間違いない。
剥離Peeling)・層間剥離Delamination
シールコーティングの不備(密着不良)や下がけ層(サブコーティング)の乾燥不足
ピンホール(Pinhole)・ポッティング(Pitting)
糖衣液中の気泡や粉塵付着が原因。噴霧速度が速すぎる場合や、乾燥時の給気風量が不足している場合にも発生する。
色ムラColor Mottle;Mottling)
糖衣液中の顔料の分散不良(顔料沈降など)や、スプレー液の吹付ムラ(不均一)が原因。温湿度変動による乾燥挙動差やスプレーノズルの詰まりが原因である場合もある。
チッピング欠けChipping
糖衣コーティングの乾燥中や輸送時の衝撃や、糖衣錠基剤強度の不足が原因。下掛け層が不足している場合や糖衣層間の密着不良(接着力低下)が原因である場合もあり得る。
スティッキング(Sticking)・ツインニング(Twinning)
給気量や給気温度の低さによる過剰な湿度や、過剰な噴霧速度による糖衣液量の過多が原因。逆に、給気量や給気温度が高すぎる場合に錠剤表面の温度が急上昇して糖衣膜の粘着性が急増大することが原因となる場合もあり得る。
糖衣液(シロップ)量が過剰(スプレー過剰)、核錠の硬度不足、乾燥不足で片面接触増大(乾燥不十分で表面がベタつく)、ドラム充填率過多など原因が多いこともトラブルの頻度を高めている要因である。
光沢不足(Dull Finish)
光沢剤(ポリッシュ剤)の配合不足や研磨(Polishing)不足/不全
フロスティング/粉吹き(Blooming)花が咲く/汗をかく
貯蔵中の高湿環境下で結晶成長(糖析;糖分再結晶化)、保存環境の湿度変動
しみ/よごれ(Staining)・異物付着(Contamination)
糖衣コーティング中または糖衣コーティング後の汚染

糖衣コーティングでのトラブルの防止策

糖衣コーティングのトラブルは、処方設計、糖衣液の物性、糖衣コーティング装置の操作パラメータや環境条件が複雑に絡み合って発生する。

これらのトラブルの根本的な解決策は、QbDの視点で要因(原因)を抽出し、DoEを活用して各パラメータを最適化する。そして、スケールアップして検証を徹底し、製造現場に適用可能なモニタリング管理戦略を構築することが求められる。つまり、すべてのトラブルを防止するには、糖衣溶液の組成プロセスパラメータ設備メンテナンスなどを統合的に管理することが不可欠となる。

一方で、製造現場で発生してしまったトラブルを速やかに解決するためのトラブルシューティングも必要である。しかしながら、糖衣コーティングではそんな都合のよいトラブルシューティングでやり直しがきく事態は数少ない。失敗すれば、廃棄されることに繋がりかねない非常に「厳しい」工程が続く。糖衣コーティングが最近の新薬の製剤開発では敬遠される理由がここにある。

一般的に発生しやすいされる糖衣コーティングでのトラブルの防止策について、下表にまとめてみたので参考にしてほしい。

桃皮様Peach skin
・糖衣液中に含まれる不溶性原料の粒子分布(規格)を見直し、ロット間バラツキも小さくする
・乾燥条件の見直し、乾燥の過不足を回避する
しわWrinkling
・糖衣液の粘度管理 (適切な粘度を見出し、それを維持)
・乾燥時の給気風量の調整 (風量を増やして表面乾燥ムラを低減)
・ドラム回転挙動の改良 (糖衣層厚を均一化するために必要)
クラッキングひび割れCracking
・シールコーティングの密着性を高め、糖衣層と核錠間の水分バリアを強化する
・スプレーと乾燥のサイクル間隔確保(糖衣液噴霧→乾燥のサイクル間隔を十分に取り、急激な水和膨張を抑制する)
・製造室の温湿度を安定化させ、ドラム内局所の高湿化を防ぐ
剥離Peeling)・層間剥離Delamination
・下掛け層(サブコーティング)を最適化する
・結合剤濃度を調整し、適切な粘着力を付与させる
・溶媒を使用している場合は、溶媒選択(例えば、エタノール比率)で乾燥速度をコントロールする
・乾燥条件の見直し (給気温度と排気温度のバランスを最適化)や段階的乾燥を試みる
・ドラムの回転速度を低減させ、衝撃を少なくする
・糖衣層の乾燥中での衝突を低減​させ、剥離リスクを抑制する
ピンホール(Pinhole)・ポッティング(Pitting)
・糖衣液中のエアリーション(気泡)除去
・溶液脱気装置の導入
・乾燥パラメータ(給気温度、給気風量など)の最適化
・スプレー速度の制御 (噴霧速度を遅くして層あたりの溶液量を一定化)
色ムラColor Mottle;Mottling)
・着色剤(顔料)の分散強化(超音波分散または高剪断ミキサーを使用)
・顔料の分散性を向上(撹拌強化や懸濁化剤などの添加)
・スプレーノズルの選定(圧力制御でミストを細かく均一化)
・スプレーノズルの点検 (スプレーノズル径を定期的にクリーニング)
・操作条件の最適化により、ドラム内の温湿度を安定化させ、糖衣液の乾燥挙動を一定化させる
・着色糖衣コーティング回数の増減 (薄層多層塗布で色均一性を向上)
チッピング欠けChipping
・シールコーティングを適正量噴霧し、核錠表面と下掛け層の密着性を高め、水分バリア性を向上させる
・シールコーティング量を増やし、核錠表面のバリア機能を強化する
・下掛け層に適切な結合剤を配合し、十分な接着力を確保する
・操作条件(ドラム回転速度、スプレー圧、噴霧速度、ノズル径など)を最適化し、糖衣液の過付着や過乾燥を防止する
・給気風量や給気温度を一定に保ち、糖衣層の脆化や過乾燥を防ぐ
・噴霧–乾燥サイクル間隔を十分に取り、急激な水和を抑制する
・製造設備周辺の温湿度を一定に保ち、ドラム内の高湿度域を消す
スティッキング(Sticking)・ツインニング(Twinning)
・糖衣コーティング条件の最適化 (噴霧速度を調整し過剰湿潤を防止)
・錠剤間遊隙管理 (回転速度を最適化し、接触時間を最小化)
・付着防止剤添加 (可能なら、ステアリン酸マグネシウムを少量配合)
・糖液の量・粘度を調整し、過剰な液付着を防止
・核錠硬度を規格管理、ドラム回転や撹拌状況を最適化
・ドラム回転速度と撹拌状態を最適化して錠剤同士の接触時間を最小化
・ドラム充填率を適切に抑制(充填率を低く設定)し、錠剤同士の接触を低減させる
・スプレー量や糖衣液の粘度を適正化し、乾燥条件を徹底的に管理する
光沢不足(Dull Finish)
・処方設計時に光沢剤(ポリッシュ剤)の配合を最適化する
・研磨(Polishing)を十分な鏡面光沢が得られるまで実施する
フロスティング/粉吹き(Blooming)花が咲く/汗をかく
・シールコーティングの封止性を高め、水蒸気透過を抑制する
・仕上げ工程でタルクなどの光沢剤を併用し、表面からの直接吸湿を防ぐ
・低湿倉庫での保管、梱包時の乾燥剤併用で周辺湿度を管理する
しみ/よごれ(Staining)・異物付着(Contamination)
・糖衣コーティング中の汚染は、過乾燥による粉塵化を防止する
・糖衣コーティング後の汚染は、一次保管中の環境や保管場所に配慮する

あとがき

私は、大学を卒業後、ドイツ・バイエル社の子会社であるバイエル薬品(株)に入社して、数年が経過した頃、直属の上司であった上原峯彦さんの計らいで、経口固形製剤や注射剤などの実際の製造方法や製造工程を学ぶために吉富製薬の吉富工場で約6カ月間も研修を受ける機会を得た。

この恵まれた研修機会は、後のドイツ・バイエル社の製剤研究所での研修機会と共に私の製剤技術研究者としてのかけがえのない知識と貴重な経験を得る機会を与えてくれた。

本稿で取り上げた糖衣コーティングもその一つである。私は、自分が製剤設計した医薬品には糖衣錠を採用したことは一度もなかったが、吉富工場での糖衣コーティングの経験は、製剤技術のKnow-How、いわゆる「職人技」を学ぶ貴重な機会でもあった。親切に教えて下さった製剤技術者やオペレーターの方々には今でも感謝している。

本稿を書こうと思った動機は、彼らが生み出したトラブルシューティングに対する知恵やKnow-Howを現代の製剤技術研究者にも伝え残しておくべきだと考えたからである。そして、当時の私の研修ノート(研修日報)を読み返しながら書き始めてみた。しかしながら、オペレーターの熟練の技を文章化することは容易ではない。

糖衣コーティングは当時の私にはある種の「職人技」あるは「芸術」のように見えていたようで普遍的な「製剤技術」とは捉えていないような所感が多いのがその理由である。特に、「下掛け」工程(サブコーティング;Sub Coating)が最もトラブルが発生しやすく、このステップに着目すべきなのであるが私には上手く描写することはできなかった。結局は上辺だけの安っぽい記事になってしまったと反省している。

もう少し私に文章力がついたら、「下掛け」工程の下掛け液と散布粉のかけ方(タイミングと量)のノウハウ描写にチャレンジしてみたいと思う。現在の糖衣コーティングはどのように自動化されているのか私は知らないが、私の知る「下掛け」工程はまさしく熟練者による職人技・芸術であった。この「下掛け」工程が成功すれば糖衣コーティングもフィルムコーティングと同様、あとはパンコーターが自動的にシロップ(糖衣液)をかけてくれるので仕上がりを待つだけのようになる。つまりは、「下掛け」工程が肝ということである。

私の想い出話が続き、読者に辟易されないよう、この辺で書くのやめておこう。続きは、別の機会にしたいと思う。

尚、吉富製薬・吉富工場は、吉富製薬が田辺三菱製薬グループに統合された後も、一貫して「田辺三菱製薬工場 吉富工場」として継承され、国内外の医療用医薬品供給を支えている。

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